米国株の大幅安に押されるが、為替の円安進行を支援に相対的には底堅い展開に

 直近1カ月(4月18日~5月13日)の日経平均株価は1.4%の下落となりました。半月ぶりに2万7,500円水準を回復した後は戻り売りが優勢の展開になり、5月12日にかけて2万5,688円にまで一時下落、3月16日以来の安値水準まで調整しました。

 ただ、同期間において、NYダウは6.4%の下落、ナスダック指数は11.5%の下落であったため、為替の円安効果もあってか、相対的に日経平均は底堅い動きとなった格好です。なお、マザーズ指数に関しては年初来安値を更新しています。

 国内ではゴールデンウイークを挟む期間となったわけですが、この間には主要企業の決算発表が本格化するほか、FOMC(米連邦公開市場委員会)の開催なども予定されていたため、4月後半にかけてはポジション整理による換金売りの動きが優勢となりました。

 同期間においては、インフレ懸念やFRB(米連邦準備制度理事会)の金融引き締め策強化への懸念から米国株が主要ハイテク株中心に大きく売り込まれました。この影響で、国内でもグロース株はさえない動きとなり、マザーズ指数の安値更新などにつながりました。 

 FOMCでは想定通り0.5%の利上げが決定され、直後はあく抜け感なども強まりましたが、すぐにインフレ抑制には不十分とのネガティブな反応が優勢になってしまっています。一方、ゴールデンウイークに向けドル/円相場は一時131円台にまで上昇し、輸出関連の一角などには支援材料となりました。

 この期間で下落が目立ったのが中小型グロース株で、マネーフォワード(3994)JMDC(4483)ラクス(3923)SHIFT(3697)など関連の代表格が下落率上位に名を連ねています。また、決算発表、主に新年度の業績見通しを嫌気して、住友金属鉱山(5713)OLC(4661)NTTデータ(9613)なども売られました。

 検査データの不正が明らかになった日本製鋼所(5631)も一時急落する展開になっています。一方、フジクラ(5803)トプコン(7732)TIS(3626)神戸製鋼所(5406)オリンパス(7733)などは決算内容が好感されて上昇率上位となっています。

 ほか、日立物流(9086)日立(6501)の保有株売却方針が買い材料視され、LIXIL(5938)など製品値上げの発表が買い材料視されるものもありました。ヤマダHD(9831)は高水準の自社株買い発表がポジティブサプライズと受けとめられました。

目先はグロース株主導のリバウンド局面へ、中期的にインバウンド関連に注目も

 一段のインフレ進行に対する懸念は依然として残りますが、米FOMCやCPI(消費者物価指数)発表などを通過して、当面のリスクイベントは峠を越えた感があります。ジェローム・パウエルFRB議長の発言などから、今後の米国の利上げ幅が0.75%に高まる可能性も低いとみられます。

 ナスダック指数は年初からすでに25%の下落となっており、短期的なリバウンド局面に入る可能性が高いでしょう。

 また、中国でのコロナウイルス感染者数が順調に減少に向かっていることも支援材料となります。日本株に関しても、円安メリットは低下していく公算ですが、米国株のリバウンドを背景として反発力が強まっていく展開を想定します。円安水準から円高に向かう局面では為替差益が膨らむ海外投資家の日本株買いの動きにも注目が集まります。

 物色としては、短期的にはグロース株のリバウンドに注目が集まりそうです。とりわけ、大幅な株価調整を強いられた中小型グロース株には反発余地が大きいとみられます。

 一方、高配当利回りなどのバリュー株も、日本郵船(9101)商船三井(9104)の配当利回り水準は今期予想をベースにしても10%を上回る水準であり、これらを中心とした見直しの動きは強まるものとみられます。2022年3月期の決算発表がほぼ一巡しましたが、想定以上にガイダンスは悪化しなかった印象です。

 原材料価格上昇の価格転嫁は順調に進む見通しであり、半導体不足やサプライチェーン問題による部品調達難の状況に関しても、世界的な経済活動の正常化が進めば、解消に向かっていくと考えられます。原材料高や部品不足の影響を過度に考慮して低調な業績見通しを発表している銘柄などには、徐々に見直しの動きが強まっていくものと考えます。

 インバウンド関連銘柄には今後注目が集まっていくものと考えます。海外渡航者の回復には時間がかかるとの見方から、これまでリオープニング関連でもインバウンド関連には相対的に期待感が高まりにくかったと考えられます。

 足元の円安傾向が継続するとすれば、値頃感に伴う海外渡航者の「爆買い」や国内サービスに対する支出は、日本旅行に制限が掛かってきた反動も相まって、急激な拡大が想定されるでしょう。

 株価調整が進んできたドラッグストアを筆頭に、家電量販店や化粧品メーカーなどに注目したいところです。ほかでは、製品値上げの動きが強まりそうな食品セクター、エネルギー危機への対応が急がれることを背景とした原発関連株、ロシアのウクライナ侵攻で予算拡充が容認されやすい防衛関連株なども期待できそうです。

収益成長力が高いグロース株的な要素も併せ持つ高配当利回り銘柄に注目

 5月13日現在で、2022年3月期の決算発表は大方終了しました。期初の段階から、三井松島(1518)日東工業(6651)など配当利回り水準がサプライズにつながる銘柄も見受けられています。全般的に配当性向引き上げの動きも進んでおり、今後も業績の伸長に伴って、昨年の海運株のように利回り妙味が高まる銘柄が多く顕在化してくる可能性もあるでしょう。

 短期的にはグロース株が全体相場のリバウンドをけん引する可能性が高いでしょうが、世界的に利上げステージに入っていることからも、中期的には高配当利回りなどのバリュー株優位の状況に変化はないと考えられます。

 今回取り上げた銘柄は、配当利回りが高水準であるにもかかわらず、最近の利益成長ペースが高いグロースの要素も併せ持つ銘柄群となります。具体的には、配当利回りが3.5%以上の高水準であり、今期予想を含めた直近5年間の年平均営業利益成長率が10%以上のものとしています。

 商品市況の高騰などで利益水準が実態以上に押し上げられた資源株が多くなるため、今期増益予想の銘柄に絞っています。

株価指標がそろって割安な高配当利回り銘柄

コード 銘柄名 配当利回り 株価 時価総額 予想営業益 5年平均成長率
8584 ジャックス 5.11 3,330.0 1,168 290 18.0
4502 武田薬品 4.90 3,671.0 58,085 5,200 16.6
3132 マクニカ富士エレ 4.32 2,775.0 1,749 390 20.8
2427 アウトソーシング 3.85 1,169.0 1,472 320 23.0
6622 ダイヘン 3.80 3,950.0 1,071 165 10.4
注:配当利回りの単位は%、株価は2022年5月13日終値、単位は円。
時価総額の単位は億円、予想営業益の単位は億円、5年平均成長率の単位は%。
注:平均成長率は営業利益(今期予想含む)
注:配当利回りは会社計画がベース

銘柄選定の要件

  1. 予想配当利回りが3.5%以上(5月13日終値)
  2. 今期予想含めた5年間の平均営業増益率が10%以上
  3. 時価総額が1,000億円以上
  4. 今期営業増益予想

ジャックス(8584・東証プライム)

 クレジット事業やカード・ペイメント事業、住宅ローンなどを扱うファイナンス事業を手掛けています。ASEAN4カ国を中心に海外事業が収益構成比の10%以上を占めます。2008年に20%の出資を受け、三菱UFJグループの一員となっています。

 投資用マンション向け住宅ローン保証残高では業界トップシェアです。業界内ではいち早く、1997年2月にキャッシング上限金利を利息制限法内に引き下げており、過払い金問題が業績に与える影響は極めて軽微です。

 2022年3月期営業利益は267億円、前期比63.8%増となりました。ファイナンス事業やクレジット事業の取扱高が伸長する一方、貸倒関連費用などを中心に営業費用も減少しました。年間配当金は前期比55円増配の160円としています。

 また、2023年3月期は290億円で同8.4%増益の見通しです。住宅ローン残高が順調に拡大しているほか、貸倒関連費用も着実な減少が見込まれます。年間配当金も前期比10円増の170円を計画しています。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2021年3月期は海外事業が赤字に転落し、営業利益も微減益となりましたが、それ以外は安定して10%以上の利益成長ペースとなっています。キャッシュレス決済の普及進展、投資用マンション市場の好調推移などが背景となっています。

 安定した収益成長に伴って連続増配も続いており、中長期的な投資妙味は高いと考えられます。なお、中期計画では2025年3月期経常利益365億円(2022年3月期は268億円)を目指しています。

武田薬品工業(4502・東証プライム)

 国内製薬業界のトップ企業となります。がん、希少疾患、血漿分画製剤、神経精神疾患、消化器系疾患の5つのビジネス領域に注力しています。2019年1月、アイルランドの製薬大手シャイアーの買収を完了、買収総額は円換算で約6.2兆円と、日本企業として過去最高額のM&A(買収や合併)となりました。

 これにより、事業規模は世界トップ10に仲間入りすることになりました。約80の国・地域で事業を展開しています。

 2022年3月期営業利益は4,608億円で前期比9.5%減益となりました。成長製品がけん引して全ての地域で売上が増加していますが、前年度に計上した多額の一過性収入の反動で減益となっています。年間配当金は前期と同様に180円としています。

 一方、2023年3月期は5,200億円で同12.8%増益の見通しとなっています。コア事業の成長に加えて、為替のプラス影響も織り込んでいるようです。ドル/円レートの想定は1ドル=119円としています。また、コロナワクチンは約500億円の売上貢献を見込んでいます。年間配当金は180円の計画です。

 シャイアーの買収関連費用計上などで、2020年3月期にかけて一時営業利益は落ち込みましたが、2021年3月期はこうした費用の一巡に加えて、シャイアーの業績寄与も表面化し急回復の展開になっています。

 大型M&A効果が業容の拡大に順調につながっている格好です。デング熱ワクチンの2022年度欧州承認見込みなどをはじめ、引き続き多くのパイプラインを抱えています。

マクニカ・富士エレホールディングス(3132・東証プライム)

 半導体商社で独立系では国内トップクラスの規模です。2015年4月に、マクニカと富士エレクトロニクスが経営統合を行い設立されました。アナログ、メモリー、その他ICなど半導体製品の取り扱いが中心で、用途別では産業機器、車載向けなどが主力です。ほか、ネットワーク事業なども展開し、同事業ではセキュリティ関連分野に注力しています。

 2022年3月期営業利益は367億円で前期比95.6%増益となりました。世界的な需要拡大を背景に、半導体製品の販売が増加しました。ネットワーク事業でも、セキュリティやクラウド関連商品が伸長しました。年間配当金は前期比倍増の100円としています。

 2023年3月期は390億円で同6.2%増益の見通しとしています。幅広い市場において強い半導体需要の継続を見込んでいます。働き方改革などを背景に、セキュリティ関連ソフトの増加なども見込んでいるようです。年間配当金は同20円増の120円を計画しています。

 2021年3月期以降、半導体需要の高まりがストレートに反映される形で、売上高、営業利益の成長ペースが加速化する状況となっています。新型コロナ感染拡大を契機としたリモートワークの普及は、セキュリティ関連分野の拡大傾向も強まっているとみられます。

 新規の中期経営計画では、2025年3月期営業利益480億円以上を見込んでおり、とりわけ、ネットワーク事業の成長を期待しているようです。

アウトソーシング(2427・東証プライム)

 工場など製造ラインへの人材派遣を主力としています。形態は派遣のほかに請負や受託も行い、技術系やサービス系分野にも展開しています。海外事業も5割超のウエートを占めており、主に、豪州、欧州、南米が展開地域となっています。

 積極的な人材採用やM&Aで事業を拡大させており、2021年1月に買収したアイルランドCpl社も想定以上の収益寄与となっています。外国人関連ビジネスにも注力しています。2021年11月には不適切な会計処理が明らかになり、現在は再発防止策を進めています。

 2022年12月期第1四半期営業利益は60億円で前期比16.4%増益となっています。国内・海外の技術系がコロナの影響を受けずに安定的な成長を遂げたほか、国内サービス系では米軍施設向けが好調に推移して、計画以上の結果となったもようです。

 通期予想は320億円で前期比33.4%増を据え置いています。自動車関連での生産調整一巡などにより、下期にかけて増益幅は広がっていくとみられます。年間配当金は前期比14円増の45円を計画しています。

 2020年12月期こそ、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大による生産活動の停滞で収益は伸び悩みましたが、総じて、旺盛な人材需要が続く中、M&A効果による欧州事業の急拡大なども背景に、業容は大きく拡大しています。中期計画では、2024年12月期営業利益650億円を目指しており、今後も積極的な業容拡大策が打ち出されていくものと考えられます。

ダイヘン(6622・東証プライム)

 配電機器や変圧器などの電力機器を主力事業としているほか、国内大手の溶接機、搬送装置など半導体機器なども手掛けています。

 EV充電システムなどにも展開するほか、再生エネルギー対応分野などにも注力中です。関西地区が地盤で、九州電力や四国電力と合弁会社を展開しています。2024年4月稼働に向けて、半導体製造装置向け高周波電源システムの工場増築を行っています。

 2022年3月期営業利益は142億円で前期比16.5%増益となりました。電力機器事業は伸び悩みましたが、需要が急拡大している半導体機器事業が大きく伸長して、全体をけん引しました。配当金は前期比20円増の110円としています。

 また、2023年3月期営業利益は165億円で同16.3%増の見通しです。半導体関連投資のさらなる増加などを見込んでいます。株主還元方針を単年度配当性向30%に改め、年間配当金は前期比40円増の150円を計画しています。

 2019年3月期、2020年3月期収益はやや伸び悩みましたが、2021年3月期以降は、半導体市場の活況を背景として半導体機器事業が業績を強くけん引する状況となっています。

 また、2021年12月に発表した中期計画では、2024年3月期売上高2,000億円以上、営業利益率10%以上を目標としています。再エネやEV関連、ロボット関連事業の売上拡大を想定しているほか、新規M&Aの貢献なども見込んでいるようです。