FRBはリーマンショック以降、QE1、QE2と2回の量的緩和政策を行ってきた。QE1は2008年11月~2010年6月の20カ月間で1兆7250億ドルが投入された。QE2は2010年11月~2011年6月の8カ月間で6,000億ドルが投入された。このQE1、QE2という米国の量的緩和の期間中は、基本的に株式は上昇傾向となり、通貨(ドル)は下落傾向となった。

一方、ECBはドラギ総裁が「量的緩和政策は効果がない」などと表向きQE政策を否定していたが、昨年12月21日に3年(36カ月物)の長期資金供給オペ(LTRO)を行い、4,892億ユーロの資金を供給した。このオペの金利は平均政策金利(現在1%)である。

昨年12月21日時点のイタリア3年国債の利回りは5.782%、スペイン3年国債の利回りは3.764%であった。2012年2月2日現在はイタリア3年国債が3.808%、スペイン3年国債が2.897%まで買い進まれ、大幅な金利低下となっている。

イタリアとスペインの3年国債の利回り(日足)

3年(36カ月物)の長期資金供給オペ以降、利回りが急低下


(出所:石原順)

1%で調達した3年間の資金でイタリア3年国債を買えば、現在でも3.808-1.000=2.808%となり、3%近くの利ざやを稼げる。欧州の銀行が3年物資金供給オペで調達した資金で、イタリアやスペインの国債を買うのは納得できる。これらの国債の利回りが上がるとECBが買ってくるし、危なくなればECBがいくらでも資金を供給するというのが銀行勢の読みである。

2回目の3年物の資金供給オペが2月29日に予定されている。ドラギECB総裁は「前回より入札は少なくなる」と予想しているが、海外の新聞の観測記事では「入札は1兆ユーロ規模」という噂もある。米国のQE1は1年半、QE2は8カ月だったが、「欧州版QE1」は3年だ。いずれにせよ、ECBは言っていることとは逆に、ジャブジャブの金融緩和に進んでいる。

ECBのポートフォリオ 2月末にさらに拡大


(出所:石原順)

欧州危機は簡単に言うと「国債売り」という現象であったが、ECBの3年物資金供給オペという「欧州版QE1」によって、投機筋の国債売りは大きく後退している。昨年12月21日のECBの大盤振る舞いはユーロ圏の国債パニックを和らげるのに大きく貢献しているといえよう。

欧州危機が深刻化するのか、あるいは沈静化するのか、今年の前半が正念場だ。ただ、欧州危機の動向とは関係なく、ユーロの上値は限定的なものとなるだろう。昨今の通貨相場はマネーの量が大きく相場に影響する。米国のQE3観測もあるのでややこしいが、事実上の量的緩和政策に踏み出したECBのポートフォリオの拡大傾向から考えて、欧州の株は上がっても、基本的にユーロの下落傾向は続くと思われる。

現在、ユーロ/ドル相場は基本的に買い戻し相場が継続している。投機筋の売りポジションの買い戻しを狙った短期筋がドタバタ動いている感じだが、IMMのユーロ売りポジションがもう少し減るか、ユーロは大幅に売られないと、まだ踏み上げのリスクが残っている。13-21日移動平均バンド(水色)の上に相場がある限りは、ユーロ下落再開とはならないだろう。

ユーロ/ドル(日足) 13-21日移動平均バンド(水色)とフィボナッチの抵抗

ショートカバーでどこまで戻せるか?


(出所:石原順)

IMM(シカゴ)のユーロポジション


(出所:石原順)