米国の外交問題評議会の雑誌『フォーリン・アフェアーズ』が年初に掲載した「ユーロの失敗(The Failure of the Euro)」というレポートが話題となっている。「そもそも文化がまちまちなユーロ圏の経済や通貨を統合すること自体に無理がある」という論説(なにをいまさら)だが、国際資本筋が手がける「米国の復活とユーロの崩壊」のシナリオ相場に沿って、市場では「欧州売り・米国買い」というバイアスが強くなっている。

ドルインデックス(日足) 13-21日移動平均バンド(水色)


(出所:ストックチャーツ)

ユーロインデックス(日足) 13-21日移動平均バンド(水色)


(出所:ストックチャーツ)

先週末発表された米国の失業率は8.5%に低下した。一方、ユーロ圏の失業率は10.3%と過去最悪の数字で高留まりしている。米国とユーロ圏の景況感格差を印象づけるのに好都合なデータである。しかし、米国の雇用実態は報道されているほど良くない。米国の失業率の低下の主な要因は、職探しをあきらめて職安にいかなくなった人が増えたためである。広義の失業率は22.4%と非常に高い。また、雇用統計の調査期間に1時間でも働いていれば雇用者とみなされるが、今回の20万人増の雇用者のうち8万人はクリスマス商戦の一時雇用だ。

米国の雇用の増減と失業率 景気の良い? 経済指標が続いている


(出所:石原順)

ここ数カ月の強い景気指標を受けてNYダウはしっかりしているが、「米国株一人勝ち」の状態がそう長く続くとは思えない。今は「欧州売り・米国買い」のシナリオに沿って動くのが得策だが、リスク商品のポジションは「偽りの回復報道」が続いているうちにいったん売り抜けたいと思っている。株は年前半高勝負の商品であり、1~3月の高値は売り場だというのが筆者の感触だ。

米国の景気回復とユーロの景気後退報道が続いているので、為替市場ではユーロの独歩安相場となってしまっている。12月29日のレポート「第222回 年末・年始相場の注目通貨と売買ポイント」で取り上げた「ユーロ/豪ドル」も保合を離れ、ユーロ売り・豪ドル買いが加速している。

ユーロ/豪ドル(週足) 昨年末からユーロ売り・豪ドル買い相場が鮮明に


(出所:石原順)

ユーロ/豪ドル(日足) 強烈なユーロ売り相場

(ユーロ/円を売り、豪ドル/円を買うと、ユーロ/豪ドルの売りが出来上がる)


(出所:石原順)

ユーロ/ニュージーランド(日足) ユーロ/豪ドルより強烈なユーロ売り相場

(ユーロ/円を売り、ニュージーランド/円を買うと、ユーロ/ニュージーランドの売りが出来上がる)


(出所:石原順)

現在、為替市場に限らず、「ユーロ売り・ゴールド買い」、「ユーロ売り・株の先物買い」など、ユーロを売って他の何かを買うという【ユーロ売り+他商品買い】が投機筋のメイン戦略となっている。ゴールド相場も買い戻しが主力ながら、ユーロ売り=ゴールド売りという昨今の相関関係から離れる動きをみせているのも注目されよう。

ゴールド先物(日足) ユーロ連動相場から離れ、リバウンド相場に

1月11日には200日移動平均線を上回る


(出所:石原順)

ゴールド先物2012年2月限(日足) 13-21日移動平均バンド(青)


(出所:楽天証券マーケットスピード)

ユーロ/ドル(日足) 13-21日移動平均バンド(青)


(出所:楽天証券マーケットスピード)

本日はECB理事会がある。(21時45分政策金利発表・22時30分ドラギ総裁記者会見)市場コンセンサスは金利据え置きだが、ECBは3月まで2回利下げを行うというという路線から言えば0.25%の利下げがあってもおかしくない。ドイツ2年国債と米2年国債の金利差は既にマイナス圏に突入しているが、今後のユーロの利下げを考えるとユーロはやはり売り通貨となろう。

ドイツと米国の2年国債金利差(青)・ユーロ/ドル相場(茶)

独・米金利差はユーロ売りを示唆


(出所:石原順)

ECBは昨年12月21日にLTRO(longer-term refinancing operations)3年物の資金供給オペを行ったが、ECBのバランスシートは急拡大し、事実上の量的緩和政策と市場は受け取っている。このLTROというオペは2月にも行われる。ECBが利下げと量的緩和を行っているので、金利差とマネーの量という観点からユーロ売り基調は続くだろう。注意したいのは、ユーロ圏の会合で新たな政策が発表された場合のユーロキャリーの巻き戻し(ユーロの買い戻し)だが、これはストップロス注文で対応するしかない。

フランス格下げの噂も根強く、フランスがトリプルAを失えばユーロ売りが加速しそうだ。欧州の金融機関は<ECBの量的緩和という蜘蛛の糸>に群がっているが、ユーロの危機を打開するのは「欧州版ブレイディ・プラン」しかないだろう。即ち、「ユーロ共同債」である。ユーロ圏でこの決断がなされるまでユーロの危機は終息しにくいが、ユーロ共同債が議論に浮上するまでは、「ユーロ売りで飯を食おう」というのがファンド勢の姿勢である。

1月6日 仏伊首脳会談
1月9日 独仏首脳会談
1月11日 独伊首脳会談
1月23日 ユーログループ会合
1月30日 EU首脳会合(財政協定・トービン税の議論)

と政治イベントが続くが、最近の相場はイベントへの期待と言うより、イベント前の催促売り相場が続いている。ユーロ相場の正念場は国債大量償還を迎える2~3月だ。ここで、抜本的な対策が出てくるかどうかだが、いずれにせよ、今年の相場の最重要期間といえよう。

国債償還カレンダー

1月11日 ギリシャ国債の償還 元本1,600万ユーロ
12日 スペイン国債の入札  
19日 スペイン国債の入札  
2月1日 イタリア国債の償還 元本258億ユーロ
28日 スペイン国債の償還 元本13億ユーロ
29日 スペイン国債の償還 元本106億ユーロ ゼロクーポン債
3月1日 イタリア国債の償還 元本149億ユーロ(国債)
    元本123億ユーロ(変動利付債)
5日 アイルランド国債の償還 元本55億ユーロ
20日 ギリシャ国債の償還 元本145億ユーロ
4月15日 イタリア国債の償還 元本155億ユーロ
30日 イタリア国債の償還 元本123億ユーロ
  スペイン国債の償還 元本119億ユーロ