インフレへの警戒感が強まり揺れる市場

 5月3~4日のFOMC(米連邦公開市場委員会)でFRB(米連邦準備制度理事会)は予想通り0.50%の利上げと保有資産を圧縮する「QT(量的引き締め)」を決定しました。

 しかし、パウエル議長はFOMC後の記者会見で「今後2回の会合で0.50%の利上げを検討」と発言したものの、「0.75%利上げは積極的に検討していない」と発言したことから、急激に金融引き締め観測が後退し、米金利低下とともにドル/円は130円台から急落し、一時128円台半ばまで売られました。

 ダウも900ドル超急伸し、今年最大の上昇幅となりました。

 しかし、翌5日には、NYダウは1,000ドル超の下落となりました。米10年債利回りも一時3.1%を超え、ドル/円も再び130円台に上昇しました。

 前日は、0.75%の利上げが否定されたことが株式市場に安心感を与えましたが、冷静になった翌日には、40年ぶりのインフレを抑えるために22年ぶりの0.50%の利上げ(しかも、2回連続を表明)と前回の倍速ペースで資産を圧縮する方針は、先進国の中でかなりのタカ派姿勢と捉えられました。

 そして、FRBはうまくインフレを抑止できるのか不安視されると同時にインフレへの警戒感が強まり、金利、株式市場が大きく反応しました。

 ドル/円は米長期金利の上昇とともに再び131円台に乗せてきましたが、4月に利上げ加速観測によって円安が加速し、相場にかなり織り込まれたため、0.75%利上げの可能性後退によって131円台は維持することができませんでした。

 しかし、日米の金融政策の違いがより鮮明になったことから、ドル/円が大きく崩れるということはなさそうです。

 今後は、物価や景気動向をにらみながら利上げペースが実際にどうなるのか、その思惑が交錯する展開が予想されます。

円高の動きが出てくる可能性も?

 米国の4月CPI(消費者物価指数)は11日に発表されます。今年に入って米国の賃金や物価動向は、中古車や家賃、住宅価格など頭打ちの兆しが出始めていることから、CPI予想は8.1%と3月の前年比8.5%に対しては鈍化予想となっています。

 FOMC後の米株式市場は、インフレが不安材料として強まったことから年初来安値を更新するなど不安定な動きとなっています。CPIの上昇率が前月から鈍化して安心感を与えるのか、あるいは鈍化したとはいえ高水準であることを意識して不安感は払拭(ふっしょく)できないのか、どのような反応になるのか注目です。

 一方、日本の物価は、6日に発表された、全国CPIの先行指標となる東京都区部4月CPI(除く生鮮食品)が注目されました。4月CPIは+1.9%と前月の+0.8%から1.1%加速しました。背景はエネルギー価格の高騰と携帯電話通信料値下げ要因の剥落ですが、20日に発表予定の日本の4月全国CPIも同様の要因から+1%台後半が予想されています。

 もし、東京都区部並みの上昇幅となると3月の全国CPI+0.8%から+2%に近づくこととなります。

 このように米国の物価の伸びが鈍化し、日本の物価が上昇加速となると、日米金融政策の違いの距離が縮まるのではないかとの思惑が強まることも予想されるため注目したいと思います。

 5月は、日米物価の上昇スピードの違いによって3月、4月のように一本調子の円安とはならず、円安促進よりも円高抑制程度に働くだけになるかもしれません。違いが予想以上に鮮明になれば、思惑が強まり円高に行くことも予想されるため注意が必要です。

利上げ後の米景気動向にも注目

 5月5日、BOE(英国中央銀行)はMPC(金融政策委員会)で予想通り政策金利を0.75%から
1.0%への引き上げを決定しました。しかし、同時に発表された議事録ではBOEはリセッションに陥るとの予測をしたほか、2023年には経済が縮小するとも明記し、成長率▲0.25%(前回は+1.25%)の予測をしています。

 この景気予測によって、利上げにもかかわらず英金利は低下し、ポンドは軟調な動きとなりました。

 このように米国も物価上昇だけでなく、利上げによる景気への影響も相場の波乱材料になるかもしれないため、景気動向にも注視する必要があります。

 4月28日に発表された米国1-3月期GDP(国内総生産)は、プラス予想に反し▲1.4%と7四半期ぶりのマイナス成長となりました。GDPにマイナスに寄与する輸入が急増し、輸出も減少したことから貿易赤字が拡大して成長率を抑制しました。

 また、前期に在庫投資が急増した反動も影響したようですが、個人消費は前期より伸びているためFRBの方針に影響しないとの見方が大勢となっています。

 しかし、今後は、利上げによる景気への影響にも注目し、加えて中国のゼロコロナ政策による景気鈍化やウクライナ紛争の長期化による資源、食料の供給制約など世界経済に影響を及ぼすことも予想されるため、米国の景気動向には注意してみておく必要があります。米国の景気が鈍化した場合、FRBの利上げペースにどのような影響を与えるのか注目です。

期待されるインバウンド効果?!

 5月5日、岸田文雄首相は英国の金融街シティーで講演し、新型コロナウイルスの水際対策を6月にも*G7諸国並みに円滑な入国が可能となるよう緩和すると表明しました。海外からの観光客の入国制限が緩和されれば、現在の円安水準だとインバウンドの回復が期待できそうです(円高要因)。

 ただ、入国制限は1日上限1万人を2万人に緩和検討とのことですが、1日2万人だと単純計算で年間入国者は730万人となります。

 コロナ前の訪日外国人旅行者数はピークの2019年で3,188万人でした。730万人はその23%にしか過ぎないため、インバウンド効果は大きくないかもしれませんが、話題性があるため、6月の緩和前の5月後半から期待先行の円高の動きが出てくる可能性もあり注目したいと思います。

*G7…カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国の7カ国