著名ヘッジファンド「ポールソン」のファンド解約通知期限の10月31日が通過した。「運用成績不振により顧客資産が流出するとの憶測が広がっていた著名ヘッジファンドマネジャーのジョン・ポールソン氏が運営するファンドは、10月31日時点の解約請求がファンド合計で8%未満と予想ほどの規模にはなっていないことが分かった。3人の関係筋が、同氏が投資家向け書簡で述べた内容として明らかにした」(ボストン 1日 ロイター)と報道されているように、ゴールド市場の暴落も起こらず市場関係者も胸をなで下ろしているところだ。

ゴールド先物(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド0.6σ(緑)


(出所:石原順)

しかし、12月決算のファンドの多くは45日ルールを採用しており、その期限は11月15日となっている。11月、とくに後半はファンドの決算がらみのフローが出てくるので、注意が必要である。すでにレポートやセミナーで述べてきたように、これまでのブラックスワン相場でも生き残ってきた名うての著名投資家達も苦境に陥っているのが今年の相場である。特に、7-9月期のファンド業界のパフォーマンスは惨憺たる結果となっており、ファンドの解約のフローは例年より多いとみておくべきだろう。破綻したMFグローバルの顧客のポジションも多くが決済できないまま凍結となっており、商品先物市場の投資家は警戒を解いていない。

11月2日の日経新聞では『カリスマたちの誤算』というタイトルでジョン・コーザイン、ジョン・ポールソン、ビル・グロースの失敗が取り上げられているが、今年のファンド界は災難の年のようだ。3月に乗っ取り屋と呼ばれるカール・アイカーンがファンドを閉めたのを皮切りに、9月にはゴールドマンのクオンツファンドである「グローバル・アルファ・ファンド」が閉鎖された。他にもスタンレー・ドラッケンミラー、クリス・シャムウェイなどの有名な運用者が顧客の預かり資産を返還している。

オバマ政権発足後の「ボルカールール(銀行の自己勘定取引を制限するための金融規制)」以降は、ファンドへの締め付けが厳しくなっている。商品先物市場の急激な価格変動を抑制する目的で証券監督者国際機構(IOSCO)が動いていることや、G20でもトービン税構想が浮上している。今後、ヘンジファンドの匿名性が剥奪されると、ギリシャ国債も売りにくくなる。G・ソロスが40年のヘッジファンド運用歴に幕をおろしたのも(外部投資家に資金返還)、ヘッジファンド規制が厳しいので、ファミリーオフィスに転身したというのが実情のようだ。

さて、本日は米雇用統計の日である。NFP(非農業部門雇用者数)は+95,000人、失業率は9.1%が市場の平均予想である。(今回はあまりブレがない)「ウォール街を占拠せよ」騒動を見ればわかるが、米国のアメリカの20~24歳の失業率は15パーセントを上回り、7人に1人が無職となっている。オバマ大統領は失業保険給付延長の法案を提出しているが、これが否決されると約600万人が失業保険を受けられなくなる。雇用者数を増やすには、財政削減ではなく財政出動しなければならないが、総額4470億ドル規模の雇用創出法案の修正案を否決された。米国の雇用状況が改善するのは難しい。

米国の雇用の増減と失業率


(出所:石原順)

米国の失業率の推移1948年~2011年 雇用対策もFRBの仕事


(出所:石原順)

雇用と住宅問題が米国経済の課題として大きくのしかかっているが、FRBは11月2日のFOMCで追加緩和の可能性に含みを残したものの、現状維持でQE3を温存した。FOMCではシカゴ地区連銀のエバンズ総裁が「FRBは追加措置をとるべき」と主張し、現状維持に反対票を投じたが、モーゲージ担保証券(MBS)の買い入れ拡大やQE3は示唆されなかった。理由は株価が高いからだ。

NYダウ(週足)と米国の量的緩和政策 MBS購入などを含めたQE3は来年か?

リーマン危機後の相場は、QE1、QE2に代表される米国の量的緩和政策によってリスク資産への投資が行われてきた


(出所:石原順)

ドルインデックス(日足)と米国の量的緩和政策


(出所:石原順)

米国の取るべき経済対策は次の3つとなろう。

  • 財政出動=余剰の労働力(失業率)と低金利を利用して、学校・道路・水道など公共インフラの再建を行う
  • 住宅市況のテコ入れ=住宅ローンの免除と借り換えで家計の借金を減らす
  • 高いインフレ率で負債や財政問題を軽減する

だが、事は簡単ではない。「ティーパーティ」も「ウォール街占拠デモ」も共に中間層が没落したスクリューフレーションの結果であるが、共和党の「小さな政府」志向と、民主党の「大きな政府」志向が感情的にぶつかって、双方が引かない展開となっている。

このような状態が続くと、経済の縮小→歳入急減→財政赤字という負の循環に陥ってしまうが、米国は格付け会社から格下げで恫喝されて「財政赤字削減」を迫られている。11月23日までに追加の赤字削減策を決定できないと、年内にムーディーズとフィッチもS&Pに追随して米国債を格下げする可能性が言われるなかで、財政出動の可能性は小さい。「米10年国債が来年は1.0%を付けるのではないか?」という予想もあるようだが、米国の低金利が示唆しているのは、不景気と信用収縮である。なのに、政治の世界では茶番が続いている。

米10年国債金利(日足)1997年~2011年 金利は何を物語る…

赤字やインフレなんてどうでもいい? 不景気とデフレが恐い


(出所:石原順)

QE3が温存されたため、11月相場はリスク全開とはいかなくなった。今週の相場は、円売り介入・米金融大手MFグローバルの破綻・ギリシャの国民投票騒動、ECBの利下げと、混沌とした様相となっている。日本のFX投資家のポジションはドル/円と豪ドル/円に集中しているが、このような混迷の相場状況の中で何をリスク許容の基準にすればよいのだろうか? これまで、豪ドル/円の動きはNYダウとほとんど同じであると申してきたが、では、現在の相場で株を大きく動かしている要因はなんだろう?

現在、株を動かしている大きな要因はユーロの動きである。今週の『日経ヴェリタス』の記事によると、「株はドルよりユーロに敏感」であることが明らかとなっている。したがって、QE3温存中のリスク資産の動きはユーロ相場に連動することになろう。

ユーロ/ドル(日足) 現在、相場のど真ん中(移動平均挟みの展開)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

欧州中央銀行(ECB)は11月3日の理事会で、主要政策金利であるリファイナンス金利を0.25%引き下げ1.25%とした。マリオ・ドラギECB新総裁の声明があまりにハト派的な事に市場は驚いたようだが、この人は空気を読む人のようだ。原理主義的なドイツ連銀の幻影を追うことはやめたほうがいいのかもしれない。この調子だと、イタリア国債も買い入れるだろう。

ドル/円は当局が行き過ぎた円高と認識している77~76円のゾーンで追加の介入があるかどうかが投機筋の焦点だ。G20で介入を強く批判されなければ、「役人の面子から介入に踏み切る」との観測も流れている。

ドル/円(日足) 追加の介入はあるのか?

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド2σ(赤)・13日移動平均2%乖離(青)
下段:9日RSI(赤)


(出所:石原順)

豪ドル/円は21日ボリンジャーバンド2σに到達したことや9日RSIの形状を考慮すると、押し目を試す展開となっている。1日の相場の振れ(1日ATR)が大きくなっており、ややボラタイルな相場展開だ。逆に言えば、デイトレーダーにとっては収益機会のある相場だ。相場が21日移動平均線や移動平均リボンを割り込んでくるような動きとなれば、押しが深くなる可能性があるので注意したい。

豪ドル/円(日足)

上段:21日ボリンジャーバンド2σ(青)
下段:9日RSI


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足) ボラティリティ・レベルが高いデイトレ向き相場?

上段:1日ATR(赤)
中段:5日ATR(青)
下段:移動平均リボン(赤)


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足)と20日ATRの推移


(出所:石原順)

日本経済研究所のデータによると、「戦後61年間の平均で見ると、日経225やNYダウは10月に買って4月に売るのが最も効率がよい」ことがわかっている。季節要因からみると11月相場も10月同様に「押し目買い」の月である。その押し目を形成するのはファンドの決算処分売りである。そこを考慮して、11月相場は柔軟に対処したい。