リーマン危機後の相場を一言で言うと、「バーナンキ・プット相場」である。バーナンキFRB議長が「なんとかしてくれる」という期待感がないと株は上がらない。逆に言えば、株が下がればバーナンキFRBはなんらかの対策を打つ。だから、株はいつも「政策待ち」なのだ。

今後QE3の発動が宣言された時に株を買えば儲かる確率が高い。筆者は株が下げていても、バーナンキ・プットの背景があるので、株に関しては楽観派である。しかし、NYダウや日経225などの株のインデックスが上がっても、景気が良くなるとは思っていない。景気が良くなるには、金融株が上がることが必須の条件だ。古今東西、銀行が金を貸さなくなると不景気になるのは自明の理である。

現在、世界的に貧富の差がものすごい勢いで拡大している。今後、中間層や貧困層はもっと没落していくだろう。この没落を阻止するためには、「資本市場に投資してリターンを得る」しかない。資本主義社会というのは常に成長を欲しているので、必然的に経済を成長させるような政策や対策をとる。昨今はどこの国もネズミ講的な経済運営を行っており、もうなんでもありの世の中となっている。2000年のITバブル崩壊後の株価は中央銀行の政策で動いてきたといってもよい。だから、株やクロス円が上がるかどうかは、基本的に世界の中央銀行であるFRBが握っているのである。

お金は単純なロジックでしか動かないので、素直にFRBの政策について行けばよい。9月21日のFOMCでオペレーション・ツイストが発表されたが、効果がないという相場評論家が多かった。しかし、オペレーション・ツイスト決定後の米株は上昇している。QE3(内容によるが)も効果がないといわれているが、発動されれば株価は上がり(株が上がればクロス円は上がる)、ドルは下がるだろう。

NYダウ(週足)と米国の量的緩和政策 株はFRBの政策次第


(出所:石原順)

10月18日、エバンス・シカゴ地区連銀総裁は「FRBは今後の金融政策において、独創的な発想を必要とする。米経済は流動性の罠に陥っている。直近の緩和の動きは、経済にとって不十分で、より大きな緩和が必要である」と米国の景気状況に危機感を表明した。その後も、イエレンFRB副議長が10月21日に「経済状況によってはQE3が正当化されるかもしれない」との認識を示したことや、24日にNY連銀のダドリー総裁が「連邦準備理事会(FRB)はまだ策を使い切ってしまったわけではない」「新たな量的緩和を行うことは可能だ。量的緩和第3弾(QE3)はあり得る」と発言したことで、にわかにQE3期待が高まっている。

10月11日、オバマ大統領の「4,470億ドル規模の雇用創出法案」が上院で否決され、事実上の廃案となった。雇用も住宅市況も悪化がとまらず、財政出動もできないとなれば、近い将来のQE3発動があるだろう。11月2日のFOMC、12月13日のFOMC、あるいは来年になるのかもしれないが、慎重な投資家はQE3の発動をじっくり待てばよい。このところ、株やコモディティ市場が堅調な動きとなっているが、これらはQE3観測をはやして短期筋が買いあげているだけである。だが、QE3はまだ決定しているわけではない。とりあえず、11月2日のFOMCの中身を確認するのが、投資の王道だ。

ゴールド先物(日足) QE3観測で短期筋が買い仕掛け?

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド0.6σ(緑)


(出所:石原順)

最近、どこへいっても「ニュースや新聞の報道、恐慌本の類をみているとユーロは崩壊すると思うのですが、なぜユーロは上がっているのですか?」「震災や放射能被害の日本円がなぜ戦後最高値になっているのですか?」という質問を受ける。

「ユーロが上がっているのは、金融危機で欧州圏の銀行が海外資産を本国に戻しているから」「円が買われているのは政府日銀がデフレ政策を行っているから」と答えるしかない。常識的に考えれば、ユーロ高や円高はありえないが、報道されているニュースに対してマネーがどう動くかで相場は決定される。今のユーロ相場を難しくしているのは実需のフローである。インターバンク市場から資金をとれないという苦境にある欧州系の銀行は、海外から自国に資金を引き揚げている。一方、投機筋は7-9月期の損失が嵩んで身動きがとれない。市場参加者が減って流動性が落ちている相場状況で、実需のウエイトが高くなっているのである。リパトリ(損失の穴埋めをするための海外資産引き上げ)は相場観に関係なく行われるので、ユーロ買いの圧力が勝ってしまう。

ユーロ/ドル(日足) 調整相場の範疇にある

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)・移動平均リボン(水色)


(出所:石原順)

10月26日の欧州首脳会議が終了した。ギリシャ国債50%カットで合意し(CDSの処置でもめそうだが)、EFSFの規模を1兆ユーロに拡大することで合意した。10月20日のセミナー「為替相場見通しと円相場のテクニカル分析」で述べたように、皆が構えている時には暴落はおこらないということである。昨今の先進国は、資産と負債を両方膨らますという両建て経済で運営されてきたが、その両建ての資産の部がリーマン危機で毀損して、負債だけが残っている。では、どうすればよいか? これは資産にレバレッジをかけて膨らますしかない。EFSFの規模を1兆ユーロに拡大する(レバレッジを4倍にする)とは、そういうことである。金融は見せ金の世界だが、とりあえず一定の「見せ金」は用意できたと言えるだろう。

自己資本比率9%を達成出来ない欧州の金融機関は数十行あると言われているが、これらの銀行の一部には将来的に公的資金が入るだろう。この危機の最中、厳密な規律(銀行への自己資本増強)を強制するのはいかがなものかと筆者は思っていたが、考えてみれば為政者にとっては都合の良いことである。自己資本比率を上げなくてはならない欧州の銀行は、貸し出しやリスク資産・海外資産を圧縮した金で、リスクウエイトの小さな自国の国債を買うに決まっているからだ。

次のユーロの大きな危機はイタリアとスペインの10年国債金利が7%を超えてきたときである。ギリシャやポルトガルの10年国債の動きを見ていればわかるように、7%を超えると不安が増大しIMFマターになるといわれる。あとは、金融株の動きだ。これは、本日の日経新聞1面(CDS保証料の記事)に取り上げられていたウニクレデイトとBNPパリバの株価を見ていればよいだろう。

欧州主要国の10年国債利回り


(出所:石原順)

BNPパリバ(左)とウニクレデイト(右)の日足


(出所:石原順)

ユーロ相場でもう一つ注意しなければならないのは、格付け機関による米国債の格下げである。11月23日までに追加の赤字削減策を決定できないと、年内にムーディーズとフィッチもS&Pに追随して米国債を格下げする可能性がある。格下げされると、ドルと米国債の防衛のために、一斉にメディアからユーロの悪材料が噴出してくる。米国が自国の悪さから目をそらさせるためにやる、いつものパターンである。

このところの相場はリパトリ主導のユーロ高が勘違いの株高を促し、QE3観測まで盛り上がっている。先週、「豪ドル/円相場に再び円高警戒シグナルが点滅?」というレポートを書いたが、ドル/円の円高が主導するクロス円相場の危機はとりあえず回避(ATRが3日連続で低下)された。(ブログ『日々の泡』 豪ドル/円 円高警戒シグナルは解除参照)あとは11月2日のFOMC次第だ。

豪ドル/円(日足)と20日ATRの推移


(出所:石原順)

ドル/円(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ
中段:21日ボリンジャーバンド
下段:20日ATR(青)


(出所:石原順)