デレバレッジ(レバレッジの巻き戻し)が現在進行中
FOMC(米連邦公開市場委員会)は3、4両日に開催した定例会合で、0.5ポイント利上げと保有資産の縮小を決定した。また、次の2会合においても同幅での利上げを継続することを示唆した。
FRB(米連邦準備制度理事会)は高インフレで尻に火がついて慌てて金利を上げだしたが、それはインフレ率に対してあまりにも小さく、遅すぎる結果となっている。はたして、FRBは市場を動揺させずに、リーマンショック後の13年間のマネー印刷のまん延の結果である40年ぶりの高インフレに対処することができるのであろうか?
米国の公式CPI(赤)と1980年ベースのもう一つのCPI(青)の推移
ナスダック100CFD(日足)
米国の市場ではレバレッジアップのプロセスが逆転し、デレバレッジ(レバレッジの巻き戻し)が現在進行中となっている。
株式市場でどの程度のレバレッジが積み上がっているのかを測る目安となるのがマージンデット(証拠金負債)である。マージンデットは、強気の上昇を演出するが、残念なことに、レバレッジが逆転すると最終的には市場の下落を加速させることになる。
証券会社などの行動を監視・規制する組織である米FINRAによると、3月のマージンデット残高は2月から360億ドル(4.3%)減少、過去3カ月で12.4%減少して約8,000億ドルとなった。証拠金負債は前年同期を下回る水準になっている。しかし、レバレッジ残高は引き続き巨大だ。
マージンデットの推移
S&P500は今年1月3日に4,796ドルのピークをつけた後、1月下旬には4,326ドルまで売られるところがあり、約1割下落した。一方のマージンデットは1月に800億ドル(8.8%)減少したが、これは過去最大の減少額であり、減少率も過去最大級であった。
マージンデットは株式市場全体のレバレッジの方向性を示す指標で株式市場の急落に関連している。つまり、株式市場における高いレバレッジは、大規模な売りの前提条件の1つである。この大量のレバレッジが解消されない限り、通常の株式市場の下落はいつでも起こりうる状況にある。
レイ・ダリオは5月4日にリンクトインに投稿した『The Popping of the Bubble Stocks: An Update』で、彼が使っている「バブル指標」を更新し、現在の米国株の株価水準について検証している。
それによると、2022年1月以降に割高なバブル株の株価が三分の一程度下げたため、現在はバブルではなくなったという。しかし、これはバブルが崩壊方向に向かっている途上であり、「今が買い場とは限らない」と述べている。バブルが崩壊すると、株価は八掛けになってしまうことが多いからだ。
レイ・ダリオのバブル指標(1920年代のバブル・1990年代のバブル・現在)
そして、レイ・ダリオはマージンデットの崩壊がバブルの崩壊に発展することを以下の図で示した。
マージンデットがどのようにバブルの崩壊につながるのか(1920年代のバブル・1990年代のバブル・現在)
「米国株は全体としてはまだバブル指標では割高に見える。歴史が教えてくれることは、バブルが弾け始めると、理論的に正常な価格に落ち着かず、より下方向に過剰反応することが多いということである」と、レイ・ダリオは警鐘を鳴らしている。
レベッカ・パターソンの投資ストラテジー(インフレ対応で何をすべきか)
レイ・ダリオの秘蔵っ子と呼ばれるブリッジウォーター・アソシエイツのレベッカ・パターソンが先日CNBCに出演し、QT(量的引き締め)でFRBが債券の大口の買い手でなくなり、市場の誰が買い手になるのかが問題だと述べている。
「少しくらい利回りが上昇したところで、債券を買いたいという人はいない。したがって、利回りはまだ上昇する。金融引き締めとインフレの先行きについて、市場は楽観的すぎる」と、レベッカ・パターソンは米金利上昇継続を予想した。
中国もロシアも米国債離れしている現在、米国が米国債の買い手(手駒)として期待しているのが日本の円安(量的緩和)マネーである。
FRB、ECB、日銀のバランスシートの膨張(対GDP比 2008~2021年)
ドル/円(日足)
米金利上昇継続予測のレベッカ・パターソンが現時点で推奨する投資ストラテジーは以下のとおりである。
●株式市場:価格決定力(インフレ下でも値上げができる)を持つ銘柄を買う。
●債券市場:金利上昇シナリオから債券市場には弱気。インフレヘッジの「物価連動国債」はよいだろう。
●コモディティ市場:コモディティに分散投資する。
●外為市場:資源国通貨を対ドルで買う。
ドル/カナダドル(週足)
FRBはお金を印刷することはできるが、食べ物を印刷することはできない
残念ながら、FRBはインフレに対して最後は白旗をあげることになるだろう。なぜなら、FRBはお金を印刷することはできるが、食べ物を印刷することはできないからである。
小麦価格はGFCやアラブの春の高値を上回っている
レイ・ダリオの「帝国のビッグサイクル」
「なぜ世界的に物価が上昇しているのか? 中銀による資金量の増加、政府介入の増加(これが供給網の問題や様々な行き詰まりの一因となっている)、ESG(環境・社会・企業統治)の狂気、人々が働かないようにするための給付金の支給、その結果としての労働力の不足、巨額の財政赤字、貿易の禁止などだ。これらがすべてインフレの原因となっている。理解しておきたい重要な点は、それが意図的であろうとなかろうと「政府介入による結果」であることだ。左派が主張しているような市場の失敗や資本主義体制の欠陥による結果ではない」
(マーク・ファーバー)
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