本格的な物価上昇局面の到来

 かつて、インフレ2.0%の政策目標なんて言っているうちは、なんとか国内経済の回復基調を明確にしたいというメッセージだったかもしれませんが、最近の物価上昇はコントロールが困難な状況にドライブしつつあるようにみえます。

 世界的なインフレ傾向、急激な円安、資源や食材料の価格上昇、人件費の上昇などが生じており、これがついに国内で値上げ傾向として表れ始めました。しかも、5%あるいは10%といった大きな値上げを各所で起こし始めています。

 すでにエネルギー価格の上昇は生じており、こちらも深刻です。ガソリン代、電気代、ガス代といった生活の基盤となるコストは昨年比で20%強の上昇幅であるからです。

 ここしばらく明確になってきたのは、食品の値上げ傾向でしょう。食パン、菓子、清涼飲料水、カップ麺…毎月のように値上げ情報が紹介されています。

 しかも、業界最大手の値上げがあると、それに即座に追随するライバル社の値上げがあったり、長年価格据え置きをしてきた看板商品がついに大幅値上げを決断したりと、企業が原材料価格の上昇を努力の範囲で吸収しきれない状況も見えてきました。

 さて、物価高は経済ニュースとして投資家にも気になるところですが、価格転嫁と業績への影響を考えるばかりがテーマではありません。

 今回は個人投資家が、物価上昇局面で考えておくべきポイントを3つほどまとめてみたいと思います。

対策1)拠出額の増額を検討する

 最初に意識するべきは、定期的な積立投資を行っている場合の、積立原資の増額です。

 ただし、その「前段階」がひとつあります。インフレ時には支出が増加することになり家計が厳しくなります。何せ月20万円の家計が21万円、40万円の家計は42万円かかるのが「物価上昇5%の影響」だからです。

 この冬などは電気代、ガス代の上昇がひどかったのですでにそれくらいのインパクトが出ています。これが食品や日用品の価格にも広がると考えれば、生活コスト増が貯蓄余力の減少にしわ寄せがくる恐れがあります。

 まずは、家計管理と節約の取り組みを通じ、「積立投資をストップしない」ことが第一になります。

 そして、その次に意識するのは「積立額の増額」です。物価が上昇するということは、積立額が同額のままでは、未来のための軍資金も目減りしてしまうということです。定期的な積立額の増額を考えてみましょう。

 月3.0万円の積立をしていたとして、仮に物価上昇5%が2年続けば月3.3万円を意識する必要がある、といった具合です。

 例えば、米国の401(k)プランでは、同国のインフレトレンドを見据えつつ拠出限度額が毎年引き上げられる仕組みがあります。これも、「インフレ時には積立額を増額する必要性」を示唆しています。

 日本ではインフレを意識した積立増額というのは過去に想定したことがないテーマですし、つみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)やiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)の上限も自動的に拡充するわけではありません。

 それでも、インフレ時には拠出額の増額を考えてみてください。枠を使い切った場合であっても、証券口座で積立投資信託の枠を設定してみたいところです。

対策2)将来の目標額の上方修正をする

 物価上昇が続いた場合、将来の目標額を上方修正することも必要になります。将来のモノの値段は将来まで物価上昇が続くことを見通しておく必要があり、その分現在価値よりも多い資金確保を意識する必要があるからです。

 今までは、2020年に考える「老後2,000万円」も、2000年に考える「老後2,000万円」も、感覚的には同じでよかったかもしれません。それはインフレが起きなかったからこそです。

 これから先、物価上昇が起きるであろう20年後の未来、2040年、あるいはそれ以降のことを考えるならそれでは足りないということです。

 仮に老後に2,000万円が必要だとします。あなたは今45歳で20年後のためにこれを準備しています。これで老後の行楽や娯楽費用をまかなおうと思っていたら、毎年2.5%の物価上昇が続いたとすれば20年後に必要な資金額は3,277万円まで高まります。ざっくり5割増し、と考えるわけです。

 目標額が上方修正されたとしたら、それに至るための計画も修正しなければなりません。最初に指摘した対策1の意味は、ゴールが高くなることへの対応でもあるわけです。

 対策としては拠出額の増額、運用利回りの向上、拠出期間の延長などを総合的に考慮して行います。しかし、運用利回りを高くすることでゴールを実現するアプローチはリスクも高めることになり注意が必要です。

対策3)見かけ上の高いリターンを割り引いて考える

 そして、運用収益についても割り引いて考える必要があります。インフレが2.0%上昇した年に、資産運用で2.0%上昇したとしても、「実質的なリターンはゼロ」という感覚を持つ必要があるからです。

 インフレのない時代、資産運用はシンプルなものでした。年4%増やすことができればそれはそのまま資産価値の4%増を意味していたからです。そしてその運用収益はゴールに確実に近づいたことを意味していました。

 これからは「収益率-インフレ率」を常に頭に置いておく必要があります。どんなに高い収益も高インフレの時期には相対的に小さな資産価値上昇にとどまってしまうからです。

 また、インフレ初期においてはインフレ率を定期預金金利は下回ってしまいます(今がまさにその状況です)。健全な経済が回れば、銀行預金金利は上昇に転じますが、現状はまだこれからです。

 そういう意味でも「インフレ程度を補う運用」というステップ、「インフレを上回り資産の実質価値を向上させる運用」の2段階が、私たちのリスク資産運用に含まれていることを考えて、運用結果などは評価していく目線が必要です。

 ここしばらくのあいだ、リスク資産運用で大きな収益確保をできていたみなさんは、もしかするとこれから数年はそううまくいかない時期を過ごすかもしれません。

 何せ、年4%くらい稼いでも、実質は年2%程度でしかないというような、難しい運用管理をしていかなければならないからです。

まとめ:運用収益が、そのまま資産価値の増となった時代が終わる

 今回は、個人投資家の運用計画に物価高が及ぼす影響を「積立額」「目標額」「運用成績」という3つの観点から考えてみました。

 いずれも、20年以上考えてこなかったお題であり、今年は真剣に考えるべきテーマです。まだまだ不確定要素も多く、個人投資家にとっては難問ですが、時折意識してみるといいでしょう。