ノーベル経済学賞学者であるP・クルーグマンは「QE2は規模が小さすぎて成功しなかった。QE3は大規模に実施すべきである」と発言している。財政不安だとか何だとか言ってせこい政策を小出しにしていると、結局、高くつくことは歴史が証明している。古くは30年代の恐慌、最近では日本の失われた20年や今のユーロの状況がそうだ。

米国のITバブル崩壊後(2000年以降)の相場は社会主義的? な傾向が顕著であり、株価の動向は中央銀行の政策次第となっている。10月4日の急落から米株市場が切り返した理由も、バーナンキ議長が上下両院合同経済委員会で、米経済の現状を「息切れに近い」として「FRBが一段の緩和策をとる用意がある」ことを表明したからである。米国株の動きを観察していると、FOMCの日かバーナンキの発言があった日が相場の転換点となっている。

NYダウ(日足) FOMCとバーナンキ発言の日が相場の転換点に


(出所:石原順)

危機の後に景気が少しよくなると、インフレファイターである中央銀行は金融を引き締めようとするが、これをやると「日本化」する。物価が上がっても金融を引き締めないということはインフレターゲット政策を意味するが、昨日12日に発表された9月のFOMC議事録では明確なインフレ目標の導入を用意しているとは言及していないものの、近い将来、FRBはインフレ目標やQE3といったリフレ策を考慮していることは間違いないだろう。FOMC議事録では一部参加者が「QE3を景気浮揚策の選択肢として温存するべきだ」と主張しているように、市場の予想に反してQE3が行われる可能性は大きくなっている。

10月4日のバーナンキ発言、10月6日のBOE英国版QE2(資産買い取りプログラムの規模を2,750億ポンド=約32兆3,000億円に拡大)・ECBの流動性供給と、10月に入り中央銀行の政策に動きがあった。筆者は世界の金融株の動きを注意深く見ていたが、金融株が下がらなくなったので、「目先のユーロ売りは峠を越えたな」と言う感触を持った。

そうした中、10月10日にフランスとベルギー資本の銀行であるデクシアが破綻した。ベルギー政府はデクシアの国内銀行部門を国有化した。ユーロ圏の債務危機を押さえ込む方法は2つしかない。「脆弱な金融機関への公的資金の注入」と「パニックを封じ込めるのに十分な量の流動性供給」である。デクシアは事実上倒産したが、すんなりと公的資金が注入された(900億ユーロ=約9兆4,000億円)模の公的支援)ことを市場は好感したようだ。

なんだか98年の日本の金融危機のデジャブのようだが、デクシアの解体が催促となって、独仏首脳が週末の会談で「11月初旬のG20首脳会談までにユーロ圏債務危機対策を打ち出す」ことに合意した。後手に回っている政策が迅速に打ち出されるには、誰もがカネを出すことに納得する「銀行の倒産」や「株価の暴落」が生け贄として差し出されるということである。

サルコジ・メルケル会談で、メルケル首相が「フランスとドイツが、銀行やギリシャの問題に加え、ユーロ圏の経済的連携を高めるための施策を練っている」と発言したことで、G20までに何らかの対応がとられる可能性があるとみた市場は、リスク資産の買い戻しに転じている。投機筋の標的となり売られていた欧州系の銀行の株価も急反発している。ただ、これはあくまで「政策期待相場」であり、具体的な対策が出てきたわけではない。

BNPパリバ(左)とデクシア(右)の日足

デクシアの破綻で独・仏首脳が動いた


(出所:石原順)

バンカメ(左)とモルガンスタンレー(右)の日足

米国のバンカメ、モルガンスタンレーの株価も投機筋の買い戻しによって反発


(出所:石原順)

ユーロ売りで美味しかった期間は、標準偏差ボラティリティとADXが一緒に勢いよく上がっていた下のチャートの水色の部分である。筆者は金融株が下がらなくなったのでユーロ売りはやめていたが、10月1日安値1.3146から昨日高値1.3846までのユーロ急上昇は欧州系銀行のリパトリ(海外からの資金引き上げ)が上昇の大きな要因だ。昨日の相場では投機筋の損切り(買い戻し)が大量に出たようだが、このユーロ急上昇でファンド勢は大きな損を出したと聞いている。ユーロ圏の金融危機相場はイタチごっこと堂々巡りを続けており、ユーロ/ドル相場は投機筋による「投げと踏みの応酬」となっている。

ユーロ/ドル(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

現在のリスク資産相場は、売りトレンドが終了した後の「調整相場」である。危機(売り)相場が一旦後退したことは間違いないだろう。豪ドル/円もユーロ/円も10月7日に20日ATRが3日連続で下がるような形状となったため、下値不安の強い相場は一旦終息した。基本は売りトレンド終了後の調整相場なので、「戻り終われば反落し、下げ止まればまた買われる」というレンジの展開を予想している。

「豪ドル/円はどこまで戻りますか?」という照会が多いが、直近下げ幅の61.8%戻しを昨日に達成している。一旦、いいところまで戻ったといえるだろう。この上の節は80円か83円が上値の目処という事になるが、過去の9日RSIの水準かATRの動きをみて判断するのがよいだろう。相場が21日移動平均線の上にあるうちは、目先、堅調な相場が続くと思われる。

豪ドル/円(日足)と20日ATRの推移 2008~2011年


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足) 円高警報(赤枠)と売りトレンド(緑枠)は消滅

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:13日移動平均乖離±3%乖離(青)
下段:20日ATR(青)


(出所:石原順)

ユーロ/円(日足) 円高警報(赤枠)と売りトレンド(緑枠)は消滅

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:13日移動平均乖離±3%乖離(青)
下段:20日ATR(青)


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足) フィボナッチのリトレースメントでみる戻りの目処


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足)

上段:21日ボリンジャーバンド2σ(青)
中段:9日RSI(赤) 下段:20日ATR(青)


(出所:石原順)