ゴールドの税金対策のポイントは「いつ」「いくら」売るか

 前回、前々回と金(ゴールド)を売却した場合の税金について解説してきました。今回はラストとして、具体的に税金を低く抑える対策を中心にお話ししていきたいと思います。

 まず簡単に税金対策のポイントを申し上げると「いつ売るか」「いくら売るか」を調整しながら税金上有利な売却方法を考えていく、ということになります。

 なぜなら、売却による利益の額が同じであっても、所有期間が5年超であれば、5年以内の場合に比べ、課税対象となる所得金額が2分の1になり、それだけ税額も少なくなるからです。

 また、ゴールドの売却益は累進課税のため、同じ年にまとめて売るより、年を分けて売却した方が、税額が安くなる可能性もあります。

 以下に具体例を示しますので、ご参考にしてください。なお、いずれもゴールドの売却益以外の課税所得(所得控除などを全て反映後の額とします)はどの年も500万円とし、説明を分かりやすくするため手数料や復興特別所得税など細かい点は無視しています。

(具体例1)5年超となる時期を待ってから売る

 現在ゴールドの保有期間が4年11カ月で、売却すると500万円の利益が生じるとします。

 現時点で売却すると、短期譲渡所得の取り扱いとなるので、課税される金額は

 売却益500万円-特別控除50万円=450万円

 他の課税所得と合算すると500万円+450万円=950万円なので所得税、住民税合わせて約255万円。

 ゴールドの売却がないものとした場合は500万円の課税所得となり、税額は約107万円。

 255万円と107万円の差額である148万円がゴールドの売却による税額となります。

 でも、売却を2カ月ほど先延ばしすると、所有期間が5年超となり、長期譲渡所得となります。

 この場合、課税される金額は

(売却益500万円-特別控除50万円)×1/2=225万円となります。

 他の課税所得と合算すると500万円+225万円=725万円なので所得税、住民税合わせて約176万円。

 ゴールドの売却がないものとした場合の税額107万円との差額は69万円となり、短期譲渡所得に該当する場合より79万円も税額が安くなります。

 このように、もう少し保有すれば所有期間5年超となる場合は、5年超となってから売却すると税金面で有利となる可能性が高いです。

(具体例2)年をまたいで2年間に分けて売る

 次に、例えば12月の終わりにゴールドを売却して500万円の利益が出たとします。なお、短期譲渡所得に該当するものとします。

 具体例1と同様、課税される所得金額は450万円なので他の課税所得500万円と合算した950万円に対して255万円の税額となり、ゴールドの売却による税額は255万円-107万円=148万円となります。

 では、今年12月の終わりと翌年1月初めの2回に分けて、半分ずつゴールドを売却するとどうなるでしょうか。なお、ゴールドの価格は同額とします。

 今年も翌年も、売却益は250万円ずつになります。すると課税される所得は両年とも

 250万円-特別控除50万円=200万円

 となります。

 他の課税所得と合算すると500万円+200万円=700万円となり、所得税・住民税合わせて約167万円。

 167万円とゴールドの売却がない場合との107万円の差額である60万円がゴールドの売却による税額となります。

 これが今年と翌年の2年間あるので、2年間トータルでは60万円×2=120万円。一度にまとめて売却した場合の148万円に比べると、28万円税金が安くなるのです。

 このように、売却の時期をコントロールすることで税額を抑えることが可能です。

 ただし、これはゴールドだけでなく、株式や暗号資産などにも共通して言えることなのですが、税金面でのメリット・デメリットにこだわり過ぎると、本来であれば売るべきタイミングを逃してしまい、かえって手取り金額を減らしてしまう可能性もありますのでご注意ください。

ゴールドの売却益と上場株式の売却損は損益通算できるの?

 筆者の元へ最近よく来る質問として、「ゴールドの売却で利益が出たが、一方で上場株式の売却で損失が生じている。ゴールドの売却益と上場株式の売却損は損益通算できるのか?」というものがあります。

 結論から申し上げると、残念ながらゴールドの売却損益と上場株式の売却損益は損益通算できません。ゴールドの売却損益は「総合課税の譲渡所得」、上場株式の売却損益は「申告分離課税の譲渡所得」であり、両者は課税方法が異なるからです。

 現状はゴールドの売却で利益が生じるケースがほとんどだと思いますが、ゴールドの売却で損失が出ていて、上場株式の売却で利益が出ている場合も同様、両者の損益通算はできません。

 また、ゴールドの売却損については、上場株式のように3年間の繰り越しといった制度は設けられておりません。

 他の総合課税の譲渡所得と損益通算することはできますが、それ以外は切り捨てとなってしまいます。給与所得や事業所得、不動産所得といった所得と損益通算することもできません。

金のETF:金投資だけど株式と同じ扱い?

 さて、今までは金(ゴールド)そのもの、つまり金地金(きんじがね)を売却した際の税金の話をしてきました。

 実はETF(上場投資信託)の中に、ゴールドを投資対象とするものがあります。このETFの売却益は、株式を投資対象とするETFと同様、「申告分離課税の譲渡所得」として、20.315%の税率で課税されます。

 そして、ゴールドのETFの課税は、上場株式などと同じ方法ですので、上場株式や投資信託などの売却損益と損益通算することができます。

 また、損益通算しても残った売却損については確定申告により3年間繰り越すこともできますし、ETFなのでNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)口座で投資すれば、売却益は非課税とすることも可能です。

 金地金として投資するか、ゴールドのETFに投資するかにより、税金の扱いが異なります。どちらが有利になるかは、他の所得の状況だけでなく、所有期間や売却益がどのくらいかといった要素も絡んでくるため一概には言えません。

 ただ、他の所得が1,000万円を超えるような方は、税金の面だけとらえれば、ゴールドのETFが有利なことが多いのではないかと思います。