円高反転への兆しか

 ドル/円は再び一服した動きとなりました。3月の終わりに125円台を付けた後、121円台前半まで調整され、その後10日ほど一服して129円台に上昇しましたが、今回の一服は円高反転への兆しなのでしょうか。

 あるいは、やはり一服しているだけなのでしょうか。もし、その場合、どのくらいの期間の一服になるのでしょうか。先週からのドル/円の動きを振り返ってみたいと思います。

 先週は週初の126円台から円安スピードがさらに加速し、20日早朝には129円台を付けました。しかし、*G7や日米財務相会談を控えた警戒感から129円台は維持できず、128円台に下落しました。

 その後日米財務相会談において協調介入が議論されたと報じられると128円を割り込み127円台後半まで下落しましたが、黒田東彦日本銀行総裁が米コロンビア大学での講演で、「円安でも積極的な金融緩和を継続する必要がある」と発言したとの報道が伝わると、再び129円台に乗せました。

 ところが、「円が下落との部分はなく、円についての言及はなかった」との訂正報道によって128円台に下落し、米株の大幅下落や米金利の低下を背景に、ドル/円は128円台半ばで先週を終えました。

 日米協調介入については、さまざまな臆測が流れていましたが、22日に米国財務省が、「イエレン米財務長官と鈴木俊一財務相は為替市場を含む金融市場の動向を協議し、為替レートに関してはG7や**G20の従来のコミットメントを維持する重要性を強調した」との声明を発表しました。

 また、23日には、日本の財務省高官が日米財務相会談で日米協調介入が議論されたとの報道を否定しました。これらの声明や否定報道によって介入の臆測は打ち消されましたが、週明けの東京市場では特段影響がありませんでした。

 鈴木俊一財務相も帰国後、26日の閣議後の記者会見で、日米財務相会談で協調介入について協議したとする報道について、「その報道は事実に反する」と述べ、否定しました。

*G7…カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国の7カ国
**G20…G7の7カ国にアルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、韓国、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、欧州連合・欧州中央銀行を加えた20カ国・地域

日銀会合に注目

 マーケットでは5月のFOMC(米連邦公開市場委員会)だけでなく、その前に開催される4月27~28日の日銀金融政策決定会合の注目度が高まっています。

 26日の為替市場では、海外時間にドル/円やクロス円の円高が進みましたが、日銀の決定会合を警戒して円売りポジションを縮めた動きではないかとの見方もあるようです。

 日銀が28日に展望レポートで公表する2022年度の物価見通しを1%台後半に上方修正されるとの観測が出ています。

 どの程度上方修正されるのか、そして物価見通しが修正される中で金融緩和政策維持についてどのような展望を日銀が描くのか、また、円安についての見方を変えないのかどうかを注目したいと思います。

 少しでも政策変更(金融引き締め方向)につながるような材料が出れば円高に反応しますが、予想の範囲内の見通しであったり、政策変更なしの場合は、材料出尽くしあるいは失望感から再び円売りに動くことも予想されるため注意する必要があります。

FRB利上げ加速の警戒感

 5月3~4日のFOMCでは、0.5%の利上げが織り込まれたとはいえ、0.5%利上げの次の一手が加速するような内容が声明文や記者会見で示唆されると、ドル/円や長期金利も再び上昇を始める可能性もあるため注視する必要があります。

 21日の討論会でのパウエル議長の発言が株式市場を揺さぶりました。

 パウエル議長は次回FOMCでの0.5%利上げも選択肢と述べ、さらに2004年から2006年にかけて0.25%の利上げを続けた金融引き締め期を引き合いに出し、「当時よりもインフレ率はずっと高いし、政策金利はまだかなり緩和的だ。私の考えではもう少し早く動くのが適切と思う」と述べたことから、米株式市場では0.5%の次は0.75%とさらなる利上げの加速への警戒感から、米ダウは1,000ドル近く下げるほど急落し、その後も続落しています。

 利上げの加速とは、5月、6月、7月で各0.5%の利上げだけでなく、6月か7月に0.75%、あるいは両月とも0.75%、あるいは6月0.75%、7月1%と、まさに利上げ幅を加速させるような見方です。夏場までに中立金利(2.25%)に一気に近づけるような利上げは、株式市場にショックを与え、長期金利は上昇し、ドル高が予想されます。

 そして日銀の決定会合はゴールデンウィーク(GW)の前に開催され、FOMCはGW真っただ中に開催されるため、アジア時間帯は流動性の低下によって相場が乱高下する可能性があり注意する必要があります。GW中、あるいはGW後に次の方向が見えてくるかもしれません。

原油一服、食料上昇

 25日の原油はWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)で一時6%近く下落し、100ドルを割れました。北京など中国の都市封鎖が拡大していくことが懸念され、世界経済停滞による需要減少で原油が売られたようです。

 3月と比べて原油価格も上昇一服となっていますが、食料価格は上昇を続けており警戒する必要があります。

 4月8日、FAO(国際連合食糧農業機関)は3月のFFPI(FAO食料価格指数、2014~2016年=100)が2カ月連続で過去最高値を更新したと発表しました。FFPIは、国際農産物市場の動向を監視するための価格指数で、肉類、穀類、植物油、乳製品、砂糖の5つのグループの価格指数から算出されています。

 FAOは3月の上昇について、ウクライナ紛争が主要穀物と植物油の市場に影響を与えた、と説明しています。植物油は2月から23%の急上昇となり、3カ月連続で過去最高値を更新しました。ヒマワリ油はロシアとウクライナで生産の50%以上を占めていますが、紛争の中で輸出が減少したことにより、3月のヒマワリ油の国際相場は大幅に上昇しました。

 FAOは「ヒマワリ油の供給が混乱したため、パーム油、大豆油、菜種油の価格も著しく上昇した」と分析しています。日本でもサラダオイルなど食用油が値上がりしていますが、まだこれからも値上がりするということになりそうです。

 また、2021~2022年の穀物世界貿易を、3月の見通しから3%引き下げています。ウクライナとロシアの小麦(世界の3割)とトウモロコシ(世界の2割)の輸出減少が影響しているようです。

 そして農産物の食糧価格も注目ですが、同時に注目したいのは主要肥料の荷動きです。

 ロシアやベラルーシは主要肥料の生産や輸出で上位を占めており、制裁によって主要肥料の物流が鈍くなれば、肥料自体の価格も上昇し、世界の農産物全般の生産や価格に影響を与え、食料不足や物価高騰によって社会が不安定になる恐れがあります。

 原油価格一服によって物価の上昇もひと息つくかと思いきや、食料価格が高止まりもしくは上昇が続くとなると、各国の金融引き締めのペースは鈍ることがないかもしれません。一難去ってまた一難、なかなか気を緩める局面にはならないかもしれません。