今週の市場は今年4度目のブラックスワン相場となった。9月6日の夕方、スイス中銀は「スイスの対ユーロ相場を1ユーロ=1.20スイスフランとする上限目標を設定し、無制限に購入する」と発表した。この日の相場でユーロ/スイスが約1割急落し、1日の下げ幅としては過去最大を記録した。ドル/スイスも同様の大変動を記録している。

ユーロ/スイス(日足) ボラティリティレベルが高すぎる

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

ドル/スイス(日足) ボラティリティレベルが高すぎる

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

前日にスイス銀行協会は「異例な状況下ではユーロ/スイスの目標相場を一時的に設定する可能性もある」とコメントを出していた。しかし、G7を前にユーロペッグのような近隣窮乏化政策を打ってくるとは常識的に考えにくいし、ユーロ圏の承認も得ないで実効性に疑問があるということで、スイス中銀の発表直前までスイスは買われていたのである。スイス中銀は相当に思い切った策を打ってきたわけだが、3月のトリシェ・ショック(不景気下のユーロ圏の利上げ)といい主要国の金融政策はバラバラで、もうG7の時代は終わったと言うことかも知れない。ブローカーの話によると、6日の取引ではスイスクロスのストップロス注文が全てヒットしたらしい。

余談だが、スイスに籍をおくマクロヘッジファンドのいくつかは「スイスフランは買われすぎである」という相場観で逆バリ(スイス売り)を行っていた。これらのファンドの多くが6日のスイス急落の前に、スイス高によって破綻に追い込まれている。事情通の話ではスイスの売り買いで(8月~9月にかけて)相当痛んだファンドが多いということらしいが、いずれにせよ、ストップロス注文を置かないトレーダーは市場から消えていくということである。

今週はもう一つ「ありえないだろう」ということが発表された。「米連邦住宅金融局(FHFA)は2日、世界の17の金融機関が監督下のファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)とフレディマック(連邦住宅貸付抵当公社)に合計1,960億ドル相当のリスクの高い住宅ローンを、適切な情報を開示せず4年にわたり販売していたとして、連邦裁など計3カ所の裁判所に提訴した」(ロイター) という報道である。金融危機の再燃が噂される状況下にあって、米当局が銀行を裁判で訴えて金をとろうというのは常識的にはありえない。

仮に裁判で米政府が勝訴した場合、同様の債券をもつ投資家は損害賠償の裁判を起こすだろう。既に銀行は住宅ローン証券をめぐる多額の訴訟をかかえており、これ以上銀行を追い込むとまた金融危機が起こりかねない。「米政府は何を考えているのだ」と怒り心頭の株の運用者は多いが、訴訟の裏になにがあるのか筆者にはわからない。

今週はこの後、本日8日のトリシェECB総裁会見、9日のバーナンキFRB議長会見・オバマ大統領会見、週末のG7など注目されるイベントが目白押しである。「市場を失望させるようなことはあまり言わないだろう」ということで、リスク回避の動きは弱まるとの見通しも多いが、基本的には9月20日~21日のFOMC待ちの相場だろう。

最近、いろいろなところで「ドルはどこまで下がるのか?」「ドルはもう上がらないのか?」という類の質問をされるのだが、筆者は「米株が下がればドルは上がります」と答えている。それに対して皆さん、キョトンとした表情をされているのだが、相場は単純なロジックでしか動かない。ドルの総合的な実力を映すドルインデックス先物とNYダウの動きをみていると、概ねNYダウが上昇基調にあるときはドルインデックスが下げ基調(黄色の部分)となっている。逆に株の上昇基調が終わると、ドルインデックスは上昇基調となっている。

ドルインデックス先物(上段)とNYダウ(下段)の日足(2006年~2011年)


(出所:石原順)

では、株(NYダウ)がどういうときに上がるのかというと、リーマン危機後の相場ではFRBがQE1・QE2という量的緩和政策を行っている期間に限られている。昨今の相場においては、株やドルの方向というのはFRBの政策が決めているのだ。

NYダウ(週足)と米国の量的緩和政策

QE1・QE2(量的緩和)期間は概ね株高傾向


(出所:石原順)

ドルインデックス先物(日足)と米国の量的緩和政策

QE1・QE2(量的緩和)期間は概ねドル安傾向


(出所:石原順)

相場が下落しやすい秋相場だが、仮にもう一段の世界的な株安があれば、ドルが上がる確率は大きい。しかし、どの通貨にも当てはまるわけでなく、ドル上昇の主役は対ユーロでの相場となる。円・スイスフラン・シンガポールドルなどの逃避通貨に対しては、ドルは上がりにくい。一方で、米国が大規模な追加の量的緩和を打ち出せば、株高・ドル安相場となるだろう。米国の「次の一手」が出てくるまで、我々は「DAX」や「NYダウ」の値動きをみながら為替相場に対応するしかない。

DAX(ドイツの株価指数)の日足

金融危機の火薬庫欧州の優等生ドイツの株がこんなことでは…
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド0.6σ(緑)


(出所:石原順)

最後に円相場の動向についてふれておこう。ドル/円は21日ボリンジャーバンドが収縮し、相場が円高・円安のどちらかに振れる前兆が出ている。26日標準偏差ボラティリティの上昇(ボリンジャーバンドの拡大)をまって対処したい。

ドル/円(日足)トレンドは発生するか?

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

豪ドル/円はまだ逆バリでよいだろう。豪ドル/ドルの売りトレンドは消滅し、豪ドル/ドルは典型的な調整相場となっている。豪ドル/円は20日ATRも26日標準偏差ボラティリティも低下しており、レンジ相場を示唆している。

豪ドル/ドル(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)・2σ(赤)
下段:20日ATR(青)


(出所:石原順)