資産形成の正解は人それぞれですが、一方で、多くの人が失敗してしまう考え方や、やり方があるようです。このシリーズでは、資産形成を始める人が陥りがちな失敗事例を取り上げ、やってはいけない行動をわかりやすく解説します。

お悩み

急速な円安!為替で利益が出ている保有資産をどうしたらいいのか?

大木夢花さん(仮名)会社員・40歳(既婚、子ども2人)

 大木さんは5年ほど前から子どもの将来の学費などを貯める目的で、主に米国S&P500に投資する投資信託へ積立投資をしていました。コロナショックで一時的に大きく資産が目減りするときもありましたが、順調に資産を増やしています。

 今年に入って株式相場が下落基調であることを不安に思っていましたが、その一方で米ドルが急速に円安になってきました。すると、株価の下落分以上に為替で評価益が出て、結果的に投資の含み益は過去最高値になっていました。

 まだ積立しているお金を取り崩す必要はないのですが、いったん売却して様子を見た方がいいのか、それとも気にせずに積立を続けるべきかどうか悩んでいます。

 株式の値動きばかり気にしていたので、あまり為替の影響を考えてきておらず、円安がここまで進むとも思っていませんでした。はたして、大木さんは何に注意して投資信託の継続や売却について判断するべきなのでしょうか?

円安が保有資産にどんな影響をあたえているのか?

 資産運用で海外投資があたりまえになっている昨今では、円安になればそれだけ投資した資産が増える人が多いでしょう。海外投資といってもその中心は米国が対象となっており、為替でいえば米ドルです。もちろん分散投資をしていれば、ユーロ、豪ドルの他、新興国通貨への投資をしている人もいます。

 私たちの生活を考えると円安は一概に良いとはいえませんが、海外資産に投資しているという点で考えると資産が増えるというわかりやすいメリットがあります。

 米ドルで考えると、今年3月からの急激な円安の背景には「米国の利上げ開始」「資源価格などの高騰による日本の貿易収支の悪化」「日本銀行の指し値オペによる日本の金利抑制」が考えられます。

 今後も為替が円安になるのか、現状の水準が続くのか、円高方向に動くのかは相場次第ではありますが、為替の急激な変動は個人投資家にとってどのような判断が求められるのか、今回は世界の主要通貨である米ドルでお伝えしたいと思います。

米ドルが円安時に注意しておきたい投資信託のポイントとは?

 米ドルが円安に動いても全ての人に利益(為替益)があるわけではありません。当たり前ですが、米ドルに投資している必要があります。単純に通貨で米ドルを保有しているだけならわかりやすいですが、株式や債券などを保有していれば為替だけでなく投資資産(この場合は株式や債券)も価格変動の影響を受けます。

 ただし、為替の影響という面で考えれば、保有株式や債券の値動きはいったん置いておいて(投資信託などで分散投資をしている場合や複数商品を保有しているなら、月次レポートなどもみながら)、投資資産全体の通貨別でみた米ドルの比率を把握しておけば良いでしょう。

 端的にいえば、米ドルが1円動くことによって自分の資産がどのように上下動するのか、配当や利息はどうなるのかを知っておくことが重要です。その上で、投資信託を利用した場合の、投資判断として知っていただきたいポイントの例をお伝えします。

​円安でも積立投資は続けるべき?

円安時に注意したい投信のこと1:円安で保有資産の価格はどうなっているのか?

 投資信託の基準価額は、日本円でその残高や評価損益が記載されています。例えば米国株S&P500に連動する商品なら日々の価額変動は、為替の値動き・株価の値動き・日々のコストを引いた数値が表示されています。

 その価額表示は単純に前日の株価終値や為替というわけではなく、商品によって価格表示に採用されるデータは違います。そのため、前日の株価終値や前々日の為替などややタイムラグがあることを知っておく必要があります。さらに複数国の為替に分散投資しているようなら、それらの比率に応じて円安がどのように影響を受けているかを考えます。

 今回の円安は、日本円が各国通貨に対して全面的に円安になっているのでわかりやすいですが、もし米ドル高によって円安になっており他の通貨はそれほど円安に動いていないなら、正確な判断はより複雑になります(そこまで気にする必要もないかもしれませんが)。

 つまり投資信託の価額変動だけで、為替の影響を判断することはできません。月次レポートから投資先資産や為替の比率を確認し、日々の値動きがいつ時点の数値を採用しているかを理解しておく必要があります。

 長期的な投資をしているときは気にならないかもしれませんが、相場が大きく変動しているときや売買のタイミングを考えているときなどは、投資信託の価額にはよくよく注意しておくことが重要です。

円安時に注意したい投信のこと2:急激な円安でも積立投資を続けるべきか?

 ここ数年で投資信託の積立投資を始める人が急激に増えました。中には自分ではなく、子どもや孫の教育資金を積立投資で用意したいというニーズが多くあります。

 積立投資で一番の注意点といえば、いかに継続して投資が続けられるかどうかです。積立投資をやめてしまう理由の一つに、投資の評価損が嫌になってしまうことが挙げられます。

 それに加えて、逆に相場が大きく上昇した場合にも高値での買い付けになるのではと考えて積立をやめてしまうケースも散見されます。急激な円安もまさにこのケースに該当します。

 積立投資の残高が予想よりも大きく値上がりしているといったん利益確保のために売却したくなるのもわかります。結果的には相場が大きく崩れる前に売却できたなら売却が正解だったということもあるでしょう。

 とはいえ積立投資の本質は、長期間かけてまとまった資金を貯めるために積立をしながら、同時に運用をすることで効率的に資産を増やすことです。そして基本的にインデックス投資などの株式相場に連動した商品を定期的に買付するため、相場の機微や売買のタイミングなどを考える必要がありません。積立投資は、投資経験や知識に頼らない資産形成の一環です。

 よほどのことがない限りは、積立投資をするのなら機械的に投資を続けることが重要です。過去の相場を見ても毎年上下に変動していることがわかります。タイミングをみて売ったり買ったりを繰り返す投資と、積立投資はしっかり分けるようにしましょう。

為替ヘッジありなしをチェック!

円安時に注意したい投信のこと3:為替ヘッジをしている投資信託のコストは?

 投資信託の中には為替リスクを抑えるために、為替ヘッジ取引を選択できる商品がいくつもあります。円高時には為替リスクによって資産が減らずにすみますが、逆に円安時には資産が増えることもありません。為替リスクを取るべきかどうかは、個人のニーズによって変わるでしょう。

 リスクを抑えるという点では効果的な為替ヘッジですが、ここで注意しておきたいことは「為替ヘッジのコスト」です。

 現在、米ドルが円安に動いている理由の一つとして、日米金利差が拡大していることが挙げられます。この金利差が拡大することは、為替ヘッジのコスト増加につながっています。なぜなら「為替ヘッジのコスト≒米ドルの短期金利-日本円の短期金利」であるため、仮に金利差を2%とすると投資信託の運用コストのうち為替ヘッジだけで2%近くかかることになります。

 為替ヘッジのコストは、金利差などによって変動するため投資信託の資料を見ても具体的な数値は記載されていないことが一般的です。金利差が広がっているときはコストを意識しておくとともに、月次レポートで実際にどの程度費用がかかったのかを確認し、為替リスクを抑える費用として許容できる範囲なのかを検討する必要があります。

海外へ投資する投資信託なら為替の影響や仕組みを理解しよう

一つひとつの疑問点を解決し、理解を深めることが投資では大切

 日々相場を見て分析を繰り返したり、投資の勉強をしたりし続けている人は、仕事でもなければそれほど多くはないでしょう。特に資産形成をしている最中の人ほど、普段は仕事や家庭の用事などで投資に時間を割くことが難しい人の方が多いのではないでしょうか?

 しかし、長期投資をしているなら、そのような日々の相場に振り回される必要はありませんし、投資に慣れていなければまずは少額からはじめて、投資に慣れることの方が重要です。投資をしながら一つひとつの疑問を解決させることで知識が深まり、経験が積み上がっていきます。

 投資では、やってみなければわからないことがたくさんあるということを知っておきましょう。

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