米国市場が引けた後の8月5日の夜、S&Pが、米国債の格付けをトリプルAから1段階引き下げ、ダブルA+に格下げした。元来、格付け機関は米英の金融村の都合によって勝手格付けしている組織である。NYダウが大幅安となっている最悪のタイミング(世界株安の最中)で、金融システムの破壊工作を行うことは通常考えにくい。いずれにせよ、運用の1丁目1番地である米国債格下げは歴史的な事件であり、世界の運用者は何を信じてよいのかわからなくなっている。

S&Pは以前より「米政府が4兆ドルの赤字削減を達成できない場合、米国債を格下げせざるを得ない」とコメントしており、いずれ格下げは免れないとの見方を市場はとっていたが、S&Pの今回の格下げに関しては、「なぜ、このタイミングで?」という声が多く聞かれる。

S&Pが米国債を格下げした理由は、「ユーロ圏の国債格下げに対して、欧州当局から非難や捜査を受けているため、つじつま合わせのために米国債を格下げした」「株を意図的に下げて、QE3をやる腹だ」「共和党とS&Pの政治的思惑だ」など、様々な憶測が飛び交っている。米国債の格下げについては、ムーディーズがトリプルAを維持しているが、フィッチは8月末までに決めるとしている。仮にフィッチも格下げに動くようだと、波乱の第2幕が開く可能性があり今後も注意が必要だ。

業績の決して悪くない米国株が下落し、格下げの渦中にある米国債が買われているのは笑止千万だが、この現象には背後に深い闇がある。昨日のWSJで「著名ヘッジファンドであるポールソンのアドバンテージ・プラス・ファンドが年初から31%下落」と報じられたが、この損失はシティバンクやバンカメなどの銀行株によるものだ。

フィラデルフィア銀行株指数(日足)


(出所:石原順)

バンクオブアメリカ(日足)


(出所:石原順)

現在、世界の金融市場はNYダウとその先物の動きを24時間注視し、NYダウと連動する形で動いているが、一部のファンドはNYダウよりも銀行株指数やバンカメ、シティバンクといった米銀株の動きを注視している。アップル現象にみられるように米国製造業の空洞化が問題となっているが、米国企業の業績は決して悪くない。であるにもかかわらず、米国株が売られているのは金融危機再燃の噂があるからだ。

2008年にカントリーワイドを買収したバンカメは、4-6月期決算は88億ドルの損失を計上するなど、住宅ローン債権の劣化に苦しんでいる。8月5日にファニーメイがバンカメから不良債権を5億ドルで買い取る契約を結んだことで、ファンド勢の一部からは「リーマン危機のツケがいよいよまわってきた」との声が聞こえる。リーマン危機で出来た巨額の損失は会計基準を変更して金融機関に温存されているが、住宅市況の悪化で表面化する可能性があるだろう。FOMCは「2013年半ばまで異例の低水準に維持することが正当化される」として時間軸をなんと2013年半ば(2年)」も長期化してきたが、この決定の裏には不良債権や住宅市況の悪化が半端ではないという事情がある。

NYダウ(左)とVIX恐怖指数(右)の日足 株もダメ


(出所:石原順)

原油先物(左)と大豆先物(右)の日足 商品もダメ


(出所:石原順)

ドルインデックス(左)と米10年国債利回り(右)の日足 ドルは横這い


(出所:石原順)

上記のチャートを見て頂くと、買われているのは米国債だけである。もう何度も書いているが、為替の世界ではスイスと円が選好され、無国籍通貨であるゴールドは史上最高値相場となっている。

ゴールド先物(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド0.6σ(緑)


(出所:石原順)

ドル/スイス(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

スイス/円(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

円相場の焦点は当局の介入姿勢だ。介入でトレンドが変わるものではないが、本日も日銀のレートチェックの噂、邦銀の買いなど「介入」を期待する相場動向である。しかし、ATRがピークアウトし相場が落ち着かない限り、丁半バクチ的なジェットコースター相場が続くだろう。果敢な逆バリファンドはストップ注文を置いて、ドル/円の76円30銭台や豪ドル/円の76円台は買いを狙っているとも聞く。しかし、ポジションは大きくない。ファンドは夏休みに入っているところも多く、投資方針を決めるのは8月26日のジャクソンホール待ちということらしい。

ドル/円(日足)

上段:21日ボリンジャーバンド2σ(青)
下段:20日ATR(青)


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足)

上段:21日ボリンジャーバンド2σ(青)
中段:9日RSI(赤)
下段:20日ATR(青)


(出所:石原順)