米株のトレーダーと話をしていて、「最近何で稼いでいるの?」と聞くと、「フラッシュ取引」だという。フラッシュ取引とは1,000分の1秒単位の莫大な量の超高速取引であるが、後出しジャンケンと呼ばれるせこい取引を行っているのが実情らしい。

そのトレーダーの話では、今のウォール街の立ち位置は微妙であるという。「あまり株が上がりすぎると“出口”、すなわち引き締め観測が浮上する。そうなったらウォール街は終わりだ。だから米国株の天井は高くないだろう。一方、QE3を催促しようにも、実現するにはまだ時間がかかる。だから、当面はレンジ相場で推移しているのが一番良い」ということらしい。

NYダウ(日足)QE2後の相場は?


(出所:石原順)

取引所にPCを置いていない連中はフラッシュ取引など出来ないので、行き場のなくなったファンドマネーの一部(狭いレンジで稼ぐのが嫌な連中)は国際的な循環物色の観点から新興国市場に流れ出した。

ブラジルボベスパ指数(左)と上海総合指数(右)の日足


(出所:石原順)

6月30日をもってQE2は終了したが、QE2終了前の5月あたりから急に世界中が不景気風に吹かれている。6月30日のWSJ紙は「米国債相場のトレンドが既に変わりはじめた」と報道し、ゴールドマンサックスは、「4月以来の米国債の上昇(金利低下)過程は終わった。年後半の米国債相場は、下落(金利上昇)傾向となるだろう」と予測している。月間750億ドル、合計6,000億ドル分の米国債を購入してきた買い手(FRB)がいなくなることで米国債市場は波乱含みだ。雇用の回復はままならず、住宅も2番底、中間層は「スクリューフレーション」で没落という米国経済にあって、一番困るのはインフレである。

米国とユーロ圏の消費者物価指数 不景気のインフレは困る!


(出所:石原順)

米10年国債金利(日足)米金利は6月がボトムか?


(出所:石原順)

国際エネルギー機関(IEA)は6月23日に加盟28カ国による石油備蓄の放出を発表した。6千万バレルという放出量では緩和効果はないが、与謝野馨経済財政担当相が「実需を埋めるというよりは投機に対する売り向かいと理解したらいい」と発言しているように、投機筋を牽制するためのアナウンスメント効果を狙ったものだろう。

QE2が終了するタイミングで米国が強引に原油市場に介入してきたのは興味深い。未曾有の規模で財政出動と量的緩和をおこなったものの、景気回復が思うように進まない中、奥の手であるQE3を実施するには、NYダウの10000ドル割れ(ピークから20%程度の下落)、失業率の10%超えなど大義名分が必要だ。しかし、商品市況の高騰でインフレが進行するとQE3を行うことも出来ず、米国は打つ手がなくなる。

今後インフレが進行すれば、米国はインフレの安全弁として通貨高=ドル高を志向する可能性もある。いずれにせよ、今後の原油価格の動向に為替相場は大きな影響を受けるだろう。最近、QE2批判や悪玉論のような論調をよく目にするが、QE1およびQE2に効果があったかなかったかは5年~10年経ってはじめてわかることあり、こういった政策は善悪ではなく、景気の回復を待つという「時間稼ぎ」のためにやっているのである。ギリシャ問題の先送りも同じ事だ。

原油先物(日足)世界経済の波乱要因?


(出所:石原順)

米・欧・日のいずれも悪さ比べとなっているなか、為替市場は相場の柱がなくなっている。
事を一層複雑にしているのはユーロの動向で、3月のトリシェ・ショック以降は「金利差相場」と「ギリシャ問題」の混在からランダムネスな相場展開が続いている。ユーロ圏の悪材料を上げればきりがない。

しかし、ギリシャの悪材料が連日報道され、皆が構えているときは往々にして危機は起こらない。皆がびびってしまって、ユーロの下げに対してしっかりヘッジを行っているからだ。一方、問題先送り的な好材料?が出ると、ヘッジや売り方の買い戻し相場となってしまう。

ユーロ圏の国債の金利やCDS指数をみれば、少なくとも1.3台に下げて当然のユーロ/ドル相場が、6月末現在1.45でしっかりしているというのは大変な違和感がある。しかし、相場は理屈ではない。

ユーロ/ドル(日足)3月のトリシェ・ショック以降、ランダムネスな相場展開に

1.45台は売りたいという声が多いが、7月7日まではしっかりか…?
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

今年の相場で唯一循環的なトレンドを形成していたドル/スイスも6月相場では調整中(ADXと標準偏差ボラティリティが低下中)となっており、日足ベースの取引ではトレンドについていくような銘柄は見あたらない。

ドル/スイス(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

トレンドがない相場では押し目買いがワークする。筆者は6月相場ではずっと豪ドル/円の「押し目買い戦略」を推奨してきた。この押し目買い戦略は概ねうまく機能した。6月28日からはNYダウの大幅高と連動して上がりすぎており、押し目買いのチャンスはなくなっている。

豪ドル/円(上段)とNYダウ(下段)の日足


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足)6月は典型的なレンジ相場であった…

上段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)・2σ(青)・3σ(赤)
下段:20日ATR(青)・オプションボラティリティ(赤)


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足)9日RSIが40割れは買い場?

中段:9日RSI(赤)


(出所:石原順)

豪ドル/円(月足)美しいフィボナッチのファンライン

6月高はならず(短い陰線)も、下ひげの長いまずまずの相場


(出所:石原順)

これまでレポートやセミナーで言及してきたように、QE2.5相場は「大きなレンジを形成しつつも横這いで推移する」可能性が高いと思われる。QE2.5相場(中途半端な過剰流動性相場)の特徴は、「押し目は買うが上値は買わない」という投資家が多いことである。したがって、豪ドル/円やクロス/円相場に日足ベースのスウィング・トレードで参戦する場合、今後も無理せず押し目を待ちたい。