円安進行の動向に注意

 ドル/円は2015年の高値125.86円近辺をブレイクし、約20年ぶりに1ドル=126円台に乗せたかと思いきや20日(水)早朝には129円台に乗せてきました。あっという間に130円を目指す展開となってきました。

 週明け18日(月)に126円台後半まで上昇したドル/円は、同日の衆院決算行政監視委員会の質疑応答で日本銀行の黒田東彦総裁が、「過度に急激な変動というのは不確実性の高まりを通じてマイナスに作用するということも考慮する必要がある」と述べた上で、「企業の事業計画策定を難しくする恐れがある」と一定の警戒感を示したことから30銭程度の円高となりました。

 また、鈴木俊一財務相も原材料高の価格転嫁や賃上げが不十分とした上で、「どちらかといえば悪い円安ではないか」と述べ、改めて円安への懸念を示しました。

 しかし、黒田東彦総裁は円安が日本経済に「全体としてプラス」との見解は変えていないことや、現状は出口戦略を議論する状況ではないと金融緩和の継続も表明したことから、ドル/円は買い戻され、底堅い動きとなりました。

 米10年債利回りが2.9%超に上昇し、5月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では0.5%以上の利上げ観測、前回の倍のペースでのQT(量的引き締め)開始観測が出ている中では、いくら円安けん制をしても焼け石に水かもしれません。

 しかし、19日(火)の閣議後の記者会見で鈴木俊一財務相は、127円台に円安が進行したことに関して、「急速な変動は望ましくない」と述べ、「円安の進行を含めた為替市場の動向、経済への影響について緊張感を持って注視している」と強調しました。

 この発言に対する為替市場の反応は、少し円高に動いただけですが、20日(水)に**G20財務相・中央銀行総裁会議と*G7財務相・中央銀行総裁会議が開催される前の発言としては、留意しておく必要があります。

*G7…カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国の7カ国
**G20…G7の7カ国にアルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、中国、インド、インドネシア、韓国、メキシコ、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、欧州連合・欧州中央銀行を加えた20カ国・地域

 中尾武彦元財務官は、4月14日(木)の時事通信社とのインタビューの中で、G7で為替も議論されるのではないかとの質問に対し、「G7声明は為替レートについて、『市場が決めるべきだ』ということと『急激な変動は好ましくない』ということを指摘してきた。後者の重要性が高まっているのではないか」と述べています。

 19日(火)の鈴木俊一財務相の発言は、まさにそのことに触れており、もし、20日(水)のG7で声明として共有された場合、為替市場が一時的に踏みとどまる可能性があるかもしれません。

 さらに、21日(木)には、鈴木俊一財務相はイエレン米財務長官と2国間会談を行う予定となっています。

 鈴木俊一財務相は19日(火)の記者会見で「米国などの通貨当局と緊密な意思疎通を図り、適切に対応しなければならない」と述べていますが、イエレン財務長官との会談後の記者会見で(鈴木俊一財務相単独会見であったとしても)日本の円安懸念を米国と共有したとの内容が伝われば、為替市場に何らかの影響があるかもしれません。

 ただ、日米の金融政策が今すぐ変わるということではないため、円安進行が一服する程度かもしれませんが、それでも注意する必要があります。

中国景気減速の始まり

 18日(月)に発表された中国の1-3月期GDP(国内総生産)は実質で前年比+4.8%となりました。前期の2021年10-12月期の+4.0%を上回りましたが、足元はコロナの感染急拡大によるゼロコロナ政策に基づく都市封鎖の影響で減速傾向にあります。最も影響を受けたのが消費で、3月の小売売上高は前年比▲3.5%と、1~2月の+6.7%からマイナスに転じました。

 4月以降の中国の感染者数は連日2万人を超えており、さらに消費への影響が大きくなりそうです。上海市の感染者数は中国全土の9割以上を占めているとのことであり、ポーランドのGDPに匹敵する上海の都市封鎖が続けば、中国の4-6月期GDPの下振れリスクがますます高まりそうです。

 また、中国メディアによると、17日(日)時点で22都市が「封鎖」措置を実施しているとのことです。このまま同時多発で都市封鎖が続けば、GDPを2%程度押し下げる可能性があるとの分析もあり、中国政府が3月に設定した今年の成長率目標「5.5%前後」を大きく下回る可能性があります。中国の景気減速は始まったばかりかもしれません。

 日本は中国との経済関係が深いことから、中国経済がさらに減速すれば大きな影響を受けることになります。もちろん日本だけでなく、中国の都市封鎖によるサプライチェーンの混乱によって世界経済が揺さぶられることも予想されます。

 コロナ禍の中でも日本の2021年度首都圏(1都3県)の新築マンション平均価格が前年比+6.1%の6,360万円となり、バブル期の1990年度の6,214万円を上回り、過去最高を更新しました。一方で、日常生活に浸透してきた物価高、景気減速が身近に迫ってきています。

 先週、岸田文雄首相は円安をどう思うかと記者団に聞かれた時に、こういう問題に首相が答えないのは「常識」であると答えました。4月に入って、ニュースや週刊誌で物価高の特集やその背景の一因が円安との内容が頻繁にメディアに出始めています。

 政府は物価高、住宅高騰、景気減速の環境で参院選を迎えることになりますが、「悪い円安」がそれらに拍車をかけているとの声が大きくなったときに6月後半の参院選公示までに政府が円安対策に全く動かないのか注目です。

 相場は望まない方向に進むことがよくありますが、大多数が予想する方向に相場が動くのは久々の動きです。週間の値幅も大きくなってきており、この円安がどういう結末になるのか注目です。

 G7や日米財務相会談で一息つくのか、5月3~4日のFOMC後に一息つくのか注目です。ただ、FOMCの時期は日本ではゴールデンウィーク真っただ中であるため、乱高下に警戒する必要があります。