米FOMC通過のタイミングで急速なリバウンド、為替の円安進行も支援に

 直近1カ月(3月11日~4月18日)の日経平均株価は6.5%の上昇となりました。3月中旬からは急ピッチのリバウンドの動きとなり、3月23日には1月18日以来の2万8,000円台を回復しました。

 3月16日から5営業日での上昇率は10.6%、上昇幅は2,693円に達しています。ただ、2万8,000円を超える水準では上値が重くなり、4月に入って失速する展開になりました。4月12日には、3月の上昇幅のおよそ半値押し水準にまで調整しました。

 3月16日のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、市場の想定通り0.25%の利上げ実施が決定されましたが、これが短期的なあく抜け感につながる形となり、その後は一気に買い戻しの動きが進む形になりました。

 米国の利上げ後は為替市場での円安も進行しました。22日にはドル/円相場が6年ぶりに1ドル=120円台にまで下落し、その後も円安の流れが止まらず、足元では126円台にまで円安が進行しています。国内株式市場にとっては支援材料となりました。

 一方、配当権利落ち分の再投資による先物買いを先取りしたことで、配当権利落ちのタイミングでは株価上昇も一服しました。ウクライナ情勢の先行き不透明感が拭えない中、金融引き締めの加速化を意識した米長期金利上昇などが、その後の株価調整につながっています。

 この期間で上昇が目立ったのが三井ハイテック(6966)になります。新年度業績見通しが予想外の拡大見通しとなったことで、ポジティブなサプライズにつながりました。また、原油価格の上昇に対応するため、岸田首相が原発の再稼働を検討すると表明したことで、東京電力(9501)なども大幅に上昇しました。

 ほか、Sansan(4443)JMDC(4483)SHIFT(3697)など、これまで売り込まれていた中小型グロース株の一角で急反発するものも散見されています。米ナスダック指数の上昇を背景に、ソフトバンクG(9984)も、この期間26%の上昇となっています。

 一方、下げが目立ったのが、ツルハHD(3391)コスモス薬品(3349)良品計画(7453)ニトリHD(9843)などの小売株で、決算内容が嫌気される形になっています。

 また、配当権利落ちの影響が大きく、日本郵船(9101)川崎汽船(9107)商船三井(9104)などの海運株もそろって下落しました。コンテナ運賃のピークアウト傾向なども海運株の警戒材料となっています。

ウクライナ情勢の不透明感が強いほか、今回の決算はガイダンスリスクに注意

 米国の金融引き締め強化に関しては、足元でだいぶ織り込んできている印象があります。5月のFOMC以降、3会合連続での0.50%利上げ実施が視野に入っているとみられます。ただ、ウクライナ情勢の先行きが見通せないことで、積極的な買いは手控えられている印象があります。

 長期化するに伴って、対ロシアへの経済制裁の動きが強まっていくとみられるほか、ロシアと中国の接近に伴う中国への制裁強化などの動きも今後は想定されるところです。こうした流れによっての、世界的な景気悪化、一段のインフレ進行などへの懸念は当面拭えそうにありません。

 今後1カ月の最大の注目材料としては、2022年3月期の決算発表が挙げられます。とりわけ、原材料費や物流費の上昇などによる新年度業績見通しへの警戒感は強いと考えられます。しかし、足元の決算後の株価反応を見る限り、安川電機や台湾の半導体製造装置受託最大手TSMCなどは、想定を上回る好業績見通しを発表しました。

 それなのに株価の好反応は乏しい状態になっており、主力のグロース株に関しては、かなり今回の決算のハードルは高いと感じざるを得ません。現状で言うと、電気機器や精密機器、自動車、機械などの大型株は、決算発表で調整後の押し目買いを考慮したいところです。

 むしろ、食品や化学など原材料費上昇のマイナスインパクトが大きいとみられるセクターなどは、厳しめのガイダンスが悪材料出尽くしと捉えられる可能性もあるでしょう。

 なお、日本のゴールデンウイーク期間中の5月4日には米FOMCが開催され、0.50%の利上げが行われるとみられますが、織り込み済みであって、ネガティブな反応は限定的となりそうです。

 通常、4月は海外投資家の資金流入が膨らむことで、日経平均は上昇しやすい月ともいわれています。5月は米FOMCが再度のあく抜け材料につながったとしても、需給面は逆風となる可能性が高いでしょう。

 ウクライナ情勢の悪化が原材料費のさらなる上昇、サプライチェーンの混乱につながる余地も残るため、全体相場には引き続き慎重な見方が必要となります。好決算銘柄などの個別物色に絞りたいところです。

 為替相場に関しても、ドル/円相場が130円を超える状況となれば、一転して相場にはマイナスとなる可能性もあります。決算関連でいえば、三井ハイテック(6966)HIOKI(6866)などの好業績見通しから、EV関連銘柄などには期待が持てそうです。

 また、流通時価総額基準が未達のままグロース市場に上場した銘柄は、株価上昇の必要性が高いため、悪い業績見通しは示さないと考えられます。ロシアとウクライナの紛争による地政学リスクやインフレ懸念の高まりを考慮すれば、防衛関連銘柄、原発関連銘柄などは中期間隔でも注目できそうです。

株式市場の先行き懸念が強い中、下値抵抗力の強い銘柄に注目

 今回はウクライナ情勢の先行きが見通せない中で行われる決算発表となり、原材料調達難や材料費上昇のマイナス影響が強く業績見通しに反映される銘柄も多くなりそうです。   

 また、米金融引き締め強化に伴う、グロース株の行方も現時点では不透明です。相場の先行き懸念が強い中では、ダウンサイドリスクの乏しい銘柄を選好する局面と考えます。配当利回りが高いほか、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などどの指標で見ても、株価の割安感が意識される銘柄などは、株価下落余地の相対的に小さい銘柄として注目できるでしょう。

 相場の反転を待つにしても、こうした下値余地の乏しい銘柄を選好したい局面といえます。なお、高配当利回り銘柄に関しては、権利落ち後の処分売り局面は一巡したとみられます。

 今回取り上げた銘柄は、株価が低位で、かつ、配当利回り3%以上、PER10倍未満、PBR0.8倍未満のものとなります。全体相場の下落局面でも、相対的に下落余地は乏しいと判断されるものです。相場の反発場面ではグロース株の方が妙味は高まるとみられますが、少なくとも、5月のFOMC通過後の物色の変化を見極める必要があり、現在はバリュー株優位の状況と判断します。

 なお、配当利回りやPERなどの予想値は、楽天証券のスーパースクリーナーにおけるコンセンサス数値となっています。

株価指標がそろって割安な高配当利回り銘柄

コード 銘柄名 配当利回り
(%)
4月18日
終値
(円)
時価総額
(億円)
PER
(倍)
PBR
(倍)
業種
8306 三菱UFJ FG 3.71 752.1 99,894 8.37 0.57 銀行
6178 日本郵政 5.64 887.2 33,429 6.75 0.26 サービス
8604 野村HLDG 4.61 503.4 16,278 7.82 0.57 証券
5020 ENEOS HLDG 4.98 449.9 14,533 3.75 0.62 石油・石炭
8593 三菱HCキャピタル 4.50 581.0 8,523 8.41 0.64 その他金融
1803 清水建設 3.51 718.0 5,662 8.52 0.67 建設
9831 ヤマダHLDG 4.56 378.0 3,654 5.96 0.48 小売
5406 神戸製鋼所 4.74 556.0 2,204 3.87 0.28 鉄鋼
9076 セイノーHLDG 3.31 997.0 2,071 9.16 0.43 陸運
3941 レンゴー 3.34 727.0 1,971 6.20 0.57 パルプ・紙
7762 シチズン時計 3.62 481.0 1,512 9.32 0.74 精密機器
9412 スカパーJSAT HLDG 4.39 410.0 1,219 8.80 0.52 通信
注:配当利回りの単位は%、時価総額の単位は億円。
株価は2022年4月18日終値、単位は円。
注:PERは予想ベース、PBRは実績ベース。
注:配当利回り、予想PERはコンセンサス、楽天証券のスーパースクリーナーで作成。

銘柄選定の要件

  1. 予想配当利回りが3%以上(4月18日終値)
  2. 株価が1,000円未満
  3. 時価総額が1,000億円以上
  4. 予想PERが10倍未満
  5. 実績PBRが0.8倍未満
  6. 選定銘柄における業種ごとの時価総額トップ

三菱UFJ FG(8306・東証プライム)

▼どんな銘柄?

 三菱UFJ銀行を核とする国内最大の金融グループとなります。グループには著名な企業だけでも、三菱UFJモルガン・スタンレー証券やモルガン・スタンレーMUFG証券、auカブコム証券などの証券会社、三菱HCキャピタルなどのリース会社、アコムやジャックス、三菱UFJニコスなどのノンバンクを抱えています。

 また、米地銀や東南アジア地銀なども傘下に抱え、国際部門の利益寄与が3~4割と高いことも特徴といえます。

▼業績見通し

 決算発表は5月16日を予定しています。2022年3月期純利益は1兆500億円、前期比35.1%増を見込んでいます。第3四半期までで1兆700億円を稼いでいるため、通期計画は超過している状況にあります。第4四半期に一過性の損失計上が見込まれますが、下振れの可能性は低いと言えるでしょう。

 米国の経済見通し改善などによって、与信関連費用などが大幅に改善しています。年間配当金は前期比3円増の28円を計画しています。2023年3月期の市場コンセンサスは小幅な増益になっていると想定されます。

▼ここがポイント

 目先的には自社株買いの発表などが期待材料とされそうです。2023年3月期は4,000億~5,000億円程度の規模での実施を期待しているようです。また、金融引き締め強化に伴う米国の金利上昇は株価にとってポジティブに働きます。

 国内でも、異次元緩和の長期化が続いていますが、インフレ懸念が高まる中での急激な円安進行によって、緩和政策の変更を期待する動きなども強まる余地があります。

 いずれにせよ、黒田日本銀行総裁の任期があと1年となってきている中、これからは金融政策変更を意識した銀行株高の流れは強まると考えられます。

清水建設(1803・東証プライム)

▼どんな銘柄?

 ゼネコン大手の一角です。大手ゼネコン内では相対的に、民間建築の比率が高いことが特徴とされています。オフィス、工場、学校、病院などの建築に強みがあります。海外には1970年代から進出し約60カ国で施工実績、日系企業の工場建設などを中心に手掛けます。

 非建設事業では、不動産開発、エンジニアリング、再生エネルギーなども展開しています。2022年3月には日本道路を連結子会社化しています。

▼業績見通し

 決算発表は5月12日を予定しています。2022年3月期営業利益は765億円で前期比23.6%減を見込んでいます。受注競争激化に伴う国内建設工事の採算悪化が減益要因となるもようです。年間配当金は前期の30円に対して23円の会社計画となっています。

 受注自体は順調に推移しているもようで、2023年3月期も売上高は増加が見込まれますが、建築資材の上昇や人件費の上昇などで、営業利益は高い伸びが期待されていないようです。

▼ここがポイント

 大手ゼネコン4社の中ではPBR水準の割安感が最も強いレベルにあり、2021年以降の株価パフォーマンスも相対的に低い状況です。株価の出遅れ感や割安感は意識されます。また、工場建設に強みがあることは、製造業の国内生産回帰によるメリットが大きいと判断されます。今後も一段と円安が進展した場合は、こうした強みにスポットが当たる可能性もあるでしょう。

ヤマダHLDG(9831・東証プライム)

▼どんな銘柄?

 業界最大手となる家電量販店チェーンです。ダイクマやベスト電器などを傘下に収めて事業規模を拡大させています。また、住宅関連分野においても、エスバイエル、ハウステック、大塚家具、ヒノキヤグループなどを相次ぎ子会社化し、業界上位の一角に浮上してきています。

 中期計画では、2025年3月期売上高2兆円、営業利益1,230億円を目標としています(2022年3月期見込みは売上高1兆6,860億円、営業利益900億円)。

▼業績見通し

 決算発表は5月6日を予定しています。2022年3月期営業利益は900億円で前期比2.3%減益を見込んでいます。前年度に発生した巣ごもり特需の一巡などで、売上高が伸び悩む見込みとなっています。第3四半期までの進捗(しんちょく)率からみると、下振れ着地となる可能性が高そうです。

 年間配当金は未定としていますが、連結配当性向30%以上から推測すれば、現在の利益計画で21円程度と推定されます。中期計画では、2023年3月期営業利益は950億円、前期比5.6%増となっていますが、コンセンサスは同水準の未達を織り込んでいるようです。

▼ここがポイント

 新業態の「LIFE SELECT」が好調な滑り出しのもようで、転換前と比べて、売上・利益が拡大しています。これは、地域最大級の品ぞろえとなる大型店舗であり、会社側のエリア別店舗開発の推進に沿ったものとなります。家電量販店と住宅販売のシナジー効果なども今後徐々に表面化していく期待が持てます。

 また、コロナ禍からの回復に関しても、これまでは巣ごもり需要減少が意識されていましたが、今後はインバウンドの緩やかな回復を織り込むポジティブな局面が近いとみられます。

セイノーHLDG(9076・東証プライム)

▼どんな銘柄?

「カンガルー便」で知られる西濃運輸を中核とする物流会社です。製造関連分野の構成比が過半近くを占めています。ロジスティクス事業の拡大に注力し、設備投資を積極化させています。また、トヨタ自動車や日野自動車などの自動車販売事業も行っているほか、物品販売事業なども手掛けています。

▼業績見通し

 決算発表は5月13日を予定しています。2022年3月期営業利益は295億円で前期比20.1%増益の見通しです。第3四半期までの進捗率は76%と順調に進捗しています。新型コロナウイルス感染拡大の影響低減で国内貨物輸送量が回復し、主力の運輸事業がけん引役となっています。

 年間配当金は未定ですが、会社側では連結配当性向30%をメドとしていることで、現在の業績予想からは33円程度が推定されます。なお、2023年3月期営業利益は、中期計画では上半期決算発表時点で336億円の計画でした。

▼ここがポイント

 2021年12月には出前館と業務提携を締結しており、個人向け配送事業の拡大につながっていくか注目されます。陸上輸送業界は全般的にガソリン価格上昇の影響が懸念されるところですが、同業のヤマトHD(PBR1.50倍)、SGHD(PBR3.11倍)などとの比較では、同社のPBR水準の割安感は際立っており、水準訂正余地は大きいとみられます。

シチズン時計(7762・東証プライム)

▼どんな銘柄?

「CITIZEN」ブランドの腕時計大手企業です。部品から完成品まで自社で一貫製造し、世界シェア3割を占める時計事業を主力に、工作機械事業、デバイス事業なども手掛けています。工作機械では、CNC自動旋盤で世界トップクラスのシェアを誇っています。

 デバイスではLED分野が主軸製品で、水晶デバイスなども扱っています。売上高の約7割が海外売上となっています。新たな中期経営計画では、2025年3月期売上高3,200億円、営業利益率8.0%を目指しています。

▼業績見通し

 決算発表は5月12日を予定しています。2022年3月期営業利益は185億円で前期比280億円の損益改善となる見通しです。第3四半期決算時に従来予想の172億円から上方修正しています。

 北米を中心とした海外時計事業が好調に推移、工作機械事業も国内外の幅広い業種向けに受注が回復しています。年間配当金は前期比13円増配となる18円を計画しています。なお、2023年3月期の市場コンセンサスはほぼ横ばい程度の水準とみられます。

▼ここがポイント

 対ドルでは1円の円安で3億円、対ユーロでは1円の円安で0.7億円の営業利益増加要因となります。現在の円安状況が前提ならば、2023年3月期はコンセンサスを上回る業績が期待できるでしょう。

 また、世界的な経済活動の正常化による外出機会の増加は時計事業の上振れ要因ともなりそうです。海外売上比率の高いハイテクセクターにおいては数少ないバリュー株と位置付けられ、妙味は大きいでしょう。