確定申告しなくてもばれない?

 前回、「金(ゴールド)を売ったら、税金はどうなるの?【基礎知識編】」を書きましたところ、予想以上の反響で、デイリー、週間、月間とも人気コラムランキングの上位になるまで皆さんにご覧いただきました。

 正直、これほどまでの反響に驚いておりますが、今回と次回と計3回で、ゴールドに関する税金のお話をさらに掘り下げていきたいと思います。

 いきなりですが、「金(ゴールド)を売っても税務署にばれなければ確定申告しなくても平気でしょ?」という方もいらっしゃるようです。

 しかし、それはれっきとした脱税ですからしっかりと必要な申告、納税をしていただかないといけないですし、実はあなたがゴールドを売ったという事実が税務署に知らされるという制度があるのです。それが「支払調書」の制度です。

 ゴールドの場合、1回の取引で200万円超の売却をしたときは、買取業者が税務署に対して、氏名や住所、マイナンバー、取引内容、金額を明記した支払調書を提出しなければいけないことになっています。

 もし、税務署が支払調書を入手しているにもかかわらず、ゴールドの売却につき確定申告をしないと、後日税務署からお尋ねが来ることがあります。その結果、ペナルティを含めた追徴課税、という可能性も十分ありますから、申告と納税はしっかり行うようにしてください。

 なお、給与所得者で、給与所得以外の所得が20万円以下の場合は所得税の確定申告は不要、といった特例もありますし、前回の記事でご説明のとおり、ゴールドの売却による利益が50万円の特別控除額に収まれば所得は発生しません。税額が発生するか、確定申告が必要かどうかはケースバイケースです。

純金積み立ての場合、売却時の税金は?

 ゴールドへの投資を、純金積み立てという形で行っている方も少なくないようです。では、この純金積み立てで購入したゴールドを売却したとき、税金はどうなるのでしょうか?

 もし10年間積み立てているとして、そのうちの一部を売却したら、それは10年前に買った古いものから充当されるのか、それとも直近に買った新しいものから充当されるのか?

 前回の記事でお話しした通り、所有期間が5年超か5年以内かで所得の額が2倍違いますから、どういった扱いになっているかは気になるところです。

 結論は、「以前に買った古いものから充当される」です。

 ですから、10年間積み立ててきたもののうち例えば3分の1の金額に相当するものを売却するのであれば、所有期間はすべて5年超になるため、税額は比較的低く抑えられます。

 もし、10年間積み立ててきたものを全部売却するのであれば、所有期間が5年超のものと5年以内のものが両方あるため、二つに分けて所得を計算する必要があります。

 詳しくは国税庁のホームページをご覧ください。

取得費は「総平均法に準ずる方法」で

 上でお話ししたのは、「所有期間」についてです。もう一つ、売ったゴールドの取得費が分からないと、利益が出せないので税額の計算ができません。

 例えば100グラムの金地金を50万円で買い、それを80万円で売ったなら、取得費は50万円です。これは簡単ですね。

 でも、純金積み立ての場合はこのような単純な計算ができません。積み立てたものを一部売却し、その後さらに積み立てを続け、また一部売却…ともなれば、売却したゴールドの取得費をどのように計算したらよいか、悩んでしまうのではないでしょうか。

 国税庁のホームページに計算方法が載っています。「総平均法に準ずる方法」で取得費を計算すると書いてありますが、総平均法に準ずる方法とはいったいどんなものか、見当がつかないですよね。

 以下は、国税庁のホームページに記載されている設例です。計算方法を確認してみてください。

 この設例は同一銘柄の上場株式の場合ですが、純金積み立ての場合も同じ扱いとされています。

 簡単に言えば、「もとから持っている分の数量と金額」と「追加購入した分の数量と金額」を合計し、合計金額を合計数量で割れば、1グラム当たりの取得単価を出すことができます。これに売却したグラム数を掛ければ、売却したゴールドの取得費が計算できます。

<設例>

取引年月 取引内容 株数 単価 購入代金 売却代金
(1)X1年5月 購入 5,000株 800円 4,000,000円  
(2)X1年8月 購入 2,000株 850円 1,700,000円  
(3)X1年9月 売却 3,000株 900円   2,700,000円
(4)X2年3月 購入 5,000株 870円 4,350,000円  
(5)X2年7月 売却 6,000株 950円   5,700,000円
(注)計算の便宜上、委託手数料などはないものとしています。

<計算>
イ X1年9月に売却したときの取得費
(4,000,000円+1,700,000円)(売却の時までの購入価額の総額)
÷(5,000株+2,000株)(購入株数の総数)=815円(1円未満の端数は切り上げます。)
815円×3,000株(売却株数)=2,445,000円(取得費)
ロ X2年7月に売却したときの取得費
815円×4,000株(X1年9月に売却後の残株数)
+4,350,000円(その後の売却の時までの購入価額)=7,610,000円(購入価額の総額)
7,610,000円÷(4,000株+5,000株)(売却の時までの保有総数)
=846円(1円未満の端数は切り上げます。)
846円×6,000株(売却株数)=5,076,000円(取得費)
出典:国税庁ホームページ

「いくらで買ったか分からない」問題に要注意!

 このように、金地金であっても、純金積み立てであっても、「いくらで買ったか」が分からないと、税額の計算ができないことがお分かりいただけたでしょうか。

 ここで多くの人を悩ませるのが「いついくらで買ったか分からない問題」なのです。これは株式でも不動産でも同じなのですが、特に月日が経過してしまうと、いったい、いついくらで買ったのか、分からなくなってしまうことがとても多いです。

 そんな場合でも税金の計算ができるよう、「売った金額の5%で買ったことにしてもよい」というルールがあります。

 しかし、売った金額の5%で買ったことにするというのは、言い換えれば売った金額の95%が利益であるとみなして税額を計算することになってしまいます。

 これでは本来払わなくてもよいはずだった余計な税金を払うことになりかねません。

 ですから、ゴールドを購入した業者に問い合わせて、購入記録がないかどうか確かめたり、通帳の振込みや出金の記録が残っていないかどうか探したりして、いついくらで買ったかを頑張って調べてください。

 それでも見当がつかなければ、仕方ないので売った金額の5%で買ったとして税金計算をします。

 見つかった根拠資料がちょっとあいまいだ、というような場合は、税務署に相談して、その資料が使えるかどうか確認するとよいでしょう。

 また、このようなことが起きないよう、株も、ゴールドも、暗号資産も、不動産も、いついくらで買ったかが分かる資料は大事に保管しておくことを強くお勧めします。