ハンセン指数は押し目を形成、上海総合指数は上値の重い展開

 ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに大きく下げたハンセン、上海総合指数ですが、3月16日午後に開かれた国務院金融安定発展委員会による会議の内容が好感されて、両指数ともいったんリバウンドしました。

 その後、ハンセン指数はしばらく戻り歩調が続いたのですが、4月4日に天井を付け、押し目を形成しています。一方、上海総合指数の戻りは小さく、3月下旬以降、上値の重い動きが続いています。

2022年1月以降の主要株価指数の推移

注:2021年12月最終取引日の値=100。
出所:各取引所統計データから筆者作成(直近データは2022年4月15日、ハンセン指数、NYダウは14日)

 買い材料は当局の景気対策、資本市場対策であり、総合的な政策期待です。一方、売り材料は、新型コロナ禍、ゼロコロナ政策であり、減速傾向を強める景気動向です。

 香港市場に関しては、それらに加え、中国企業の米国市場からの締め出しや、米国のインフレ加速見通し、それへの対応としての金融引き締め政策、QE(量的緩和)が終了し、QT(量的引き締め)が開始されることによる資金流動性が不足する懸念など、米国側の悪材料もあります。

 双方の材料について、少しまとめてみます。まず、中国当局の政策期待ですが、崩れることはないと考えています。15日には預金準備率の引き下げが発表されました。

 13日に開かれた国務院常務会議では、金融緩和政策に加え、消費促進政策、輸出に関する税金を還付する政策などを打ち出す方針が発表されているので、今後、適宜、多方面から対策が出てくるとみています。

 また、米国に関する悪材料についてですが、支持率低下に悩むバイデン政権は秋の選挙に向けて、内政立て直しに重点を置かざるを得ない状況です。中国企業への実質的に効果のある制裁を行えば、米国企業への影響も無視できず、対中強硬策は打ち出しにくい状況です。

 市場の予想を超えるような金融引き締め政策が実施されかねないといった懸念はありますが、このタイミングで株価の急落を放置するわけにはいかず、バイデン政権は株式市場、とりわけ需給面での配慮を怠らないだろうとみています。

 ですから、こちらについてもそれほど心配していません。なお、ウクライナ情勢については、直接的にはもうサプライズはないだろうと考えています。

今後の相場動向とゼロコロナ政策

 今後の相場動向を決定付けかねないのは新型コロナがらみの悪材料です。

 現在の新型コロナ禍の状況ですが、時間軸からみても、他国との比較においても、大したことはありません。過去や他国に関する詳しいデータは示しません。国家衛生健康委員会が発表した4月16日のデータだけを示しておきます。

 発病ベースの新規感染者数(海外からの流入を除く、以下同様)ですが、3,504人でした。発生地域に大きな偏りがあり、上海市だけで全体の92.4%にあたる3,238人の新規感染者が出ています。つまり、上海以外では、わずか266人でしかありません。

 また、PCR検査で陽性反応を示したものの、無症状の新規感染者数は2万2,512人でした。この内上海市は95.9%にあたる2万1,582人でした。上海市以外はわずか930人に過ぎません。

 最も驚くべきデータはこの日の死亡者がゼロだということです。この日だけではありません。累計の死亡者数が示されているのですが、4月16日時点では4,638人でした。

 2021年12月31日時点の累計死亡者数は4,636人となっているので、今年に入ってから新型コロナで亡くなられた方はわずか2人だけということになります。

 高齢者であれば、風邪をひいてもこじらせ肺炎を引き起こし、亡くなられる方がいらっしゃいます。この死亡者数、感染者数、重病人数(4月16日は78人)から考えると、現在、長春市、上海市(一部)などで行われているゼロコロナ政策は、とても過剰な対策だと思います。

 知り合いが長春市に住んでいるので、現地の状況は正確に、かつ詳細に、わかります。3月11日から現在(4月17日時点)に至るまで、地下鉄、バスなどすべての交通機関がストップしています。

 都市封鎖当初はまだ、必要最小限の生活物資を販売する店がわずかに開いており、厳しい制限がありながらも、2日に1回、世帯に1人だけは買い物に出ることができたのですが、その後規制が厳しくなり、現時点では2日に1回、マンション区内にあるPCR検査場に下りて行く以外は、一切部屋の外に出ることは許されません。

 野菜などの食料品はマンションの管理部が配送の手配をしてくれるので、ネットで注文し、高くて品質の悪い商品を、仕方なく購入しているそうです。日本では考えられない対応です。ここまでする必要があるのでしょうか。

 死亡者の多い、少ないとは無関係に、都市封鎖をしなければならない理由があると考えざるを得ません。それは何なのでしょうか。

 もう一つ疑問に思うことは、なぜ、輸出の一大拠点である上海市ばかりがこれほど感染者数が多いのでしょうか。

 起源問題を巡る米中の衝突、米ロの化学兵器、生物兵器開発に関する論争とロシアの発する気味の悪い新型コロナ起源説、現在も続く中国の厳格な入国制限…。新型コロナにははっきりしないことが多すぎます。

 上海市、長春市など以外にも、大規模なゼロコロナ政策を行う地域が今後さらに広がるようであるならば、中国経済は大きな影響を受けます。輸出拠点で選択的にコロナ禍が発生すれば、輸出産業は大きな影響を受け、世界経済は物不足からなるインフレ圧力を受けることで、こちらも大きな影響を受けかねません。

 残念ながら、なぜこのようなゼロコロナ政策が必要なのかわからないため、結末の予想がつきません。ただ、リスクとして気味の悪いものがあるという点だけ指摘しておきます。

 少々悲観的に書きすぎました。

 今年の秋に行われる中国共産党全国代表大会では、習近平政権の第3期入りが決まります。党員を納得させるために、今年は経済社会を安定させなければなりません。全人代で決定されたマクロコントロールの最重要課題は経済の安定です。

 とにかく年前半、できるだけ早い時期に新型コロナを封じ込め、その後、減速した経済を引き上げるための思い切った政策をさみだれ式に発動するだろう。それによって、今年の成長率の目標である5.5%前後の数字を達成させるだろう。

 その過程で本土株式市場はあくまでバブルを起こさず、急落もせず、上昇トレンドを形成するだろうと予想しています。本土市場がしっかりしていれば、香港市場も欧米市場との相対感ではしっかりとした値動きになるだろうと予想しています。

新エネルギー自動車関連に注目。発展戦略の強化に恩恵を受ける銘柄

 今月の注目セクターは新エネルギー自動車関連です。景気対策の一環として新エネルギー自動車への発展戦略の強化が行われるとの見通しから先月、BYD(01211)を注目銘柄の一つに挙げました。こちらも引き続き注目して下さい。

 今回紹介したい銘柄の中で完成車メーカー3社は、いずれも7、8年前に創業した新興の民営企業で、経営者はいずれも別のベンチャー企業を創業した経験があり、それを米国市場に上場させたり、大手企業にバイアウトさせたりしたアントレプレナーたちです。

2021年12月期業績比較など

単位:億元、台
出所:2021年12月期決算書、各種公表資料より作成

 この内、蔚来集団(09866)理想汽車(02015)のCEOは、創業した別の会社をニューヨーク証券取引所に上場させた経験があります。

 彼らは欧米の証券会社を指南役として欧米流の経営手法を吸収し、欧米の資本市場から資金を調達しています。

 その過程で習得した“資本市場を最大限に利用する最新の経営スタイル”と、“多額の創業者利得”を使って、中国国内で新たなベンチャー企業を立ち上げ、それを香港市場に上場させたのです。今中国では、欧米流のやり方で事業を展開する企業経営者がたくさん出現しています。

 中国を競争相手とみる米国の政権担当筋からすれば、米国がイノベーションの仕組みを教え込み、資金まで与えた企業が、よりによって米国の強力な競争相手として中国の新興産業の発展をけん引しているのですから、“中国企業を証券市場から排除したい”と考えるのも、それはそれでよく理解できます。

 ただ、欧米の金融機関、ベンチャーキャピタル、エンジェル投資家、機関投資家、そして一般投資家も、彼らと運命共同体、ウィンウィンの関係です。米国内も反中一色ではないということを指摘しておきます。

 残りの2社については、部品メーカーを選びました。新エネルギー自動車への切り替えが今、劇的に起きようとしています。関連する産業全体が大きく発展すると予想します。

出所:中国汽車工業協会データより作成

 新型コロナ禍、ゼロコロナ政策で消費が弱含み、一部の企業では生産への影響もあります。また、ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー、資源などの価格が上昇、コストアップも気になります。

 しかし、こうしたネガティブな材料があるからこそ、株価が上昇していないという面もあります。むしろ、その点を意識すべきではないかと思います。

注目株1:蔚来集団(09866、NIO)

 2014年11月設立の電気自動車メーカーです。2018年9月にニューヨーク証券取引所に上場、香港市場には2022年3月、資金調達を伴わない紹介形式で上場しています。

 李斌CEOは同社を設立する以前、自動車ユーザー向けに情報を提供するネット企業のビットオート・ホールディングス(BITA)を創業し2010年11月にニューヨーク証券取引所に上場させています。

 李斌CEOは電気自動車をSNSのような起点とし、多様なサービスを提供しようと考えており、自動運転、デジタル技術、電動力を一体として研究開発を行い、電池技術のイノベーションを推進しようとしています。

 資本家の視点からの大きな事業コンセプトが多くの内外の機関投資家たちから根強い支持を集めています。2017年12月に発売した7人乗りの高級SUVを皮切りに、現在車種を広げている最中です。

 2021年12月期は122%増収、105億7,230万元の赤字で、赤字幅は88%増加しています。生産は安徽江淮汽車集団との合弁会社で行っていますが、ここは組み立て工場で、たくさんのサプライヤーが存在します。

 アップルがスマートフォンを造るような製造方法なので、生産能力が気になりますが、2022年第1四半期の販売台数(引き渡しベース、以下同様)は28.5%増の2万5,768台、累計販売台数では19万2,838台まで増えてきました。

 自動車をつくって売るだけといったビジネスを目指しているのではない分、先行投資額は巨額です。全力で事業拡大にまい進するといった状態が続く見通しです。

 短期的には新型コロナ禍の影響が出ています。3月に入り、吉林省、上海市、江蘇省にあるサプライヤーが生産停止に追い込まれており4月中旬現在、その影響で生産が止まっています。いつ回復するのかははっきりつかめず、その点はリスクとして意識しておく必要があるでしょう。

 ただ、その分株価は調整しています。同社の強みは経営者にカリスマ性があり、資金調達能力が高いことです。その点を評価したいと思います。

蔚来集団の週足

期間:過去1カ月(2022年3月~4月14日)
出所:楽天証券ウェブサイト

注目株2:小鵬汽車(09868、XPEV)

 2014年創業の電気自動車メーカーです。広州汽車、フォード、BMW、テスラなど既存の自動車会社、部品会社や、アリババ、テンセント、小米などのネット系企業から人が集まってできたユニークな企業です。2020年8月にニューヨーク市場に上場、2021年7月には香港市場に上場しています。

 何小鵬CEOは2004年、仲間とともにブラウザなどの開発を行うUC優視公司を設立、2014年にそれをアリババ集団に売却。

 しばらくの間、アリババ集団内に残り要職を務めた後、2017年に退職し、ある自動車メーカーに投資するとともに社名を現在の小鵬汽車に変更させ、CEOに就任しています。蔚来集団同様、電気自動車事業に関する大きなコンセプトが先にあって、それに沿ってつくり上げられた企業です。

 肇慶、広州、武漢に自社工場があります。

 2021年の販売台数は、スポーツタイプセダンが大きく貢献、263%増の9万8,155台となりました。2021年12月期業績は259%増収、48億6,310万元の赤字、赤字幅はわずかに縮小しています。

 2021年10月にはファミリータイプセダン、2022年第3四半期には四番目の量産車種となる待望のフラッグシップSUVを投入する予定です。2022年12月期は赤字拡大ながら、102%増収見通しです。まずは生産台数を全力で伸ばすこと、充電施設の建設を加速することなどを経営の重点に置いています。

 これは、完成車メーカーすべてに言えることですが、半導体不足、原材料費の上昇、ゼロコロナ政策による生産への影響などが懸念され株価は調整気味となっています。

 しかし、足元では業界全体で新エネルギー自動車の生産台数は急増しており、化石燃料自動車から新エネルギー自動車への切り替えが大きく進んでいます。長期投資の観点から、新エネルギー自動車は買いのチャンスだと考えます。

小鵬汽車の週足

期間:過去9カ月(2021年7月~2022年4月14日)
出所:楽天証券ウェブサイト

注目株3:理想汽車(02015、LI)

 2015年創業の電気自動車メーカーです。李想CEOは2004年末に創業した自動車関連情報をネットで提供する汽車之家を2013年12月にニューヨーク証券取引所に上場させています。

 同社はテスラのモデルSを意識したとみられるSUV、理想ONEを開発、 2019年12月から納車を開始、2020年7月にニューヨーク証券取引所に上場、2021年8月には香港市場に上場しています。同社は江蘇省常州市にプレス、溶接、塗装、組み立てを行う工場を所有しています。

 2021年12月期業績は186%増収、3億2,146万元の赤字(1億6,980万元の赤字拡大)でした。納車ベースの販売台数は177%増の9万491台で、生産は順調です。2022年12月期業績は99%増収、10億4,001万元の赤字(7億1,856万元の赤字拡大)見通しです。

 2021年11月には買収により、常州工場の規模が拡大しています。現在建設中の北京工場は2023年に稼働予定です。また、2021年12月、重慶市政府と戦略提携を結び、工場建設を計画しています。全力で生産拡大を進めています。

理想汽車の週足

期間:過去9カ月(2021年7月~2022年4月14日)
出所:楽天証券ウェブサイト

注目株4:億和精密工業(00838)

 民営の部品、金型メーカーです。国内では深セン、蘇州、中山、重慶、海外にはベトナム、メキシコなど、全部で12カ所の生産拠点を持っています。

 金属プレス加工、プラスティック射出成型などによってオフィスオートメーション設備、自動車などの部品を製造しています。また、その金型の設計・製造なども手掛けています。

 部門別売上高(2021年12月期)ではオフィスオートメーション設備の部品が67%、その設計・金型製造が5%、自動車部品が22%、その設計・金型製造が4%、その他が2%です。

 2021年12月期業績は27%増収、1億5,519万香港ドルの黒字転換(前期は1,537万香港ドルの赤字)でした。

 買収効果でオフィスオートメーション部品が24%増収、新エネルギー自動車関連の新規顧客開拓により自動車部品が73%増収となり、業績をけん引しました。特に自動車関連は粗利益率が高く、収益面で大きく貢献しました。

 自動車メーカーでは、テスラをはじめ、上海通用五菱、長城汽車、長安汽車など、複数の有力メーカーから受注しています。新エネルギー自動車向けに需要の拡大が続くと予想します。

億和精密工業の月足

期間:過去3年(2019年~2022年4月14日)
出所:楽天証券ウェブサイト

注目株5:江西カン鋒リチウム(01772)

 2000年設立の民営のリチウム関連メーカーです。李良彬CEOが25年前に買収した江西省新余市河下鎮の小さなリチウム採掘工場が前身です。

 現在は、リチウムの採掘、リチウム化合物への精製、金属リチウム製造、リチウム電池製造、リチウムの回収、二次利用まで、垂直統合型のビジネスを展開しています。

 部門別売上高ではリチウム化合物・金属リチウムが74%、リチウム電池が18%、電池の半製品、フッ化リチウム、リン酸二フッ化リチウムなどが8%を占めています。輸出比率は22%です。

 主に価格の上昇により、2021年12月期業績は101%増収、410%増益となりました。2022年12月期は生産設備の拡張も加わり、157%増収、102%増益を見込んでいます。

 新エネルギー自動車向けの需要が急拡大すると予想されること、不安定な国際環境によって資源価格が上昇する可能性があることなどが注目ポイントです。

江西カン鋒リチウムの月足

期間:過去3年(2019年~2022年4月14日)
出所:楽天証券ウェブサイト