5月のマーケットはファンドの「決算に絡んだ手仕舞い」や、「QE2終了に向けた手仕舞い」が出てきて、値動きの荒いマーケットとなった。現在、ファンド勢の玉処分も峠を越えてやや落ち着きを取り戻してきている。

ファンド勢の興味は既にQE2後の相場にあるが、現在はポシションを小さくしてキャッシュを温存し、次の収益チャンスを伺う格好となっている。「量的金融緩和第2弾(QE2)と呼ばれるこの国債購入計画は、6月に終了する予定だ。その時、何が起きるか。QE2の批判者でさえ神経質になっている」(WSJ)と報道されるなか、ボクシングに例えるなら、現在は真っ向勝負を避け、ジャブを出しながらアウトボクシングで様子観をしているに過ぎない。

やはりQE2のモルヒネ的なバブル効果は大きかったわけで、バブル環境は引き続き温存されるとはいえ、QE2終了後の相場の反応を見極めたいというファンド関係者が多い。こうしたなか、為替・株式・債券・商品市場関係者の相場観も強気と弱気が交錯している。

市場で話題になっているのが、G・ソロスの金の売却である。ゴールド市場を代表する二大仕手筋であるソロスとポールソンの相場観の対立から、QE2終了で「バブル相場は天井か? 一段高か?」といった議論が至るところで展開されている。

「5月17日(ブルームバーグ):資産家で投資家のジョージ・ソロス氏は、1-3月(第1四半期)に金を売却した。一方、ヘッジファンド運用者のジョン・ポールソン氏は保持している。金相場が一段高に向かうどうかで見方が異なるようだ。ソロス氏のソロス・ファンド・マネジメントは金現物の裏付けのある<SPDRゴールド・トラスト>の保有高の99%と<iシェアーズ・ゴールド・トラスト>500万株すべてを売却。産金会社のノバゴールド・リソーシズとキンロス・ゴールド株も一部売却した。16日の当局への届け出から分かった。 一方、ポールソン氏のファンド会社、ポールソンの届け出によれば、同社はSPDRゴールド・トラスト株3,150万株を保持。バリック・ゴールドやゴールド・フィールズなど産金会社株も買い増した」と報道されているように、ヘッジファンドの相場感も極端に分かれている。

デフレ懸念からバーナンキFRBが量的緩和(ドルの大増刷)に踏み出したことを理由に、G・ソロスはゴールドを購入した。しかし、現在、米国のデフレ懸念はなくなりQE2も終了することからゴールドを売却したと言われている。米国の消費者物価指数(CPI)は、利上げを行っている欧州と変わらないレベルに上昇しており、彼のロジックではゴールドの売却は理にかなっていると言えよう。G・ソロスは「QE1・QE2相場の手仕舞い」を行ったのだ。

ユーロ圏(赤)と米国(青)の消費者物価指数(CPI)


(出所:石原順)

このG・ソロス的な「QE2の手仕舞い相場」が加速したのが5月の連休時で、シルバー(銀)相場をはじめとする商品相場の暴落につながった。この商品相場の暴落では、大手のヘッジファンドが軒並み損失を計上している。「アステンペック・キャピタル」「ブルー・ゴールド」「クライブ・キャピタル」「チューダー・ファンド」といった早耳筋のビック・ネームが大きな損をしたということは、5月の商品相場急落が「ブラック・スワン的な動き」であったことは間違いない。ファンド勢の懐は相当痛んでおり、これまでロング・オンリーだった商品相場が変調をきたすのは間違いないだろう。

シルバー先物(日足)オプション・ボラティリティ70%超えは5000年に1度の相場?

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:オプション・ボラティリティ(赤のライン)


(出所:石原順)

このシルバー(銀)相場の急落について、大手コモディティファンドのクライブ・キャピタルは「確率的には5000年に一回しか起こらない動きだった」と述べているが、東日本大震災の日経平均の先物・オプション市場でも同様の事が起きており、昨今、ブラック・スワン相場が日常茶飯事となっている。筆者は「相場で生き残る方法は?」と聞かれれば、「それは、ストップ・ロス注文です」と答えているが、ストップ・ロスとはあらかじめ計算された損失である。相場を「博打」ではなく「事業」と考えるなら、ストップ注文を置くのはマストであろう。

商品市場が変調をきたすと、為替相場にも大きな影響が及ぶ。それは「資源通貨」とよなれる通貨だけではない。

下のチャートを見て頂きたい。これは原油相場とユーロ相場の推移である。ユーロは原油相場と極めて相関関係が高い。目で見ればわかるような動きなので、最近の相関係数を調べたことはないが、5~6年前までは原油価格が10%上がると、ユーロ/ドルは2%上がるというのが相場の世界の通り相場だった。

ユーロ/ドルと原油相場の推移(月足)


(出所:石原順)

4月後半からG7で、インフレ抑制を大義名分に「投機資金を締め上げよう」という動きが出てきている。シルバーのマーケット同様に、原油市場でも証拠金の引き上げが行われており、投機筋は上値を買い上がることに恐怖を感じている。原油市場が安定あるいは下落に転じれば、ユーロ圏の利上げサイクルにも大きな影響を与えるため、商品市場の動きにも注意が必要だ。

原油価格(緑)と欧州政策金利

露骨な証拠金引き上げは当局によるインフレ阻止のシグナルか? 今後、原油価格の上値は抑えられる可能性がある


(出所:石原順)

現在、鳴りを潜めている投機資金はQE2終了で何処にいくのだろうか? QE2後の相場は、恐らく多くのマーケットが「横這い相場」となるだろう。QE2は終了しても、「FRBの資産は売却せず再投資を続ける」というQE2.5によって相場の下値は維持されるからだ。さりとて、QE1やQE2のようなバブル効果はないので上値も限定される可能性が大きい。

米国の量的緩和政策とNYダウの推移

QE2を終了しFRBの資産も売却するというのなら相場は単純だが…


(出所:石原順)

QE2終了後の相場のイメージは横這い


(出所:石原順)

そうなると為替相場も大きく観れば横這いのレンジを想定せざるを得ない。筆者の周辺のファンドの意見を総合して図にすると、横這い相場のドル/円相場は以下のようなイメージになる。

ドル/円 横這い相場のイメージ


(出所:石原順)

横這い相場とは、言い換えればトレンドが発生しにくいということなので、筆者も今後「逆張り」のポジションを増やしていこうと、試行錯誤しながらいろいろな売買手法を試している。今年の相場で最もうまく機能しているのが、「21日ボリンジャーバンド2σ」近辺での逆張りだ。もう一つの逆張り売買ポイントは「13日移動平均の3%乖離」水準である。このいずれかの水準でポジションを取り、儲かったら欲張らずに売るのが良いだろう。筆者が現在、逆張り売買の対象としている通貨は「ドル/円」「豪ドル/円」「カナダ/円」である。

逆張りは相場の転換点をとらえる売買手法である。必然的に相場の流れに逆らったポジションを作ることになるので、ストップ・ロス注文を絶対いれなければならない。相場とは何か? それはつまるところ、ストップ・ロス(資産管理)である。

ドル/円(日足)と逆張りポイント


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足)と逆張りポイント


(出所:石原順)

豪ドル/円はNYダウと連動


(出所:石原順)

カナダ/円(日足)と逆張りポイント

通貨オプション市場ではカナダ/ドルのショート・ストラングル構築の動きがみられるが、カナダはいいところまで下げたということか…


(出所:石原順)

一方、今年の相場で順張りが最もうまく機能しているのは、ドル/スイスの相場である。トレンドを持ちやすいドルインデックスの動きに連動しており、テクニカル的にみると理論通りの相場を継続している。相場の動きを最も理解しやすい通貨と言えるだろう。筆者はこれまであまり注目していなかったが、今年はスイス/円もドル/スイスと同様の動きとなっており、順張り(トレンドフォロー)の対象となるのではないかと思われる。

ドル/スイス(日足)

上段:14 日ADX(赤)・26 日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21 日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

スイス/円(日足)

上段:14 日ADX(赤)・26 日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21 日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)