毎週金曜日午後掲載
本レポートに掲載した銘柄:TSMC(TSM、NYSE ADR)、エアロバイロンメント(AVAV、NASDAQ)
TSMC
1.2022年12月期1Q業績は会社側ガイダンスを上回る。業績好調続く。
TSMC(TSM、NYSE ADR)の2022年12月期1Q(2022年1-3月期、以下今1Q)は、売上高4,910.79億台湾ドル(前年比35.5%増)、営業利益2,237.90億台湾ドル(同48.7%増)となりました。会社側ガイダンスの売上高4,582億~4,747億台湾ドル(同26.4~31.0%増)、営業利益1,924億~2,089億台湾ドル(27.8~38.8%増)を上回りました。大型設備投資による増産効果、値上げ効果、前4Qに比べて新型コロナワクチンの寄付費用が減少したことなどで研究開発費、販売費、減価償却費の増加などを吸収し、営業利益率は前4Q41.7%に対し今1Qは45.6%と大きく改善しました。
今1Q売上高は前4Q比12.1%増となっており、設備投資の効果の大きさが分かります。
今1Qのウェハ出荷枚数は377.8万枚(300ミリウェハ換算)となり前年比12.5%増、前4Q比1.4%増と順調に伸びました。ウェハ1枚当たり売上高は前4Q11.8万台湾ドルから今1Q13.0万台湾ドルへ伸びましたが、これは値上げ効果と単価が高い7ナノの増収によると思われます。
表1 TSMCの業績
グラフ1 TSMCの月次売上高
グラフ2 TSMCのウェハ出荷枚数
グラフ3 TSMC:ウェハ1枚当たり売上高
2.分野別売上高ではHPC向け、自動車向けが好調
分野別売上高を見ると(会社開示の分野別売上構成比から楽天証券計算)、今1Qで最も大きかった分野はHPC向け(ハイパフォーマンスコンピューティング。高性能パソコン、サーバー、ゲーム機用半導体など向け)が最も大きく、次がスマートフォン向け(特に5Gスマートフォン向け)でした。前年比を見ると、最も伸びが大きいのが自動車向け69.4%増、次いでHPC向け58.7%増、その他向け35.5%増、スマートフォン向け20.4%増と続きました。HPC向け、自動車向けの大きな伸びは今後も続くと予想されます。
テクノロジー別売上高では、前4Q同様今1Qも5ナノ、7ナノの構成比が合計で50%となりました。
表2 TSMCの分野別売上高
グラフ4 TSMCのテクノロジー別売上高
3.今2Qも業績好調が続く見通し
今2Qの会社側ガイダンスは、売上高176億~182億USドル、1USドル=28.8台湾ドル、営業利益率45~47%です。台湾ドルベースでは、売上高5,069億~5,242億台湾ドル(前年比36.2~40.9%増)、営業利益2,281億~2,464億台湾ドル(同56.6~69.2%増)となる見込みです。
今2Qはスマートフォン向けが季節的に減速する見込みですが、HPC向け、自動車向けが増加して全社業績を牽引すると予想されます。半導体需要は強い状態が続くと会社側は見ています。特に5Gスマートフォン、PC、サーバー、ネットワーキング、自動車アプリケーションの需要が強いと会社側は見ており、特にHPC(パソコン、サーバーなど)向けは今年と来年の需要増加が期待されます。
また、新型コロナとウクライナ戦争によるサプライチェーンの混乱によって、顧客の在庫水準は高い状態が続くと予想されます。材料調達については、ネオンやジオンなどの特殊化学品やガスについては、様々な地域の複数のサプライヤーから調達しており、一定レベルの在庫を持っているとしています。
今1Qまでの業績と今2Qの会社側ガイダンスを参考に、楽天証券では今期2022年12月期、2023年12月期業績予想を上方修正します。2022年12月期は前回予想売上高2兆800億台湾ドル、営業利益8,940億台湾ドルを売上高2兆800億台湾ドル(同31.0%増)、営業利益9,360億台湾ドル(同44.0%増)へ、2023年12月期は前回予想売上高2兆8,000億台湾ドル、営業利益1兆2,400億台湾ドルを売上高2兆8,000億台湾ドル(同34.6%増)、営業利益1兆2,800億台湾ドル(同36.8%増)へ上方修正します。引き続き好業績が予想されます。
今期設備投資計画は、前回と同じ400億~440億ドル(最大5.5兆円)です。引き続き大型投資が続く見通しですが、生産能力がタイトな状況は2022年を通じて続く見込みです。3ナノ(N3)量産は、予定通り2022年後半から開始される見込みで、収益への貢献は2023年からになると予想されます。N3の次世代版であるN3Eは、N3開始から1年後に量産が開始される見込みです。3ナノに対する顧客の需要は非常に強く、TSMCでは十分な設備投資を計画しています。
また、3ナノの次の2ナノは年内に台湾で新工場建設が着工する予定であり、2025年に生産開始の予定です。今のところ2ナノは、2024年末にリスク生産(試験生産)を開始し、2025年後半に量産開始のスケジュールです。
なお、会社側は企業名を明言していませんが、3ナノ、2ナノについては、インテルが重要顧客になる可能性(インテルがTSMCから3ナノ、2ナノのCPU、GPU等を調達する可能性)があります。
グラフ5 TSMC:四半期設備投資
グラフ6 TSMCの年間設備投資
4.今後6~12カ月間の目標株価を前回の180ドルから130ドルに引き下げる
今後6~12カ月間の目標株価(ADRベース)を、前回の180ドルから130ドルに引き下げます。
楽天証券の2022年12月期EPS予想32.86台湾ドル、足元の為替レート1台湾ドル=0.034USドルより、USドルベースの楽天証券EPS(1株当たり利益)予想は1.12ドルになります。TSMCの1ADRは普通株5株に相当するため、ADRベースの楽天証券今期予想EPSは5.6ドルになります。これに成長性と地政学的リスクを中心とするリスクを考慮して、ADRベースで想定PER(株価収益率)20~25倍を当てはめました。
引き続き中長期では投資妙味を感じますが、主に地政学的リスクと生産能力がタイトになっていることを株式市場が懸念している状況を考えると、株価上昇への動きは当面は鈍いものとなると思われます。
エアロバイロンメント
1.軍事用ドローンメーカー
エアロバイロンメント(AVAV、NASDAQ)は、アメリカの軍事用ドローンメーカーです。主力製品は小型UAS(Unmanned Aircraft Systems)で攻撃型(自爆型)ドローンである「スイッチブレード300」「同600」ですが、このほかにも偵察型ドローン「ブラックウィング」、スイッチブレードとブラックウィングを組み合わせてシステム化した戦術ミサイルシステム、偵察型ドローンの「Puma」シリーズなどの製品ラインアップを持っています。また、サイズの大きい中型ドローンには2021年4月期にArcturus(アークチュラス)を買収して参入しました。
今回のウクライナ危機では、報道されているだけで、スイッチブレードが1回目100台、2回目100台、アメリカからウクライナに供与されました。また、3回目300台の供与が決まりました。このほかにも供与されている可能性があります。
ウクライナに供与されたものがスイッチブレード300なのか600なのか不明です。スイッチブレード300(2011年にアメリカ軍での採用が決まった)は軽量ですが弾頭が小さいため軽装甲車までの撃破が可能です。再利用はできませんが、1機約6,000ドルと安価です。スイッチブレード600(2020年に開発終了)はより重いですが、対戦車弾頭を装備できるため、戦車の撃破が可能です(価格は不明)。
2.米軍調達の減少で、2022年4月期は赤字予想。2023年4月期からの黒字転換に期待。
エアロバイロンメントの2022年4月期3Q(2021年11月-2022年1月期、以下今3Q)は、売上高9,009.3万ドル(前年比14.4%増)、営業損失1,412.6万ドル(前年同期は64.2万ドルの赤字)となりました。増収にはなりましたが、これは契約サービス売上高の増加によるものです。今期はアメリカ軍のスイッチブレードの調達が減少している模様であり、このため採算の良い製品売上高が減収となり営業赤字になりました。
会社側ガイダンスによれば、2022年4月期は売上高4億4,000万~4億6,000万ドル(前年比11.4~16.5%増)、当期純損失800~1,200万ドルの見込みです。今期2022年4月期は通期で赤字になる見込みですが、今4Qはウクライナ戦争の影響でウクライナ向けだけでなく、アメリカの同盟国、友好国向けにスイッチブレードの需要が増加している可能性があります。そのため、今4Qは営業黒字が予想されます。
ドローンによる偵察と攻撃、特に攻撃型ドローン、スイッチブレードのような自爆型ドローンは、戦場における新しい攻撃方法です。特に小型軽量で従来型のスイッチブレード300だけでなく、戦車の撃破が可能なスイッチブレード600は今後需要が伸びる可能性があります。
このような見方から、楽天証券では、エアロバイロンメントの来期2023年4月期を売上高5億2,500万ドル(同16.7%増)、営業利益4,500万ドル(2022年4月期楽天証券予想は2,100万ドルの営業損失)と予想します。2023年4月期の営業利益率は2021年4月期から以前に比べ低いと思われますが、これは2021年4月期に買収したArcturusのMUAS(中型UAS)の赤字が継続すると思われるからです。
今後はスイッチブレードの販売の伸びとともに、MUASの損益の改善が焦点となります。
表3 エアロバイロンメントの業績
表4 エアロバイロンメントのセグメント別業績(年度)
表5 エアロバイロンメントの売上高内訳
表6 エアロバイロンメント:受注残高
4.今後6~12カ月間の目標株価を140ドルとする
エアロバイロンメントの今後6~12カ月間の目標株価を140ドルとします。2023年4月期の楽天証券予想EPS1.61ドルに、成長性を考慮して想定PER80~100倍を当てはめました。
中長期で投資妙味を感じます。
本レポートに掲載した銘柄:TSMC(TSM、NYSE ADR)、エアロバイロンメント(AVAV、NASDAQ)
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