ドル全面高の中での円安進行

 ドル/円は再び125円を目指しました。3月の終わりは円全面安の中での125円台乗せでしたが、先週はドル全面高の中での円安進行でした。

 きっかけは先週5日(火)のブレイナードFRB(米連邦準備制度理事会)理事の発言とそれを裏付けるかのような3月のFOMC(米連邦公開市場委員会)の議事要旨が6日に公表されたことです。

 これまでハト派とみられていたブレイナード理事が、5日、「資産圧縮を5月にも急速なペースで始める」とタカ派的な発言をしました。この発言によって米長期金利が上昇し、ドル高となりました。急ピッチのQT(量的引き締め)は金利の急上昇をもたらし、景気を後退させる可能性があります。

 景気の先行き懸念からマーケットの警戒感が高まり、米株もS&P500やナスダックは先週、週間で4週ぶりに下落しました。また、景気の先行指標とされるダウ輸送株平均は4月に入り11%下落し、8日には今年の安値を更新しました。

急ピッチの資産圧縮検討

 6日に公表された3月のFOMCの議事要旨では、資産圧縮のペースが前回の倍近くとなる月950億ドルを上限に検討されていることが判明しました。

 内訳は国債が600億ドル、住宅ローン担保証券が350億ドルとなっています。償還が来た債券の再投資を停止する手法で保有額を減らしていくとのことです。

 FRBの前回の資産圧縮は2017~2019年に実行され、最大で500億ドルのペースで資産を圧縮し、当時の資産残高が4.5兆ドルから3.7兆ドルになった時点で金融緩和に転換しています(0.8兆ドルの圧縮)。

 今回の圧縮ペースは当時の2倍に近く、FRBはどこまで圧縮するのか明示していませんが、大規模緩和で9兆ドルまで膨らんだ現在の資産を毎月950億ドルで3年続けると3.4兆ドルの圧縮が進む計算となります。

 ある分析によると、保有資産が3年で3兆ドル減った場合、長期金利が約1%押し上げられるとのことです。米10年債金利は3月初めには1.71%台でしたが、直近では2.7%台となっており、ここ1カ月で急速にその押し上げ効果を織り込んでいったということになります。

 このように、ハト派のブレイナード理事が資産圧縮は急ピッチで始めるとのタカ派発言をした翌日に、3月のFOMCで前回の倍近くのペースで資産圧縮が進むことが検討されていたことがわかると、市場に驚きと警戒感が一気に広がり、金利上昇とドル高に拍車がかかりました。

 FRBが保有資産を縮小するQTは、売却ではなく満期償還を迎えた債券のうち再投資に回す額を減らす方法によって資産を圧縮していくとのことですが、保有額は減るため実質的な債券の売り手になります。

 これまで米国債発行額の6割を吸収していた圧倒的な買い手が売り手に回る影響は大きく、しかもそのペースが速いとなると、金利市場は相当その影響を警戒してきます。

 先週末には米10年債金利は3年ぶりに2.7%台に上昇し、ドル/円は週明け東京市場で125円台に上昇しました。

 黒田東彦総裁は相変わらずの緩和維持の姿勢を貫いているため、FRBがよりタカ派になればなるほど円安圧力が高まりますが、先週は円全面安というよりも、FRBの強まったタカ派姿勢を受けたドル全面高の動きでした。ドル/円だけでなく、ユーロもドル高によって再び1.08台に下落しました。

利上げペースも速まるのか?!

 それでは、FRBのタカ派姿勢はどの程度マーケットに織り込まれたのでしょうか。

 5月の0.5%の利上げとQT開始はかなり織り込まれているとみられます。QTのペースが速くなるという材料は、先週のブレイナード理事の発言によって123円台から125円台に上昇したとみれば、材料としてはかなり織り込まれた可能性があり、この先、この材料での円安推進力は弱まることが予想されます。

 0.5%の複数回の利上げ予想については、米金利先物市場ではFRBが年内の残り6回(5月、6月、7月、9月、11月、12月)のFOMCで、政策金利を2.5%以上に引き上げるとの予想が8割近くに達しています。これは0.5%の利上げが3回あることを織り込んだ水準で、マーケットもそのような反応を示しています。

 それ以上のタカ派的な見方については、マーケットは冷静な反応をしているようです。例えば、セントルイス連邦準備銀行のブラード総裁は、7日、政策金利は下半期に3.5%に達する必要があると発言しました。

 このことは年内の残り6回のFOMCで毎回0.5%の利上げが必要であることを示しているとも述べました。この発言はかなりタカ派的な内容ですが、タカ派過ぎてマーケットはまだ消化し切れていないようです。

 今後、マーケットがさらに金利上昇とドル高に反応するとすれば、2.5%への利上げペースが速まるというシナリオが想定されます。例えば、5月、6月、7月のFOMCで連続して0.5%の利上げを行い、その内の1回が0.50%以上の利上げとなると、長期金利やドルは一段と上昇することが予想されます。

 12日に発表された3月の米国CPI(消費者物価指数)は前年比+8.5%と前月(+7.9%)から加速しましたが、エネルギーと食品を除くコアCPIが前年比+6.5%と予想を下回ったため、米10年債金利は前日の2.77%台から2.72%台に低下しました。しかし、CPIの水準は約40年ぶりの伸びとなっており高止まりしています。

 従ってインフレ抑制の早めの対応として5月に0.5%以上の利上げ、例えば、0.75%や1%の利上げというシナリオにも留意しておいた方がよいかもしれません。

 今週は125円が2番天井になるのかどうか、あるいは130円へ向けた通過点として125円台を維持し、2015年の高値である125.86円近辺をブレイクしてくるのかどうかを注目したいと思います。ユーロで言えば、1.08を割れるのかどうか、あるいは1.08を下方にブレイクし1.05を目指す動きになるのかどうかを注目したいと思います。

 今週発表の米CPI、PPI(生産者物価指数)を受けてドル高続行か、ドル高一服か注目です。