▼著者

松田康生
楽天ウォレットシニアアナリスト

東京大学経済学部で国際通貨体制を専攻。三菱UFJ銀行・ドイツ銀行グループで為替・債券のセールス・トレーディング業務に従事。2018年より暗号資産交換業者で暗号資産市場の分析・予想に従事、2021年のピーク800万円、年末500万円と予想、ほぼ的中させる。2022年1月より現職。

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ビットコインとブロックチェーンの登場が世界を変えた理由

 銀行で為替のスポットディーラーをやっていた時、担当になった通貨の国を次の長期休暇で必ず訪れる同僚がいました。自分がディールするものを少しでも理解したいからだそうです。彼はディールの調子が悪くなると高尾山に登ったりしていたので、単にゲンかつぎが好きだっただけなのかもしれません。

 国内のFXユーザーが約800万人といわれているのに対し、暗号資産ユーザーはおよそ400万人と半分程度。これを意外と多いと考えるのか、少ないと考えるのか。米政府によれば全米のユーザーは4,000万人ですので、これと比較するとまだ少ない気がします。

 なぜ、そう思うのかといえば、BTC(ビットコイン)と、それを支える技術・ブロックチェーンは、インターネット開始以来、最大の発明といわれているからです。現在、何をするにもインターネット経由で行われる世界になったように、ブロックチェーンもこれからさまざまな分野に広がっていくことが予想されています。

 なぜインターネット開始以来、最大の発明といわれているのか、先に結論をお話しすると、従来のインターネットは情報を流すだけだったのが、BTCとブロックチェーンの登場によってインターネットを通じて価値・お金をやりとりすることが可能になったからです。

 本稿では、なぜそうなったのか、BTCとブロックチェーンについての要点をご説明するとともに、BTCの価格が上下するメカニズムについても少しご説明したいと思います。

暗号資産と電子マネー、決定的な差は?

 まずBTCとは何でしょうか? 電子データだとか、それがチェーン上に並んでいて、なんとか将軍問題が…とか聞きかじってみたけれど、分かり難くて断念した経験はないでしょうか? もしそうならば、皆さんは運が悪い。皆さんの理解力が足らないのではなく、説明が悪いのです。

 BTCを説明するのに、まずブロックチェーンの説明から始めることは、「自動車って何ですか?」と聞かれて、エンジンとかブレーキの仕組みの説明から始めることに似ています。

 我々は別にエンジニアではないので、エンジンやブレーキの仕組みを知らなくても自動車の運転に支障がないように、BTCを理解するのに、それを支えるプログラムやシステムの仕組みまで知る必要はありません。もちろん、知っていて損はありませんが。

BTC・ホワイトペーパー冒頭部抜粋

出典:bitcin.org

 では、もう一度、「BTCとは何ですか?」といえば、その答えはズバリ「新しい電子マネー」です。BTCを作ったとされる伝説的人物、サトシ・ナカモトはBTCの設計図にあたる、ホワイトペーパーと呼ばれる論文の冒頭でElectronic Cashと記しています。まさに電子マネーですよね。

 でも電子マネーなんかBTCが出る前からいくらでも存在しました。今でもSuicaやPayPay、楽天キャッシュ、極端にいえばアプリ上に表示される銀行預金残高だって電子マネーの一種です。これらはBTCと何が異なるのでしょうか?

 それはホストコンピューターの有無です。従来の電子マネーは必ずシステムの中央にホストコンピューターが存在し、データが正しいということを保証していました。BTCにはこれがないのです。この点がBTCの大発明だったのです。

 従来の電子マネーは、お金の計算をするのですから、ホストコンピューターには多大なコストをかけてデータを守ってきました。これを管理者とか仲介者と呼びます。こうした金融機関による仲介なしにネットワーク上で直接お金をやりとりできるようにしたことがBTCのブレイクスルーなのです。この点が重要なのでもう少し詳しく説明します。

BTCがお金の地理的限界を突破

中央集権的システム:左 非中央集権的システム:右

 上図の左はホストコンピューターが存在するシステム、中央集権的なシステムです。右はホストが存在しないシステムで、非中央集権的とか分散型システムと呼びます。前者はホストコンピューターが、データが正しいことを保証してくれます。

 後者の場合はネットワークに参加する人がそれぞれ元データを保存していて、不正な取引があったらお互い指摘して排除するという形でデータの正しさを担保します。

 その結果、中央集権的なシステムではネットワーク参加者間のやり取りに必ずホストが間に入ります。AさんがCさんにお金を払おうとしたとき、そのデータは一度ホストを通過し、その際に残高は正しいか確認して、AさんとCさんとの間の残高を振り替えます。

 これに対し、非中央集権的なシステムではAさんからCさんにお金を払う時、データは仲介者を経由することなく、AさんからCさんにデータが送られるだけで完了します。後は、ネットワークと同期化した参加者が、データが正しいかをチェックします。

 これが実はコロンブスの卵で、従来、人々は遠隔地間でお金をやり取りするときに必ず仲介者を必要としていました。

 大昔の貿易船は船に金貨を積んでいました。でも、それでは海賊に狙われて危ないということで、金融機関を仲介にした決済が行われるようになりました。

 例えば、ベネチアの商人はベネチアで預金している銀行のイスタンブール支店経由でイスタンブールの仕入れ先に支払うわけです。この原型は、中東だか中国からきたと聞いたことがありますが、我々が何百年もこうして金融機関に手数料を払い続けてきたことは、美しいベネチアやフィレンツェの街並みに表れています。

 それをついに2009年に、BTCがこのお金の地理的限界を突破したのです。この結果、我々は、ノートルダム寺院の修復やウクライナ政府に直接寄付金を送ることが可能になったわけです。

 次にブロックチェーンです。ブロックチェーンを説明するとき、上記の図を見せられて、データをひとまとめにして、それにタイムスタンプを押してブロック状になったデータを暗号化して…という難解な説明をされることが多いのですが、これはほとんど、自動車の説明をするのにガソリンエンジンの仕組みを説明しているようなものです。

 エンジニアの人は別にして、ユーザーである皆さんがエンジンの仕組みまで知る必要はありません。それこそ「木を見て森を見ず」です。

 先ほどみたように、仲介者を必要としない遠隔地決済を実現した、まさにインターネット上のお金であるBTCですが、お金として通用するために、分散化、すなわちネットワーク参加者みんなで監視する仕組みと、書き換えが難しいデータの2つが必要なのです。

 この書き換えの難しいデジタルデータという夢の技術を実現したのが「ブロックチェーン」という技術なのです。

 世間ではブロックチェーン技術により改ざんできないデジタルデータが生まれた結果、デジタルデータが資産性を持ち始めた、と思われるかもしれませんが、実はその逆で、BTCを設計する上で、改ざんできないデータが必要となり、そこで生み出されたのがブロックチェーンという技術です。

 正確にはブロックチェーンという技術にも開発の歴史があって…というのは、自動車でいうところの、レシプロエンジンの2スト、4ストの違いのようなもので、普通の人には関係がないお話です。

BTCの発行システムを支えるマイナーたち

出典:Cointelegraphより楽天ウォレット作成

 そうして2009年1月に生まれたBTCですが、一時時価総額100兆円を超え、1日の出来高も数兆円となっています。この成功の裏に、その優れた発行システムがあるといわれています。

 BTCは10分に1回ブロックが形成され、ブロック形成に貢献した*マイナーといわれるネットワーク参加者に6.25BTCが報酬としてプログラム上で発行されて支払われます。1BTC=4百万円で計算して25百万円です。

*マイナーとは:暗号資産(仮想通貨)は一般的にブロックチェーンと呼ばれるネットワーク参加者が誰でも見られる元帳上に取引を記録していきます。そのブロックチェーン上に取引データを記録する際に、膨大な計算を行うことをマイニングといいます。マイニングの主な役割は「暗号資産の新規発行」と「取引の承認」です。

 このマイニングを行う人を「マイナー」と呼びます。マイナーは、マイニングを通して新たなブロックを生成する暗号を見つけ出し、その報酬としてコインを手に入れることができます。

 ネットワークへの参加は自由ですので、皆さんもお手持ちのコンピュータをBTCのネットワークに接続して、このブロック生成の暗号探しにチャレンジしてみては…といいたいところですが、そのためには気の遠くなるような計算能力と機械を動かす電力が投入されています。

BTC発行額(報酬額)は、発行後の4年半ごとに半減

出典:Bitcoin.orgより楽天ウォレット作成

 この発行額(報酬額)ですが、2009年の開始時には1ブロックあたり50BTCだったのですが、約4年ごとに半分(これを半減期と呼びます)になり、2020年5月以降は6.25BTCになっています。これが一昨年からの時価総額の上昇をもたらしたといわれています。

 供給量が半分になるのだから価格は上昇するのは当然といえるかもしれません。実はこの半減期は、マイナーの報酬が減ってマイニングをやめてしまわないように、供給量を絞って価格をゆるやかに上昇させることを目指して設計されたものといわれています。

 しかし、そのことがコロナ禍の社会で思わぬ副作用を生み出しました。コロナによるロックダウンなどでGDP(国内総生産)の2~3割が失われるという惨事に見舞われた各国政府は、史上最大の財政政策と金融緩和で打ち返そうとしました。

 その当時は、正しい判断であったかもしれませんが、これは国が借金をして国民にばらまき、その借金を中央銀行が買い取るというオペレーションで、中央銀行がお金を印刷して国民に配っていることとほぼ同義でした。

 しかし、米国を中心に、そんなことを続けていてはひどいインフレになると危惧した人がインフレのヘッジとしてBTCを買い始めました。すなわち、法定通貨の発行体である政府の無節操な通貨発行が、プログラムで発行量が決められていて政府の管理を受けない新しいお金であるBTCの魅力を高めたわけです。

 昨年11月にFRB(米連邦準備制度理事会)が発行しすぎたドルの発行ペースを鈍化(テーパリング)させたことをきっかけに、BTCが価格を落としたのも同じ理由でしょう。そういう意味では、今年、ばらまき過ぎた貨幣を吸収するのであれば、価格は下がりやすいかもしれません。

BTCはウクライナ・ショックでどう動いた?

出典:楽天ウォレット作成

 そのインフレヘッジとして、金と一緒に買われていた経緯から、BTCはデジタルゴールドと呼ばれることがあります。一方で、今回のようにウクライナで戦争が発生するとBTCは売られます。ではBTCはどういった時に売られ、どういった時に買われるのか簡単にお話ししたいと思います。

 まずリスク資産かリスク避難(安全)資産かといえば、BTCは原則としてリスク資産です。戦争のように先行きがどうなるか分からなくなると、投資家は資産を守るためにリスクを減らそうとします。その場合、値動きが激しいBTCは真っ先に売られやすくなります。

 そうした場合、投資家はともかく資産をいったん現金化しようとします。通常は現金が最も安心だからです。しかし、戦争やインフレなどリスクが究極的に高まると、その法定通貨の価値が怪しくなる場合があります。

 そうした場合は究極の避難先としてBTCが買われることがあります。お金としては生まれたばかりで、使い勝手も悪いのですが、発行者も仲介者もいないため、どこの政府にも影響を受けない性質が、究極のリスク下では魅力に感じられるわけです。

 例えば、経済制裁でルーブル安が止まらない中で資本逃避の対象として買われたり、かつてはキプロスで預金封鎖と残高に対する課税が検討された際にBTCに逃避買いが巻き起こったりしたことなどがあります。

 長らくデフレが続いた日本でも預金封鎖とハイパーインフレーションを経験していますし、国の債務がGDP対比約2倍という財政状況は当時とあまり変わりません。そうしたリスクが0%ではないならば、インフレに100%ベットするのではなく、このくらいリスクがあると思う程度の割合で資産の一部をBTCに分散投資するという考え方をお勧めします。

将来性のある暗号資産を見つける醍醐味

主な暗号資産の時価総額ランキング

出典:CoinMarketCap

 最後にBTC以外の暗号資産をご紹介しましょう。BTCを始めとしたブロックチェーンを利用したコインを以前は仮想通貨と呼んでいたのですが、2019年、金融庁が暗号資産と名前を改めました。その中でもBTC以外のものをアルトコインと呼びます。

 BTCに次ぐ時価総額第2位がETH(イーサリアム)で第3位がUSDT(テザー)です。

 この3つが不動のトップ3の地位を占めているのには共通の理由があります。この3つはそれぞれオリジナルだからです。

 この業界で権威あるCoinMarketCapによれば、暗号資産はすでに1万種類以上発行されています。そして、そのほとんどがBTCより性能的には優れています。BTCがオリジナルであるブロックチェーンという仕組みを応用・改良したものだからです。

 これはカップ麺に例えると分かりやすいのですが、年間1,000種類以上の新製品が発売されているにもかかわらず、不思議なことに、カップヌードル(登録商標)が不動の1位を守り続けています。あの味に舌が慣れてしまったというのもあるでしょうが、一番の理由はそれがオリジナルだからでしょう。

 どうやら人間はオリジナルに敬意を表し、価値を見いだすようです。他の商品でもオリジナルは別格扱いされ、それ以外は類似品と扱われます。しかしその中で改良がすごすぎて、もうオリジナルと呼んでもいい商品も出てきます。インスタント焼きそばなどです。

 ETHは、それまで取引内容データを格納していたブロックにプログラムを書き込むという画期的なアイデアを生み出し、スマートコントラクトという世界を生み出しました。またUSDTは1 USDT=1USDの関係を保つステーブルコインという概念を生み出し、発行母体の信用不安をよそにトップシェアを守り続けています。

 星の数ほどとまではいいませんが、あまたあるアルトコインの中で、自分なりにこの技術はいけると思うコインを見つけ出す宝探し的な要素もあるかもしれません。かつてのビデオテープで起こったVHS 対 ベータ、もう少し最近ではアップル 対 Windowsといった技術争いに1票入れて参加することができるのがアルトコイン投資の醍醐味(だいごみ)の一部でしょう。