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1.2022年1-3月期決算発表シーズンを前に、金融環境を確認したい

 2022年4月14日(木)のTSMCの、2022年1-3月期決算発表を皮切りに、2022年1-3月期決算発表シーズンが始まります。今回は、これから始まる決算発表シーズンの見所を考えたいと思います。

 まず、金融市場の動きから。3月15~16日、FRB(米連邦準備制度理事会)はFOMC(米連邦公開市場委員会)を開催しました。16日のFOMCでは、事前に予告されたとおり0.25%の政策金利引き上げに踏み切りました。2018年12月以来の引き上げです。また、3月16日のFOMCでは、年内に今回分も合わせて計7回、2023年に3~4回利上げし、2023年末には政策金利が長期的な目安となる2.4%を上回るという道筋も示しました。

 ここでいったん利上げは株価に織り込まれたと思われました。実際、SOX指数(フィラデルフィア半導体指数)は、3月14日に大底を付け、その後は上昇に転じました。

 しかし、利上げが株式市場に織り込まれたと考えたのは時期尚早だったようです。4月5日、FRBのブレイナード理事は、ミネアポリス連銀のイベントで、QT(量的引き締め)と呼ばれる資産圧縮について「5月にも急ピッチで始める」と発言しました。FRBが資産圧縮を進めた2017~2019年よりも経済の回復が急速に進んでおり、当時と比べて、かなり急速な圧縮を想定している、としました。足元のインフレについては、賃金上昇が物価の上昇に追いついておらず、家計の購買力が低下しており、特に低所得層への影響が大きいと指摘しました。

 ブレイナード氏のこの発言を受けて、アメリカの長期金利はさらに上昇しました。10年国債利回りは、4月4日の2.4%台から4月5日は2.5%台へ、4月6日は2.6%台へ上昇しました。これに伴いSOX指数は、3月14日の底値3,047.50ドル(終値、以下同様)から3月29日に戻り高値3,625.58ドルを付けた後、軟化していましたが、さらに4月6日3,193.96ドルまで下がりました。ただし、4月7日は3,197.44ドルへ小幅反発しました。

 今後のFOMCの開催スケジュールとアメリカ消費者物価指数の発表スケジュールは表1の通りです。5月のFOMCから毎月利上げの可能性がありますが、従来のように0.25%幅の利上げだけでなく、0.50%幅の利上げがあり得る状況になっています。

 この場合、半導体関連やITのようなハイテクグロース株の業績変化率には、一層大きなもの、あるいは今後も安定的に業績拡大が期待できるという見方が必要になると思われます。その意味では、ハイテクグロース株の株価に利上げが織り込まれるには時間がかかる可能性もあります。

グラフ1 アメリカの政策金利

単位:%、出所:FRBより楽天証券作成

グラフ2 アメリカの10年国債利回り

単位:%、日次終値、出所:Yahoo! Financeより楽天証券作成

グラフ3 フィラデルフィア半導体指数(SOX指数)

単位:ドル、日次終値、出所:Yahoo! Financeより楽天証券作成

表1 2022年のアメリカFOMC開催スケジュール

出所:楽天証券作成

2.ウクライナ危機の世界経済への影響をどうみるか-半導体原材料への影響-

 今回の決算の重要ポイントは、ウクライナ危機が世界経済と半導体筆頭にハイテクグロースセクターに与える影響です。

 半導体については、ウクライナが世界生産の約70%を占めると言われる希ガス「ネオン」の供給問題(ロシアのウクライナ侵攻後、主要2社が操業停止したが、この2社、インガス、クライオインで世界シェアの45~54%を占める)、ロシア産パラジウム(世界シェア約40%)の市況上昇の問題があります。3月29日に開催されたマイクロン・テクノロジーの2022年8月期2Q決算発表において、この2つの原材料については、今後コストアップ要因にはなるものの、現時点では半導体生産には支障はないということでした。

 ただし、この問題については、TSMC、インテル、サムスンといった半導体生産を自分で行っているロジック半導体大手3社、マイクロン・テクノロジーのようなメモリ大手だけでなく、準大手以下のロジック半導体メーカーで自社生産を行っている会社がどうなのかも、気になるところです。特に、自動車、民生機器、産業機器では、汎用半導体としては高いほうの技術レベルになる10ナノ台から40ナノまでの半導体だけでなく、90ナノ、100ナノ、200ナノといった古い半導体も使っています。半導体生産に思わぬ支障が出ているかもしれないため、ニュースに注意する必要があります。

3.ロシア産天然ガスの禁輸とエネルギー価格上昇による世界景気後退の可能性

 ロシア軍はウクライナの占領地において、住民に対して数々の虐殺を行っているというニュースが出ています。これにより、EU(欧州連合)各国からロシア産天然ガスの禁輸を求める声がでてきました。もともと、ロシアと国境を接している東欧諸国、バルト3国とEU中核国たるドイツ、フランスとは立場が異なります。東欧やバルト3国のように旧ソ連の支配下に置かれたことのある諸国はロシアに対する制裁強化を求め、ドイツのようにロシア産天然ガスを大量に購入している国は厳しい制裁には反対の立場でした。

 ただし、ウクライナでロシア軍が住民の虐殺を行ったというニュースが報道されたことにより一層の制裁強化へ風向きが変わってきた可能性があります。これまで踏み込んでこなかったロシア産天然ガスの禁輸が実現する可能性があります。これはロシア経済に大きな悪影響を与えることになると思われますが、今もロシアにエネルギーの多くを依存しているEU各国にとっては、エネルギー価格のさらなる上昇と、ロシア産天然ガスを原料としている欧州化学工業への悪影響などを通じて、EUに景気後退をもたらす可能性があります。アメリカの事情も同様で、インフレ高進がアメリカの景気拡大を鈍化させる可能性があります。

 もしそうなれば、スマートフォン、パソコンと半導体需要に悪影響がでる可能性があります。また、影響が大きくなる最終製品によって半導体への影響も、異なるものになると思われます。例えば、最新鋭のパソコン、スマートフォンに使われる一桁ナノ台(7ナノ、5ナノと2022年後半から量産が始まる3ナノ)の先端半導体と、自動車、民生製品、産業機器に使われる10ナノ台から昔の汎用半導体では、事情が異なる可能性もあります。

 一方で、経済全体で使うデータ量が趨勢(すうせい)的に増加している状況が変わらなければ、あるいは企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)投資が継続するのであれば、企業向け、データセンター向けサーバーの需要増加ペースは変わらず、先端半導体の需要も鈍化しない可能性もあります。これについては半導体各社の決算、特にインテル、AMD、エヌビディアの決算を確認したいと思います。

 また、景気全般の問題になれば、アップル、マイクロソフト、メタ・プラットフォームズ、任天堂、ソニーなどの大手IT企業や大手ゲーム企業の業績にどのような影響がでるかが注目点になります。

 資源価格上昇については、ニッケル市況の上昇がテスラのEV(電気自動車)のコストアップにつながっています(ニッケルはリチウムイオン電池の材料)。ただし報道によれば、テスラは複数のニッケル調達先を確保しているため、ニッケルの調達には今のところ支障はない模様です。

グラフ4 ニューヨークマーカンタイル原油先物:日足

単位:ドル/バーレル、出所:Yahoo! Financeより楽天証券作成

グラフ5 アメリカの消費者物価指数:前年比

単位:%、出所:U.S. BUREAU OF LABOR STATISTICSより楽天証券作成

4.軍備増強によって恩恵をうける軍需関連セクター

 ウクライナ危機は長期化するかもしれません。この中で、EU、非EUに限らず、ヨーロッパ各国とも軍備増強を開始しました。日本でも防衛予算の大幅増額を模索する動きがでています。

 これに伴い、ヨーロッパ各国がアメリカの軍事関連企業に最新鋭兵器を発注する動きがでています。ドイツはロッキード・マーチンの最新鋭戦闘機「F35」35機、エアバスの「ユーロファイター」15機を購入します。また、ドイツの2022年の防衛予算(当初額)のGDP(国内総生産)比率は1.4%でしたが、これを2%以上にします。これによってドイツの軍事予算はほぼ倍増します。

 また、ポーランドなどの東欧も軍事予算を増額します。ポーランドは、ゼネラル・ダイナミクスの戦車「M1A2エイブラムス」250両を購入します。

 ヨーロッパ諸国がアメリカの軍需関連企業から最新鋭兵器を購入する背景には、アメリカとの同盟関係を重視するだけでなく、早期に最新鋭兵器を揃え実戦配備するには、世界最大の軍需産業を持つアメリカに頼るほうが合理的だからと思われます。また、西側にとっての敵はロシアだけでなく、ロシアを支援する動きを見せている中国も含まれます。西側の軍備増強は今後も続くと思われます。アメリカの軍需関連企業大手のロッキード・マーチン、レイセオン・テクノロジーズ、ノースロップ・グラマン、ゼネラル・ダイナミクスなどの決算に注目したいと思います。

表2 2022年1-3月期、2-4月期決算発表スケジュール

出所:各種資料より楽天証券作成

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