金価格の上昇が止まらない

 ウクライナ問題や、世界的に進行するインフレに伴い、金(ゴールド)の価格も大きく上昇しています。

 金価格は確かにウクライナ問題や世界的なインフレ進行により足元で大きく値上がりしましたが、実は長期間にわたり値上がりを続けているのです。10年前に比べると約2倍、20年前に比べると約5倍に上昇しています。

 実際、金価格の高騰により、保有している金地金や、金が使われた宝飾品を売却し、お金に換えようとする人も増えているようです。

 では、金を売って利益が出た場合、税金はどのような取り扱いになっているのかご存じですか?

 これを知らずに金を売却すると、「こんなに税金を取られるとは思わなかった…」と後悔することにもなりかねません。

 今回は基礎知識編として、金を売却したときの税金の扱いをご説明します。

金の売却は「譲渡所得」。株式との違いは?

 所得税の計算上、金の売却は通常「譲渡所得」として区分されます。取引の頻度や内容によっては、譲渡所得ではなく雑所得もしくは事業所得に分類されることもありますが、通常は譲渡所得に分類されますので、雑所得や事業所得の場合の取り扱いは割愛させていただきます。

 譲渡所得といえば、株式の売却も譲渡所得ですし、不動産を売却した場合も譲渡所得です。

 ただ、「譲渡所得」という言葉は同じですが、金の売却と株式の売却、そして不動産の売却における税金の扱いはそれぞれ異なるのです。

 不動産の売却は所有期間に応じて税率が異なる分離課税です。不動産の売却益だけで利益を計算し、税額を計算します。

 また、株式の売却も分離課税となっていて、株式の売却益だけで利益を計算し、税額を計算します。

 分離課税とは、他の所得に関係なく、その所得のみに定められた特別な税率により税額を計算する仕組みです。

 一方、金の売却は分離課税ではなく「総合課税」となっています。総合課税とは、給与所得や事業所得、不動産所得、雑所得といった他の所得と合算した合計所得に対して税率がかけられ、税額を計算するものです。

金の売却益にかかる税金は、他の所得により異なる

 皆さんは、給料が増えれば増えるほど、税率も上がっていくことはご存じかと思います。この仕組みを「累進課税」と呼びます。

 金の売却に対する税金は、総合課税のため、他の所得がどれくらいあるかにより税率が異なってくるのです。

 例えば上場株式の売却であれば、所得税15.315%、住民税5%の合計20.315%となりますが、金の売却益に対する税率は、人により異なります。

 他に所得がない人であれば、金の売却益が100万円あったとしても、基礎控除なども併せて考えれば税額がほぼゼロ、ということになります。

 逆に他の所得、もしくは金の売却益が数千万円レベルであるという方は、所得税と住民税を合わせると、金の売却益に対して50%超の税率がかかってしまうということもあります。

金の売却益の具体的な計算方法は?

 では、金を売却した場合の具体的な税金の扱いを見てみることにしましょう。

 金を売却した場合、通常は「総合課税の譲渡所得」となります。

 総合課税の譲渡所得の計算は以下のようになります。なお、金の売却以外に総合課税の譲渡所得の対象となるものがある場合は、それも含めて計算します。

〇特別控除として50万円を差し引いたうえで、所有期間に応じて残りの額につき次のように所得の額を計算します。

所有期間が5年以内の場合:短期譲渡所得
(売却益-特別控除額)×税率

所有期間が5年超の場合:長期譲渡所得
(売却益-特別控除額)×1/2×税率

 税率は、総合課税となる他の所得(給与所得、事業所得、雑所得、不動産所得など)と合算した所得額に対応した税率を乗じます。

 例えば100万円で10年前に買った金地金が200万円になっている場合は、
(売却額200万円-購入額100万円-特別控除50万円)×1/2=25万円が課税対象です。この25万円を、他の総合所得と合算して当てはまる税率を乗じたものが実際の税額です。

 もし上記の例で、買ったのが10年前ではなく3年前だとすると、
(売却額200万円-購入額100万円-特別控除50万円)=50万円が課税対象です。

 所有期間が5年超の場合は、課税される所得の額が半分になるため、長期間保有している場合は税制面で優遇されていることが分かります。

 また、50万円の特別控除があるので、年間の売却益が50万円以内なら税金はかからないことになります。

 次回以降、金の売却・こんなときどうする? といった具体的な事例や、税金をできるだけ抑えるためのちょっとしたテクニックなどについてお話ししていきたいと思います。