ドル/円の円安勢いは一服

 3月28日に125円台を付けたドル/円は、一日に3円も動いた円安のスピードが速すぎた警戒感やプライス達成感、ポジション調整や利食いの売りなどによって、ドル/円はその日のうちに123円台前半まで急落しました。

 また、125円にはかなりのノックアウトオプションがあった模様で、それを狙った円売り仕掛けも相当出たとの話を聞いています。ノックアウトオプションとは、125円が期限までに付かない限り(ノックアウトされない限り)、かなり下の円高水準で期限にドルを買うことができる権利(オプション)のことです。

 ノックアウトされるとその権利を失うことになります。ノックアウトによって買う権利を失った実需筋は、今後、下値を支える要因になりそうです。

 その後、岸田文雄首相と黒田東彦日本銀行総裁との会談が報じられた30日には121.30円近辺まで売られましたが、121円台は買い意欲が強かったことから、121円が当面の下値メドとなりそうです。

 ドル/円は現在、122円台、123円台で動いており、3月終盤のような円安の勢いは一服したようです。125円で当面の高値をみたようですが、次回5月3~4日のFOMC(米連邦公開市場委員会)にかけて0.5%の利上げや量的緩和縮小への思惑が交錯し、再び125円を目指す可能性は残っています。

 ただ、FRB(米連邦準備制度理事会)の0.5%の利上げや、日銀の指値オペによって日米金融政策の違いはかなり織り込まれたことから、125円をブレイクして130円に向かうためには、FRBが5月、6月、7月と0.5%の連続利上げをして夏場には2%までもっていくなどの一段の円安推進力が必要かもしれません。

 一方で、4月はウクライナ侵攻や対露制裁による影響が数字として発表されてくることにも注目です。ウクライナ侵攻による欧州や世界経済への影響、穀物や資源高への影響度合いの大きさによっては欧米の金融政策にも影響が出ることも予想されます。

OECD、UNCTADの経済見通し

 国際機関やエコノミストなどは、その影響度合いを発表し始めています。

 3月17日、OECD(経済協力開発機構)は、2月24日のロシアのウクライナ侵攻開始から1年間の影響を分析しています。その分析によると、ウクライナ侵攻が世界の経済成長率を1%超押し下げ、原油や小麦など商品価格の高騰などで、世界の物価上昇率は2.5%近く上がるとの見方を示しています。

 OECDは2021年12月時点で、2022年の世界のGDP成長率を4.5%、2023年は3.2%と予測しています。そしてGDP下押し効果は、ロシアにエネルギーを頼るユーロ圏で▲1.4%と大きく、米国は▲0.9%となっています。

 ロシアとウクライナが世界全体のGDPに占める比率は合計2%と小さいですが、小麦の輸出で世界の3割、トウモロコシは2割、石油は1割強を占めています。小麦の輸出停止は多くの新興国で深刻な食糧不足をもたらす可能性があるため、新興国経済への影響が大きくなることが予想されます。

 ちなみに日本のエネルギー輸入に占めるロシアの割合(2021年)は、液化天然ガス8.7%、原油3.7%となっています。

 また、UNCTAD(国連貿易開発会議)はウクライナ侵攻の1カ月後である3月24日、貿易開発報告書の更新版を発表しました。報告書によると、2022年の世界の経済成長率は2.6%と予測しています。

 ウクライナ侵攻による食料とエネルギー価格の上昇、制裁に伴う世界貿易の縮小、先進国の金融引き締め政策の影響によって成長率見通しを大幅に下方修正し、前回2021年9月見通し(3.6%)から▲1%の下押しとなっています。UNCTADの方がOECDよりも厳しい見方をしているようです。

 国別でみると、ロシアの成長率見通しは▲9.6%下押しの▲7.3%、欧州は▲2.1%下押しの0.9%、米国は▲0.6%下押しの2.4%の成長率となっています。日本は▲0.1%下押しの2.0%と影響は軽微となっています。

 みずほリサーチ&テクノロジーズの分析では、エネルギー禁輸などの追加制裁が実行された場合の厳しいシナリオも予測しています。それによると、欧州は▲8.9%と大幅に下押しされ、▲4.7%のマイナス成長、米国は▲2.5%下押しの1.0%の低成長となっています。

 日本は▲1.6%下押しの2.1%とやや高めの成長予測となっています。欧州は最も深刻な影響を受け、米国も1%の低成長だと、利上げペースは遅くせざるを得なくなるかもしれません。

ゼロコロナ政策の失敗の影響

 ウクライナ情勢は、ロシアの対ドイツ戦勝記念日である5月9日がひとつのめどとの見方が出てきていますが、停戦協議は長引きそうです。その間、ウクライナ侵攻や対露制裁によって影響された経済指標が発表されますが、先行きの不透明感は強まるばかりです。

 また、世界経済を下押しする材料として中国の新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されます。中国はゼロコロナ政策を堅持し、主要都市が次々とロックダウンされており、中国の経済活動が制限されてきています。

 ユーラシアグループが今年の「世界10大リスク」の報告書で第1位に挙げたのは、中国の「ゼロコロナ政策の失敗」です。イアン・ブレマー氏はゼロコロナ政策の失敗によって、「中国は封じ込めに失敗してより大きな感染を引き起こし、深刻な都市封鎖につながるだろう」と予測していましたが、現実のものとなりつつあります。

 そして同氏は中国国内の消費の落ち込みやサプライチェーンの混乱による影響は世界に波及し、経済不安やインフレの加速、格差拡大などに対する不満が各地で政情不安を引き起こす恐れがあると警告しています。

「世界10大リスク」の第5位は「ロシア」を挙げていました。ウクライナ侵攻の恐れがあるとしたこの予測も現実のものとなりました。

 今年の1-3月期はFRBのタカ派転換という狂騒曲によってマーケットは踊らされましたが、4-6月期はウクライナ紛争の影響と中国のゼロコロナ政策の失敗によって、世界経済に悲愴曲の序曲が流れ始めるかもしれません。

 これから発表される経済指標によって、どの程度欧米の金融政策が影響されるのか相場が読みづらい状況が続きそうです。