現在の為替市場はもう何年も連綿と続く金利差(利上げ期待)と2月からマーケットテーマに急浮上した中東・北アフリカ情勢(危機回避)の複合相場となっている。

具体的に言うと、中東危機から安全通貨といわれる円とスイスフランが選好され、金利差(利上げ期待)相場では、早期利上げ観測が出てきたユーロとポンドが買われる展開となっている。また、オーストラリアとカナダは5月に追加利上げ観測が囁かれており、これらの通貨もしっかりの展開となっている。一方、米国は2012年半ばまで利上げなしとの観測が強く、ドルの動向は政策金利よりも長期金利の動きに左右されやすい。

トリシェECB総裁は昨日のECB理事会後の会見で、翌月利上げのシグナルとされる「強い警戒strong vigilance」という利上げの暗号を述べて、4月利上げの可能性を示唆した。これは市場の意表を突くものであった。市場の一部ではECBは夏場、BOEは5月に利上げするという観測が出ていたものの、BOEは年央、ECBは年末というのが市場の多数意見であった。このサプライズで昨日のユーロ相場は急騰した。

バーナンキFRB議長のスタンスとトリシェECB総裁のスタンスは180度方向が違っている。FRBは「物価の安定」と「完全雇用」という2つの責務を負っているのに対し、ECBの仕事は「物価の安定」だけである。ECBは中央銀行の独立ということを強く意識し、利上げに関してはCPIの上昇というロジックで動く。一方、FRBはバーナンキ議長のデフレ阻止と資産効果狙いがはっきりしているので、多少のことでは利上げに動かない。

見ているインフレ指標も、FRBは食料・エネルギー価格を除いたインフレ率であるのに対して、ECBは食料・エネルギー価格を含んだインフレ率である。トリシェ総裁は0.25%を超える大幅利上げや、利上げサイクルに入る可能性については否定しているが、原油価格が高騰すれば平気で利上げをするであろうことは頭に入れておきたい。

<金利差相場> 利上げ期待からユーロとポンドがしっかり

ユーロ/ドル(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

ポンド/ドル(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

<危機回避相場> 逃避通貨である円とスイスフランが買われている

ドル/スイス(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

ドル/円(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

中東情勢のほうは、市場が想定している「中東ドミノ倒しシナリオ」((1)チュニジア→(2)エジプト→(3)リビア→(4)バーレーン→(5)サウジアラビア)のフェイズ(3)まできている。中東民主化運動がサウジアラビアに飛び火すると、原油市場は暴騰必至であり、サウジアラビアの少数派であるシーア派の動きが今後のマーケットの運命を握っている。既にサウジ東部でシーア派のデモ行進など反政府行動が起こっているが、3月11日(怒りの日)に反政府集会の開催が呼びかけられており、引き続き中東関連のニュースと原油価格の動向には注意が必要だ。

中東問題は非常に不透明感が強く長期化の様相を呈しているが、「中東問題とは何か」と言えば、それはつまるところ原油価格である。

現在、北海原油(ブレント)先物相場が原油高を先導しており、市場参加者はブレント価格の動きを注視している。WTIよりブレントが高いというのもおかしな話であるが、ボルカールール以降、ファンド勢は規制の厳しい米国から、規制のゆるい英国・スイスに拠点を移しており、アングラマネーの拠点であるロンドン市場が相場の仕掛けの拠点となっているようだ。

北海原油(ブレント)先物相場(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド0.6σ(緑)


(出所:石原順)

原油価格と世界のCPIは連動しており、原油の上昇はインフレ→金利高→株安→個人消費低迷といった悪循環をもたらす可能性がある。原油の動向が今年の株式市場の動きを決するといっても過言ではないだろう。

相場も早3月入りである。為替のマーケットでは1月、2月とトレンドが出ないつまらない相場が続いてきたが、「国際資金フローとドル相場の基本パターン」からみればセオリー通りの動きとも言えるだろう。

国際資金フローとドル相場の基本パターン

循環要因からは、3月半ば以降ドル高へ


(出所:石原順)

歴史的なドルインデックスの動きをみても、10月~3月にドルが大幅高することは少ない。米国が「ドル高政策」をとっていた第二期クリントン政権(1995-2000)時代を除けば、10月~3月のドル相場はドル安期間と言えるだろう(現在は世界各国が通貨安競争中であり、米国は「ドル高政策」をとっていない)。

ドルインデックス(月足) 10月~3月 赤枠=ドル安・黄枠=ドル高

第二期クリントン政権(1995-2000)米国のドル高政策期を除くと…


(出所:石原順)

一方、ドルインデックスからドルの年間高値を観測すると、2000年以前は6月~9月に集中していた。2002年以降はこのパターンが崩れたが、筆者は今でも重視している。

ドルインデックス(月足)

2000年以前のドルの高値は6月~9月に集中


(出所:石原順)

ドルインデックス(月足) 6月を境に相場の転換が多い


(出所:石原順)

米10年国債先物(月足) 過去10年、6月が相場の転換時期となることが多かった


(出所:石原順)

3月2日のセミナー「為替相場の転換ポイントがやってくる?!」で述べたように、過去のデータから言えることは、為替相場で注目すべきは3月・6月の相場反転である。3月の円相場は本邦企業の決算月という要因もあって、相場の変動率が上昇しやすい。過去のドル/円相場を見ると、円安・円高どちらに触れても3月の相場大きく動く傾向がある。

クロス/円相場は円高に振れやすいので、注意が必要である。

ドル/円(月足) 3月相場の動き

参照:ブログ『石原順の日々の泡』


(出所:石原順)

過去10年のドル/円・豪ドル/円相場 <星取り表>


(出所:石原順)

さて、本日の2月米雇用統計に対する上振れ期待が高まっている。ISM・ADP・新規失業保険申請件数という3つの雇用指標が軒並み強かったためだ。市場の予想は、非農業部門雇用者数が前月比18.5万人増・失業率が9.1%となっているが、直前になって非農業部門雇用者数が前月比20~30万人贈との予測も出ている。数字次第だが、市場では「+20万人超えはドル買い」との意見が多い。

米雇用統計 非農業部門雇用者数と失業率の推移


(出所:石原順)

雇用統計への期待から昨日の米株は大幅高となったが、要するに「押し目は買われる」というバブル相場が続いているのである。

本来、運用の基本となるのは債券運用である。金利が高ければ債券で運用すればよいのである。ところが、現在は運用する対象がない。「長期金利が低い+インフレ懸念で長期の債券は買えない」「短期金利はゼロ」という状況だ。QE2というカネ余り相場のなかで、依然として投機マネーは先進国株と商品(コモディティ)に流入している。

NYダウ(左)とNY原油先物(右)の日足


(出所:石原順)

ゴールド先物(左)とNYシルバー先物(右)の日足


(出所:石原順)

コーン先物(左)と小麦先物(右)の日足


(出所:石原順)