2月9日、バーナンキFRB議長の議会証言が行われた。議長は「米国の景気回復は力強さを増している兆しが出ているものの、失業率は依然として高過ぎる」との認識を示した。QE3の有無は今年の相場を決する要因であるが、QE2の延長や早期終了の可能性は示唆していない。

QE2の期限である6月以降にQE3へと引き継ぎたいと考えているようだが、FRB内部でQE3に対する反対の意見もあり、すんなりと実現するかどうかはわからない。しかし、このような「反対」の動きも株価が下落すれば小さくなっていく。

バーナンキFRB議長が<資産効果>によって景気を回復させようとしていることは明白である。そのためにマネーマーケットをジャブジャブにし、さらには資産購入を行っている。いずれにせよ、株のコントロールについて表向きは否定しているものの株が下げればQE3は実行されるだろう。

議会証言で米経済の好材料をいくつかあげているが、強調しているのはむしろ悪い材料のほうだ。そして、インフレ軽視のスタンスも変えていない。

米失業率(赤)


(出所:石原順)

先の雇用統計で米失業率は9%に低下したが、バーナンキFRB議長は「景気後退で失われた800万人強の雇用のうち、これまでに回復された雇用は100万人を若干超える程度でしかない。この程度の雇用回復は、新卒者などの労働市場への新たな参入を辛うじて消化できる水準でしかなかった。このため、米国の労働市場に引き続き存在する大きな緩みを大幅に縮小するには不十分だった」と述べている。

「雇用最大化と物価安定」を目標とするFRBが目指す失業率は5~6%(4%は事実上完全雇用)だが、「米経済が強気見通しの4%の成長となったとしても、失業率がより正常な水準である5~6%に低下するには4~5年かかる」との認識を改めて示している。したがって、9%の失業率は「楽観論のいくらかの根拠」としながらも、議長の認識を変える数字ではなく、すくなくとも失業率が8%以下にならないと、現在の金融緩和策を止めるつもりはないようである。

米10年国債金利(日足)


(出所:石原順)

FRBの誤算といわれる米国債金利上昇については「懸念していない。金利は経済成長を見込んで上昇している」と発言している。バーナンキFRB議長は、食品やエネルギー価格が高騰しても米国のインフレは加速せず、金融緩和の継続が可能だと考えているようだ。また、ドル安についても「ドルの準備通貨としてのシェアは安定している」と気にしている様子はない。

中国からの米量的緩和策批判に対しては、「中国はインフレ問題を抱えているが、輸出市場で中国製品の需要に打撃を与える元の上昇ではなく、元相場は現状を維持したまま、利上げにより内需を抑制することで対処しようとしている。これが現在起こっていることで、やや驚きだ。むしろ内需はそのままにして国民の生活水準を上昇させ、(人民元の)為替レート上昇により輸出を縮小するほうが優れた戦略のようにみえる。したがって(中国の為替政策は)中国にもわれわれにも非生産的であり、現在見られる依然として規模の大きい世界的な経常収支の不均衡につながっている」と答えている。インフレを抑えるには、ドルペッグを止めるしかないということだ。

以上の事を一言で言うと、「いろいろ内外からの非難や量的緩和策の副作用はあるが、当面バブル環境を続けて<資産効果>で景気回復を計っていく」ということである。そのためには、「株が下がると困る」のである。だから。すくなくともQE2が続く2011年前半はリスクを取る価値のある時間帯だと言えるだろう。

米国の量的緩和策(QE1・POMO・QE2)とNYダウ(日足)

量的緩和策をやめれば、株はどうなる?


(出所:石原順)

米国は下院の多数派となっている共和党内で、財政赤字の拡大に強く反対するティー・パーティーの台頭しているため、緊縮財政方針を取らざるを得なくなっている。米国の財政難は深刻で、聖域といわれる防衛費まで削る必要に迫られている。このような状況で米景気がどんどんよくなっていくことは考えにくい。だから、なおさらオバマ政権はFRBの量的緩和策頼みとならざるを得ないのである。

「米国が量的緩和策をやめたらどうなる?」と株の運用者に聞くと、ほとんどの人が「米国が再度景気後退に陥れば、世界経済全体に影響する。米国は量的緩和策をやめるべきではない」と答えている。市場関係者の多くはQE2で終わることを望んでいない。

外為市場は株や商品に比べておもしろくない相場展開が続いているが、歴史的に3月までは強力なドル高というのは起こりにくい。ドルが大きく動くのは3月以降である。日足ベースでは、現在、ドルインデックスにトレンドがなく、次のトレンドを待ちたい。

国際資金循環とドルの季節性の基本パターン


(出所:石原順)

ドルインデックス先物(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)・14日ADX(赤)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(紫)


(出所:石原順)

ユーロ/ドル(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)・14日ADX(赤)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(紫)


(出所:石原順)

ユーロ/ドル(1時間足)

上段:26時間標準偏差ボラティリティ(青)・14時間ADX(赤)
下段:21時間ボリンジャーバンド1σ(紫)


(出所:石原順)