米国株式市場は買い支えの動きが続いている

 米国の株式市場では3月17日(木)以降、大手証券が一斉に株やジャンク債を買ったり、引け1時間前から買いを入れるなどの株価の買い支えが入っており、裏で大統領の作業部会であるプランジ・プロテクション・チーム(通称:株価下落防止チーム)が動いているのではないかとうわさされている。

 また連銀はやめるといっていたQE(量的緩和)を3月に入っても続けている。この資産買い入れ資金を使って米金融機関は先物で株価のつり上げをやっているらしい。おそらく、米民主党の中間選挙対策だろう。

 この辺の事情は先々週からラジオなどでお伝えしてきたが、とりあえず、米国の株式市場は戻りを試す動きとなっている。

S&P500(日足)と短期売買シグナル

三尊崩れのパターンが出ていたが大手金融機関の大規模買いが入った
出所:石原順

 その結果、米国株インデックスの派生商品である日経平均株価も同様の相場となっている。

日経平均CFD(日足)

(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 米国では、「市場の予想よりも早くQE5が行われるのではないか?」という観測が出ている。2018年にFRB(米連邦準備制度理事会)はQT(チャートの丸枠)に着手した。この時、FRBはバランスシートを6,750億ドル削減したが、結局、2019年に量的緩和に戻ることを余儀なくされた。QTは、過剰にレバレッジされた現在の金融システムの脆弱(ぜいじゃく)性と、量的緩和政策への依存を明らかにした。

連銀のバランスシート

出所:リアルインベストメントアドバイス

 FRBは株が10%下がれば、テーパリングの必要はない。20%下がれば一転、追加緩和をやるだろう。株が下がっても、中央銀行が流動性を供給すればどうにでもなる。しかし、インフレ(スタグフレーション)が続けば、中央銀行は何もできない。

 インフレが問題になっていても、FRBがそれに対してできることは何もない。しかし、彼らは、市場を落ち着かせるために、かなりのショーを行っている。それは、タイタニック号が沈むときのオーケストラの演奏を少しだけ思い出させる。

ドル/円は6年7カ月ぶり125円台をつける

 日本は過去30年間、ステファニー・ケルトンが指摘しているように疑似MMT(現代貨幣理論)政策を行ってきた。これは海外で「狂気の最高の展示物」とやゆされているが、必然的に現金(日本円)の崩壊に近づいていく。

 先週、『投機筋は黒田日銀の無策の限界(円安けん制レベル)を試しにくる!』というレポートを書いたが、投機筋はとりあえず125円を試しにきた。

ドル/円(日足)

(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 3月18日の黒田総裁の会見以降は円安が進み、3月24日の片岡日銀委員の「より金融緩和姿勢を強める必要がある」、「円安はプラス」、「輸入価格への影響は全体から見ると非常に小さい」という発言で投機筋の円売りが加速した。

 片岡委員の予告通り、日銀は3月28日に指値オペを実施し、長期金利を0.25%に抑える価格操作を行った。これは無制限に国債を買い入れるという追加の量的緩和策である。世界中がインフレを抑えようと利上げに動いている中で、日銀だけがこのような政策を行えば円安になるのは当たり前のとこだ。

 そうしたなか、ドル/円は130円を超えると、150円まで下落するという見方も出てきた。「円は対ドルで約6年ぶりの安値圏にあり、過小評価されているとの見方が既に多い。しかし、さらに値下がりする余地があり、現行水準から2割近く下落して1990年以来の安値に達する可能性がある」(3月25日ブルームバーグ 『1ドル150円まで円下落も、円安乗る動き』)と、ソシエテ・ジェネラルのストラテジスト、アルバート・エドワーズはみているという。

 緩和一辺倒できた黒田日銀は方向転換できないだろう。為替の管轄は日銀でなく財務省だが、米ドルが米国の事情(不景気のドル安転換や株の暴落)で崩れるか、日銀が政策スタンスを変えない限り、単独介入で円安が止まるとは思えない。口先的なけん制が財務省や日銀から出てきて円安進行は一服しているが、2015年6月の円の安値125円85銭が視野に入ってきている。

ドル/円(月足)

出所:石原順

 著名投資家マーク・ファーバーが以下に書いたFRBへの批判は、日銀にもそのまま当てはまるだろう。

「安全だと思われているもの、つまり現金は、もう安全ではない。安全ではないのだ。何が安全かと聞かれても、私には何が安全なのかわからない。無限にお金を印刷するマネープリンターがいる中で、何が安全なのか、私にはもうわからない。彼ら(中央銀行)はやめられないと思う。むしろ、お金の印刷を加速させなければならないと思う。つまり、株は上がっても、実質的には生活水準が上がるわけではないのだ。世界で最も裕福な50人の生活水準は上がるかもしれないが、典型的な米国人の生活水準は上がらない。その生活水準は下がるだろう。インフレは(FRBが宣言するように)「一過性のもの」ではないと思う。スタグフレーションにはならないだろう。もっとひどいことになるだろう。物価が上昇し、ほとんどの人の生活水準が落ち込むことになるだろう」

出所:『「セントラルバンカーたちは犯罪者」 マーク・ファーバーが警告 「COVIDが終わればエリートは戦争を始める」』(ゼロヘッジ)

 吉野家の牛丼の価格は2013年の280円をボトムに、2021年10月29日には426円まで上昇してきた。現金(日本円)の崩壊政策によって円安が進めば、吉野家の牛丼が1,000円になる日が来るのかもしれない。

近い将来、「通貨インフレ」という詐欺的増税が到来するだろう

 資産運用の究極の目的はインフレヘッジである。一方、デフレというのは現金のバブルであり、極端なことを言えば、資産運用は必要ない。

 レイ・ダリオが指摘しているように、現在、インフレが猛威を振るっており、インフレが財産を蝕んでいる。それは当然のことだ。現時点では、1)政府が大量のお金を印刷し、2)人々が大量のお金を手に入れ、3)それが大量の買いを生み、さらに大量のインフレを引き起こしている。一部の人々は、自分の購買力がどのように損なわれているかを見ずに、自分の資産が値上がりしているので、自分がより豊かになっていると勘違いしている。最も被害を受けているのは、現金でお金を持っている人たちだ。

 グリーンスパン以降の金融政策は「後始末戦略」であり、資産価格バブルには事前に働きかけず、資産価格バブルの崩壊後の経済に対する逆風を思い切り緩和的な金融政策で極力相殺する、という考え方である。FRBがグリーンスパン時代から実践してきたのは、正当な評価ができない政策だった。政府が経済を支配するという、資本主義とは正反対の形態だったからである。

 FRBは市場に介入し金融市場の信用の流れを維持する政策(モラルハザード)を、それが崩壊するまで続けるだろう。FRBは何があっても金利をインフレ率よりも高くしないと思われるが、焦点はそれでインフレがどうなるかである。FRBもECB(欧州中央銀行)も大幅な利上げはできないのではないか? 大幅に利上げすれば、政府はみんな破綻してしまうからだ。その結果、インフレは加速するだろう。

 したがって、MMTや所得補償といった社会主義的概念が、 論理的に破綻しているにもかかわらず、真剣に扱われているのは、驚くほどのことではない。

 政府支配は資本主義が忌み嫌うものである。ところが、私たちの経済体制は政府によって広範囲にわたり支配されている。FRBは通貨の価値を自由市場の水準よりもはるかに低く設定した。そして直接的に(量的緩和やゼロ金利政策)・間接的に(著しくずさんな経済統計の発表や時間軸政策の導入など)大規模な介入を実施している。架空の価格体系を維持するためだ。

 元米財務長官のローレンス・サマーズは、「第二次世界大戦の水準に近い規模でマクロ経済に刺激を与えている。こうした政策が一生に一度もみられないようなインフレ圧力を引き起こす可能性がある。心配されるのは、景気後退を引き起こさずにインフレの発生を封じ込めるのは、いまだかつてない至難の業となる恐れがあることだ」と述べた。

 投資家が直面している一番の問題はインフレだと思う。インフレが一時的なものではないことは明らかだ。それは金融市場にとっておそらく最大の脅威であり、一般社会に対してそうだろう。

 環境問題という全体主義(グリーンフレーション)が高まるなかで、世界的に供給が回復していない背景を受けて、コモディティ価格はじわじわと上昇を続けている。ここ数年の原油相場は最もトレンドフォロー(順張り取引)に向いている商品と言えるだろう。

NY原油CFD(日足)

(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 昨年の3月、「世界は次のコモディティのスーパーサイクルに突入した」という予測をJPモルガンが発表した。コモディティにおける長期のダウンサイクルは終わり、新たなコモディティの上昇、特に原油の上昇サイクルが始まったと指摘している。

原油のスーパーサイクルとそのドライバー

出所:JPモルガンの資料より石原順作成

 過去100年間で、一般的に4回のコモディティスーパーサイクルがあったと言われている。前回の1つは1996年に始まった。そのスーパーサイクルは2008年(拡大の12年後)にピークを迎え、2020年(12年の収縮後)に底を打ち、新しいスーパーサイクルの上昇局面に入ったというものだ。

 S&P500と原油価格を比較すると、原油価格は依然として割安な水準にあると言える。S&P500/原油指数がパンデミック前の2018年の水準まで戻るとなると、今後、S&P500が調整するか、あるいは原油価格がさらに上昇するかのどちらかとなる。

S&P500/原油指数

出所:DataTreck

 ウクライナ情勢の緊迫化によってコモディティ価格、とりわけエネルギー価格の上昇が加速している。2021年以降、目覚ましい反発を見せていたエネルギー価格はJPモルガンが指摘したようにスーパーサイクルに入りつつあるのかもしれない。

 FRBが市場に介入し金融市場の信用の流れを維持する政策(モラルハザード)に打って出たとき、われわれの経済に何が起こったのか、そして今日の市場が典型的なバブルとどう違うのだろうか? 現在の相場は「バブル」というよりも「国家管理相場」である。

 限界があるとすれば、中央銀行がコントロールを失ったときには壊滅的な打撃を受け、より大きな「平均への回帰」が歴史的な崩壊をもたらすことになるだろう。

 2008年の暴落は事実上、ミニ暴落であった。修正は行われなかった。その代わり、2008年の暴落は膨大な負債によって覆い隠され、避けられない大暴落が起こったとき、その深刻さは歴史上のどの暴落をもはるかに超えるものになることが確実となったのである。

 目先は円安が進行しているが、ウクライナ紛争を契機にドル石油本位制も崩れてきた。歴史大局観からみると、ドルの終わりの始まりなのかもしれない。

 近い将来、通貨インフレという詐欺的増税が到来するだろう。歴史的経験が何かを教示してくれるとすれば、それは私有財産が文明と密接に絡み合っていることだ。われわれは社会主義化する世の中の新しい現実に備えて、資産防衛の準備をするしかない。

3月30日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」

 3月30日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、篠田尚子さん(楽天証券経済研究所ファンドアナリスト)をゲストにお招きして、「インフレヘッジのためのポートフォリオ、デフェンシブなポートフォリオをETFで作る方法」・「ウォーレンバフェットのポートフォリオは強い」というテーマで話をしてみた。不確実性の時代を乗り切るには「分散」投資が必要だ。盤石なポートフォリオを作る時の参考に! ぜひ、ご覧ください。

出所:YouTube
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 ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。

3月30日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

出所:YouTube