米国の実体経済は穏やかな回復基調がみられるものの、雇用問題や不動産市況をみていると脆弱さがぬぐえない。だが、そんなことはお構いなしに昨年9月以降の米国株は上昇を続けている。昨年9月にブログに書いたが、昨年9月以降の米株価上昇の要因は、POMOと呼ばれる恒久的な公開市場操作(Permanent Open Market Operations)にある。POMOは昨年8月の半ばから盛んに行われているが、要はNY連銀がドルを刷って投資銀行の持っている米国債や不動産担保債券をそのドルで買い、投資銀行はその金で米国株を買うという連携プレイである。こういうマッチポンプをネズミ講経済と批判する声も多いが、バーナンキや連銀の作戦はいまのところ成功しているといえよう。

NYダウ先物(日足)


(出所:石原順)

量的緩和第2弾(QE2)に対する内外からの批判は多い。しかし、現在の米国は時価会計を凍結し、2008年9月のリーマンショックで崩壊したバランスシートを修復している最中で、過剰流動性を引き上げると日本の失われた20年=Japanizationと同じバランスシート不況が到来してしまう。本日は日本時間23時30分からバーナンキFRB議長の議会証言があるが、昨年12月5日のTVインタービューで「利上げは15分でできる」と語ったバーナンキFRB議長は、(本音の部分では)出口戦略が遅れることやインフレなどまったく気にしていないと思われる。

リーマン危機後に「恐慌」を起こさないためには、とにかくジャブジャブの過剰流動性を作り出し、時間稼ぎをして損を埋めていくしかない。そのためには最低3~4年の時間が必要であろう。もちろん、その過程で新たなバブルが発生し、それがまた崩壊していく。資本主義はバブルの繰り返しだ。昨日、オバマ大統領は大統領補佐官にJPモルガンチェースのウィリアム・デイリー(元商務長官)を任命した。ボルカーも辞めるが、中間選挙で多数派を共和党にとられて窮地にあるオバマ大統領は金融界に譲歩する作戦に変更したようだ。その為、ますますバブルしやすい状況となっている。

現在の米国はドルをジャブジャブに刷りまくって意図的にインフレを起こす政策をとっているので、QE2がらみの余剰資金が株高と商品(コモディティ)高を促している。このバブル(過剰流動性)相場に参戦するのはよいが、その崩壊までつきあっていると痛い目にあわされる。今年の相場は荒れそうなので、とにかくストップロス注文を必ず入れておくことだ。

大豆先物(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)・14日ADX(赤)
下段:21日ボリンジャーバンド0.6σ(緑)


(出所:石原順)

外為市場のほうは年末・年始の相場が「いってこい」相場となり、ここから仕切り直しに入る。投機筋の動向を聞いていると、ユーロ圏の国債崩しに熱をあげているようなので、近いうちにまたユーロは売られるのかもしれない。昨日、欧州連合(EU)の欧州委員会は「域内銀行の経営が悪化した場合に債券保有者に損失を負担させる新制度を導入する方針」を明らかにしている。これが債券保有者から嫌気されているが、マーケットには4月に到来するポルトガルやスペインの国債大量償還の前に危機相場を仕掛けようとする手口が散見されるので注意したい。

ユーロ/ドル(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)・14日ADX(赤)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

米国株が上昇傾向にあるうちは、上下動を繰り返しながらも金利差のある豪ドル/円などのキャリートレードはワークするだろう。POMOの発動後、20日ATRは下げ基調が続いており、下値は移動平均リボンがサポートしている。

豪ドル/円(日足)

上段:20日ATR
下段:移動平均リボン(1~3カ月の市場参加者のコスト)


(出所:石原順)

ドル/円相場は80円と84円のレンジにある限り、どちらを向いているのかよくわからない。80円以下で仕組み債がらみの円高、84円50銭以上でレンジブレイク相場だが、輸出予約などで上値は重いと思われる。

ドル/円(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)・14日ADX(赤)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

さて、本日は米雇用統計の発表がある。季節調整(原数値が低め・季節調整値が高め) が絡んでADP雇用統計が上振れしたことで、雇用統計への期待が高まっている。米非農業部門雇用者数が予想の前月比+15.0万人に対して同+20.0万人以上の雇用増加であればポジティブに反応すると言われている。一部では+40~50万人との声もあるようだ。雇用統計とADP雇用統計の相関関係は最近あまりないのでどうかと思うが、動くことは間違いないので短期筋の投資家の期待感は強いようだ(ちなみに失業率のほうは半年以上職のない人が失業者数の4割に達しており、広義の失業率は30%を超えると言われている。求人は増えつつあるが、決して実体は良くない)。