「危機VS過剰流動性」「ドルとユーロの悪さ比べ(財政危機)」という視界不良のなかで2011年を迎えた。昨年末から2011年の相場予測を聞かれることが多いが、筆者は長期予測というのは当たらないと思っている。昨年も今頃は「米国の出口戦略」が盛んにいわれたが、結局出口などなく、現在量的緩和第2弾(QE2)の只中にある。当時、筆者は「市場の催促に先駆けて(失敗の許されない)中央銀行が出口戦略などとるわけがない」と言っていたが、エコノミストや評論家からは相手にされなかった。

今年も米景気の回復で量的緩和第3弾(QE3)は行われないと言われている。しかし、相手はヘリコプター“ベン”の異名をもつバーナンキFRB議長である。株が大幅に下がればまずQE3は実施されるだろう。株が堅調であっても「雇用(高い失業率)」を盾にQE3に踏み切る可能性は大きいのではないか? 出口戦略はいつも遅れるからだ。

QE3の有無によって今年の為替相場は180度違う展開となる。2011年6月でQE2は終わるが、QE3があればドル安、なければドル高となろう。その意味で今年の6月までのFOMC(1月25~26日・3月15日・4月26~27日)は非常に重要な意味合いを持つ。焦点は失業率で、失業率が高留まりしている限り、内外からの批判を無視してQE3に踏み切る可能性が高い。すくなくとも筆者の周辺のファンドはそう見ている。マーケットの雰囲気はコロコロ変わる。年央までにQE3待望論が台頭することになるのではないか? インフレターゲット政策を掲げているダドリーNY連銀総裁の発言を聞いていると、とても量的緩和が終わるとは思えないし、バーナンキFRB議長、イエレンFRB副議長ともインフレ軽視の姿勢は変わらないだろう。

一方、ドルの対立軸となるユーロは、4月に到来するポルトガルやスペインの国債大量償還と高い借り換え金利を不安視する声が多いが、ユーロの財政問題や存続の鍵はドイツが握っているので、ユーロの問題は「ドイツの地方選挙」でメルケルが勝てるか否かにかかっている。

また、世界経済は先進国と新興国で二極化しているが、20カ国・地域首脳会議(G20)や新興国の金融引き締めが相場の攪乱要因となるのではないか。危機と未曾有のカネ余りの狭間で、今年の相場は楽観論やレンジを予想する声が多いが、楽観こそが「ありえないなんてありえない」というブラックスワンを生み出す要因であることを肝に銘じておきたい。

さて、下のチャートは1980年以降のドル/マルクやユーロ/ドルのデータをもとに、筆者がある方法で機械的に抽出したドルの2011年の年間相場予測である。自分で載せておいて言うのもなんだが、こういう予測はまったく当てにならない。当たる年は当たるし、全く当たらない年もある。またドル高とドル安が180度入れ替わることもあるので(今年はQE3の有無によってそれが起こりうる)、注意が必要である。ドルやユーロの相場パターンや季節性についての詳細は、1月16日の新春講演会で取り上げたい。

ドル相場の季節性 2011年もこのパターンとなるか?


(出所:石原順)

筆者が毎年注目しているのは6~8月の相場だ。以下はドルインデックス先物の月足チャートである。赤い印の付いているのが6月の相場であるが、年央で相場が転換、あるいは加速することが多い。また、ドル/円相場に関しては、毎年、年が明けると相場が転換しやすい。筆者はこのような「パターン分析」のみによってポジションを持つことはないが、「ファンダメンタルズ」・「パターン分析」・「テクニカル分析」の3つの方向が一致したときは大きめの勝負をすることになるだろう。

ドルインデックス先物(月足)6月相場(赤)6~8月の相場に注目!


(出所:石原順)

2011年も昨年と同じく危機を過剰流動性で封じ込めようとする対策がとられるだろう。そうであるならドル/円のコアレンジは75~90円、ユーロ/ドルのコアレンジは1.17~1.42である。相場がこのレンジにあるうちは予定調和的であるが、このレンジをはみ出せばブラックスワンだ。

ドル/円(月足)と2011年のコアレンジ


(出所:石原順)

ユーロ/ドル(月足)と2011年のコアレンジ


(出所:石原順)

以上のような大局観や転換ポイントは頭の片隅に置いておくとして、年末・年始の相場は薄商いのなかドル安進行となっている。一番大きな原因は米長期金利の急上昇が止まったことである。

米10年国債金利(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)・14日ADX(赤)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ


(出所:石原順のオリジナルトレードツール)

米金利上昇一服のドルや財政不安のユーロが買いにくいなかで、消去法的にスイスや豪ドルが買われて始まったドル安相場は、スイス・豪ドル→円→ユーロとドル安が波及している。年末のリバランスや短期筋の買い戻しが要因のドル安相場だが、パターン的には1月半ばまで続く可能性がある。

現在、ドルストレート(対ドル)相場の多くは、日足でトレンドを形成中である。相場が21日ボリンジャーバンド1σの外に飛び出し、26日標準偏差ボラティリティと14日ADXが上昇している期間はトレンド相場だ。FX初心者の方は、【書籍プレゼント おカネを生むチカラ「決定版☆FXの公式」】に応募して、付録の「石原順のオリジナルトレードツール」を使って頂きたい。

昨今の不確かな世の中で、相場を予測することは困難を極める。また、相場の方向は当てることが出来ても、売買タイミングはなかなか当たらない。相場は取引通貨の選択とタイミングが全てである。簡単な相場はなかなかないが、それでも儲かる局面はチャートが教えてくれる。あとは、運にまかせてトレンドについていくだけだ。取引通貨の選択、トレンドの状況についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。

ドル/スイス(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)・14日ADX(赤)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ


(出所:石原順のオリジナルトレードツール)

豪ドル/ドル(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)・14日ADX(赤)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ


(出所:石原順のオリジナルトレードツール)

ドル/円(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)・14日ADX(赤)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ


(出所:石原順のオリジナルトレードツール)

ユーロ/ドル(日足)

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)・14日ADX(赤)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ


(出所:石原順のオリジナルトレードツール)