毎週金曜日午後掲載

本レポートに掲載した銘柄:グローバルファウンドリーズ(GFS、NASDAQ)オン・セミコンダクター(ON、NASDAQ)

1.FOMC後の半導体関連株の動き

 2022年3月15、16日にFRB(米連邦準備制度理事会)はFOMC(米連邦公開市場委員会)を開催し、16日に政策金利を0.25%引き上げることを発表しました。また、今回のFOMCでは年内に今回分も合わせて計7回、2023年に3~4回利上げし、2023年末には政策金利が長期的な目安となる2.4%を上回るという道筋も示されました。次の5月会合では、コロナ対応の国債購入などで9兆ドル規模に膨らんだ保有資産を減らすQT(量的引き締め)の開始決定も見込まれます。

 利上げ幅は事前に予告されたことでしたが、これでアメリカは金利上昇局面入りしたと思われます。アメリカ10年国債利回りを見ると、昨年末からの利上げ観測に従って上昇してきました。2022年2月24日のロシアのウクライナ侵攻開始によって、3月の利上げが株式市場にとって優しいものになるのではないかという観測からいったん下落しましたが、3月2日のパウエルFRB議長の議会証言で3月のFOMCで0.25%の政策金利引き上げを行う、これでインフレの高進が止まらない場合はより大きい幅の利上げを行うという発言を元に、再び長期金利は上昇に転じました。

 そして、3月の利上げ後は長期金利上昇に弾みがついた状況になっています。

 一方、原油価格はロシアに対する西側の経済制裁が発表されたあと、一時130ドルまで急上昇しました。その後いったん下落しましたが、最近では再び110ドル以上の水準です。2022年2月の前年比7.9%増というアメリカの消費者物価の動きを見ても、アメリカに対するインフレ圧力は強いと思われます。このため、金利上昇はしばらく続くと思われます。

 この中でSOX指数(フィラデルフィア半導体指数)は3月14日で大底を打ったと思われます。理由は、半導体関連株の多くに割安感が出てきたこと、ウクライナ情勢で停戦に向けた動きが出てきたことなどです。

グラフ1 アメリカの政策金利

単位:%、出所:FRB

グラフ2 アメリカの10年国債利回り

単位:%、日次終値

グラフ3 ニューヨークマーカンタイル原油先物:日足

単位:ドル/バーレル

グラフ4 アメリカの消費者物価指数:前年比

単位:%、出所:U.S. BUREAU OF LABOR STATISTICSより楽天証券作成

グラフ5 フィラデルフィア半導体指数(SOX指数)

単位:ドル、日次終値

2.再び半導体関連株に注目したい

 ただし、最近のウクライナ情勢を見ると、停戦合意にはなかなか至りません。むしろ、戦況は激化しており、首都キーフ周辺のウクライナ軍が善戦しロシア軍を押し返す一方で、ロシアの事実上の無差別攻撃によって民間人の犠牲が増え続けています。

 しかし、SOX指数と主な半導体関連株の動きを見ると、本格的な戻りに入ったと思われます。

 この理由の第一は、上述したように、半導体セクターのファンダメンタルズに大きな変化がないのであれば、昨年11月から最大で半値、多くの半導体関連株が20~30%以上下落したため、PER(株価収益率)、PEG(予想PER÷予想営業増益率)に割安感がでてきたことです。

 しかし、もう一方で重要なのは、金利上昇とはいっても、消費者物価の上昇に対して利上げが追い付いていないため、今もマイナス金利状態が続いていることです。実質金利=名目金利―期待インフレ率(予想物価上昇率)ですが、足元の物価上昇率がしばらく続くか、より大きなものになると予想されるならば、簡便法として、実質金利=名目金利―直近の消費者物価上昇率で算出できます。アメリカ10年国債利回りが本稿執筆時2.3410%、2月のアメリカ消費者物価指数前年比は7.9%なので、実質金利は5%以上のマイナス金利となります。要するに、FRBは株式市場に優しい金融政策を続けているということです。

 ただし、変化の方向としては、金利上昇局面入りしたと思われます。株式市場で金利上昇に打ち勝つためにはPER、PBRの割安感だけでなく、「成長」が必要です。そこで先週同様、改めてハイテクグロース株の代表格である半導体関連株に注目したいと思います。

 半導体ブームが長期化する可能性があります。もしそうであれば、半導体関連の中で有望銘柄を新たに探したいと思います。今回は半導体受託生産業者第4位のグローバルファウンドリーズ(GFS、NASDAQ)、パワー半導体第2位のオン・セミコンダクター(ON、NASDAQ)を取り上げます。

3.注目銘柄-グローバルファウンドリーズ

1.半導体受託生産業者世界第4位

 グローバルファウンドリーズ(GFS、NASDAQ)は世界第4位のファウンドリ(半導体受託生産業者)です。元々はAMD(アドバンスド・マイクロ・デバイシス)の生産部門でしたが、2009年に分離独立しました。その後、2021年10月28日、ナスダックに上場しました。7ナノ半導体の開発を2018年に中止したため、現在は12ナノから以前の半導体を受託生産しています。

 グローバルファウンドリーズの2021年12月期4Q(2021年10-12月期)は、売上高18.47億ドル(前年比73.9%増)、営業利益0.87億ドル(2020年12月期4Qは4.91億ドルの赤字)となり、2021年12月期3Qに続き営業黒字となりました。半導体需要の増加に従って、グローバルファウンドリーズの売上高も四半期ごとに増加しており、四半期ベースでは2021年12月期3Qに営業黒字に転換しました。

 この結果、2021年12月期通期では、売上高65.85億ドル(同35.7%増)、営業損失0.60億ドル(2020年12月期は16.56億ドルの赤字)となりました。営業赤字幅は大幅に縮小しました。

表1 グローバルファウンドリーズの業績

株価(NASDAQ)    76.22米ドル(2022年3月24日)
時価総額    39,787百万ドル(2022年3月24日)
発行済株数    540.0百万株(完全希薄化後)
発行済株数    522.0百万株(完全希薄化前)
単位:百万ドル、ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後発行済み株式数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前発行済み株式数で計算。
注3:会社予想は予想レンジの中心値。

表2 ファウンドリ市場上位10社

単位:百万ドル
出所:TrendForce2022年3月14日付けプレスリリースより楽天証券作成

2.スマート・モバイル・デバイス向けなど各分野向けが好調

 2021年12月期4Qの分野別売上高を見ると、主力のスマート・モバイル・デバイス(主にスマートフォン向け)中心に、売り上げは好調です。

 スマート・モバイル・デバイスはスマートフォンに装着するWiFi用チップやイメージセンサー、電源用チップなどを受託生産しており、これらが好調でした。

 通信設備・データセンター向けは、通信設備向けでは5G向け各種チップ、データセンター向けでは光デバイスが順調に伸びました。前年比では3.5%減となりましたが、2020年12月期4Qの水準が一時的に高かったためであり、基調は順調です。

 家庭用&産業用IoT向けも順調でした。WiFi市場で旧規格のWiFi5から新規格のWiFi6へ切り替わることによってチップ需要が増えました。非接触型機器、ワイヤレス接続(オーディオ向けなど)、エッジコンピューティング、電力管理向けなどのチップも増加しました。

 自動車向けはもともと小さかったですが、過去2年間で急増しました。ADAS、安全関連、インフォテインメント(運転席周辺の情報系)向けが増加しました。2022年にはこれまでの分野に加え、4DレーダーとEVバッテリー管理向けのチップ生産が加わる模様です。

 一方で、PC向けは顧客のAMDが7ナノ半導体へシフトしているため、減少しました。ただし、パソコン用チップセットの中に、10ナノ台の半導体が必要な部分があるため(例えば、各種のコントローラICなど)、この方面に注力する方針です。

 また、ウェハ出荷枚数(300ミリウェハ換算)は2021年12月期3Qから4Qにかけて2.1%増、ウェハ1枚当たり売上高も同じく6.4%増となりました。ウェハ1枚当たり売上高の増加の中には高単価品とともに減価償却費の増加と需給逼迫による値上げ分が含まれていると思われます。

表3 グローバルファウンドリーズの分野別売上高(四半期)

単位:100万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成

表4 グローバルファウンドリーズの分野別売上高(年度)

単位:100万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ6 グローバルファウンドリーズのウェハ出荷枚数(300ミリ換算)

単位:1,000枚、出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ7 グローバルファウンドリーズ:ウェハ当たり売上高

単位:ドル/枚(300mm換算)、出所:会社資料より楽天証券計算

3.2022年12月期1Q会社側ガイダンスは黒字拡大の予想。通期でも業績好調が予想される

 2022年12月期1Qの会社側ガイダンスは、売上高18.80億~19.20億ドル(前年比32.6~35.4%増)、営業利益1.01億~1.45億ドル(2021年12月期1Qは0.96億ドルの営業赤字)となっており、引き続き売り上げ好調により営業利益の増加が続く見通しです。分野別には、PC向けを除く全分野が順調に伸びると予想されますが、特に自動車向けと家庭用&産業用IoT向けの高成長が予想されます。

 設備投資について見ると、2020年12月期5.92億ドル、2021年12月期17.66億ドル、2022年12月期会社計画45億ドルと、会社側は今期に大型設備投資を計画しています。顧客からの発注が多いためです。今期の45億ドルと来期に予想される45億ドルよりも少ない設備投資によって、2023年12月期のウェハ出荷能力は前期比1.5~1.6倍になる見込みです。

 これらを総合的に考慮して、楽天証券では2022年12月期を売上高79億ドル(前年比20.0%増)、営業利益6億ドル(2021年12月期は0.60億ドルの赤字)、2023年12月期を売上高95億ドル(同20.3%増)、営業利益13億ドル(同2.2倍)と予想します。大型設備投資を実施することによって、本格的な成長路線へ向かう可能性があります。

グラフ8 グローバルファウンドリーズの設備投資額

単位:100万ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

4.今後6~12カ月間の目標株価を100ドルとする

 グローバルファウンドリーズの今後6~12カ月間の目標株価を100ドルとします。楽天証券の2023年12月期予想EPS 2.04ドルに、2023年12月期営業増益率116.7%増より、金利上昇局面であることを考慮し想定PERを控えめに50倍前後として当てはめました。

 中長期で投資妙味を感じます。

 グローバルファウンドリーズは、シンガポール、アメリカ(ニューヨークに2件、バーモントに1件)、ドイツに工場を持っています(生産規模はシンガポール、アメリカ、ドイツの順に大きい)。アメリカにファウンドリ工場を持っていることから、地政学的リスクを懸念する半導体ユーザーからの発注が増える可能性があります(既に増えている可能性もあります)。また、バイデン政権が成立させようとしているアメリカ半導体企業への補助金を受ける可能性もあります。このような点は、グローバルファウンドリーズに投資する際の重要な注目点です。

 もう一つの注目点は、需給逼迫の度合いです。7ナノから先の先端半導体の設備投資は、TSMC、サムスン、インテルという資金力の強力な大手半導体メーカーが行っているため、大型設備投資が進行するにつれて、徐々に需給逼迫度合いが緩和されると思われます。

 一方で10ナノ台から以前の汎用半導体/成熟半導体は、メーカーの企業規模が相対的に小さいため、設備投資に限界があります。一方で非常に幅広い半導体需要があります。そのため、最近では一けたナノ台よりも10ナノ台から以前の汎用半導体のほうが、不足感が強くなっている模様です。このことは、グローバルファウンドリーズにとって、今回の半導体ブームが長期化することや取引条件の改善につながる可能性があります。

4.注目銘柄-​オン・セミコンダクター

1.パワー半導体世界第2位

 オン・セミコンダクターはロジック半導体とディスクリート半導体の大手です。電力制御や省エネなどに使うパワー半導体では世界第2位の会社であり、この分野が成長ドライバーになっています(PSG:パワー・ソリューションズ・グループ)。また、アナログ半導体、ミクスド・シグナル半導体、高周波回路などのASG(アドバンスド・ソリューション・グループ)、イメージセンサーを中心に各種センサーなどのISG(インテリジェント・センシング・グループ)も事業化しています。

 オン・セミコンダクターの2021年12月期4Qは売上高18.46億ドル(前年比27.6%増)、営業利益4.80億ドル(同2.9倍)となりました。パワー・ソリューションズ・グループ、アドバンスド・ソリューション・グループ、インテリジェント・センシング・グループの3事業とも好調でしたが、特に、パワー・ソリューションズ・グループが好調でした。脱炭素化、省エネ、EVの普及などが追い風となりました。

 産業別に見ると、自動車、産業、その他の中で、産業向け、自動車向けが好調でした。産業向けはパワー半導体、アナログ半導体、各種センサーなど、自動車向けはEV向け、ADAS向けのパワー半導体、イメージセンサーなどが好調でした。会社側は自動車向け、産業向けを増やす方針です。

表5 オン・セミコンダクターの業績

株価(NASDAQ)    63.58米ドル(2022年3月24日)
時価総額    27,409百万ドル(2022年3月24日)
発行済株数    445.3百万株(完全希薄化後)
発行済株数    431.1百万株(完全希薄化前)
単位:百万ドル、ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後発行済み株式数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前発行済み株式数で計算。
注3:会社予想は予想レンジの中心値。

表6 パワー半導体売上高ランキング

単位:100万ドル
出所:TECH+より楽天証券作成(元出所はOmdia)

表7 オン・セミコンダクターの事業別売上高

単位:100万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成

表8 オン・セミコンダクターの分野別売上高

単位:100万ドル
出所:会社資料より楽天証券作成

2.今期、来期とも業績好調が予想される

 2022年12月期1Qの会社側ガイダンスは、売上高18.50億~19.50億ドル(前年比24.8~31.6%増)、営業利益5.10億~5.79億ドル(同4.0~4.6倍)となっています。自動車向け、産業向けの好調、特に市場シェアが高いパワー半導体の好調によって、四半期ごとに業績拡大が続いています。

 今1Qの会社側ガイダンスと市場環境を考慮して、楽天証券では2022年12月期を売上高81.00億ドル(同20.2%増)、営業利益23.50億ドル(同82.5%増)、2023年12月期を売上高97.00億ドル(同19.8%増)、営業利益30.00億ドル(同27.7%増)と予想します。

 問題はパワー半導体等の製品需要に対して供給が追い付いていないことです。これについては、ファウンドリ(半導体受託生産業者)への委託生産を進めるとともに、300ミリ大型工場の買収によって自社生産体制を強化しました(グローバルファウンドリーズのニューヨークの一部工場を2019年に買収)。また、小規模工場だったベルギー工場とアメリカ・メイン州の工場を売却しました(2022年2月)。生産体制の強化と最適化を進めています。

 また、需要が増加しているシリコンカーバイド(SiC、炭化ケイ素)ベースのパワー半導体については、SiCメーカーであるGT アドバンスト・テクノロジーズを2021年8月に買収しました。

3.今後6~12カ月間の目標株価を85ドルとする

 オン・セミコンダクターの今後6~12カ月間の目標株価を85ドルとします。楽天証券の2023年12月期予想EPS 5.28ドルに、金利上昇と成長性を考慮して想定PER15~20倍を当てはめました。

 中長期で投資妙味を感じます。

本レポートに掲載した銘柄:グローバルファウンドリーズ(GFS、NASDAQ)オン・セミコンダクター(ON、NASDAQ)