8月にFRBが量的緩和を再開し、POMOなどの操作で米国株も上がった。そして11月3日のFOMCでは大規模な追加的緩和策が発表されるとして、投資家はこれまでドルを売ってきた。米プライマリーディーラー(米政府証券公認ディーラー)は量的緩和の規模を3,000億~1兆5,000億ドルの範囲で予想しているというが、これだけ予想のテール(しっぽ)が長いと、投資家はFOMCの結果をみてから動くのが無難だろう。

NY連銀ダドリー総裁は「現在の失業率およびインフレの水準と、これらの指標が望ましい水準に戻るまでにかかると予想される期間の長さは受け入れがたい」「雇用とインフレの双方でほどなく改善が見られるとの自信が高まる方向に経済見通しが変化しない限り、FRBの追加措置は正当化される可能性が高い」と発言し、GSからは「総額2兆から4兆ドルの量的緩和観測」といったレポートも出ている。これはWALL街の論理であって、恐らく量的緩和を行っても、資金は金融村に滞留し、実体経済を押し上げるのは難しいだろう。

GS出身のダドリーNY連銀総裁が、量的緩和やインフレターゲットを声高に叫ぶ理由は「銀行救済」である。サブプライムやエンロン事件の再来と言われるフォークロージャーゲート(住宅差し押さえ)や、米国版ゆとり返済ローン問題を抱える米銀の現状は厳しい。ダドリーNY連銀総裁は米国経済の舞台裏が見えているので、米国の銀行救済(不動産の不良債権処理)は不可欠と考えているのだろう。

昨年の量的緩和策は、100年に一度の不況を食い止めるということでセンセーショナルに発表された。しかし、今度の量的緩和策の拡大は、FRBの信頼失墜や副作用のインフレを指摘する批判が多いので、なるべく目立たないように小出しにして、結果的に時間を延長していくのではないかと思われる。

グリーンスパンからバーナンキFRB議長と続く「バブル崩壊をバブルによって封じ込める」というバブル・リレー方式によってモルヒネを投与されている金融界からは、今後も「もっと金をくれ! もっとやれ!」という際限のない要求が続くことになる。ナシーム・タレブ氏は「民主主義の下で財政規律を順守するのは難しいものだ」と語っているが、資本主義社会はバブル飛ばし(損失の先送り)によって延命を図っていくシステムなので仕方がないだろう。その時間稼ぎが成功したことも多いからだ。

10月27日には“債券の帝王”と呼ばれるPIMCO(世界最大の債券ファンド)のビル・グロース氏が、「米連邦準備制度理事会(FRB)による資産購入再開は30年に及んだ債券強気相場の終わりを告げる公算が大きい」(ブルームバーグ)という発言をしている。そしてPIMCO のWEBでは「兆ドル単位の規模で当局が小切手を切ることは、債券保有者に歓迎される行為ではない。そのような政策はインフレにつながる性質のものであり、真実を言ってしまえば、ある意味でのねずみ講ですらある。債券の価格を押し上げて高い年間リターンという幻想を作り上げるが、最終的には価格がそれ以上は上がることができない行き止まりにたどりついてしまう」と解説している。

米10年国債先物(日足) 下がると金利上昇

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

FRBの政策にインフレの恐怖を感じる投資家の間ではインフレ連動債が人気で、物価連動国債としては米国市場最大の純資産総額を誇るETF「iShares Barclays Treasury Inflation Protected Securities Bond Fund(TIP)」は、8月以降上昇に弾みがついている。

TIP iシェアーズ バークレイズ 米国TIPS ファンド

2007年~2010年


(出所:石原順)

TIP iシェアーズ バークレイズ 米国TIPS ファンド


(出所:楽天証券)

来週は2日=米中間選挙・RBA金利発表、3日=FOMC、4日=BOE・ECB金利発表、5日=日銀会合と、めまぐるしい経済カレンダーの1週間である。現在の相場は、「標準偏差ボラティリティとADXが低下中は、トレンド期とはやや逆方向にバイアスがかかった横這いレンジ内での乱高下相場となる」という理論通りの相場展開となっている。こういう局面で相場を追いかけて売買をすると、往復ビンタをくらうので注意したい。やはりFOMCが終わってから動くのがいいだろう。標準偏差ボラティリティとADXの調整もだいぶ進んできており、11月はまた波乱の相場になるかもしれない。

ドル/円(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

ユーロ/ドル(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

豪ドル/ドル(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

ユーロ/円(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

上記の通貨ペアをみても、現時点でトレンド指標が明確に上がっているものはない。今は次のトレンド待ちの状況だ。これは通貨に限ったことではなく、ゴールド・シルバー・原油・小麦などの商品相場も現在はトレンド相場が終わり調整中である。

シルバー先物(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

ゴールド先物(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド0.6σ(緑)


(出所:石原順)

原油先物(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

小麦先物(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1σ(緑)


(出所:石原順)

現在、筆者の見ているあるアルゴリズム売買のモデルではドル/円相場はshort(売り)の状況が続いている。10月29日現在、ドル/円相場が反発するには81円75銭以上のNY引値が必要となっている。いずれにせよ、ここから2週間の動きが重要となろう。

ドル/円の売買ソフトのシグナル


(出所:石原順)