FRBは予想通りの利上げを決定

 先週15~16日のFOMC(米連邦公開市場委員会)でFRB(米連邦準備制度理事会)は予想通り0.25%の利上げを決定しました。そして今年の金利見通しは前回12月の年3回利上げ見通しから年7回と大幅に増え、2023年も3、4回の利上げ見通しとなっています。

 また、5月に保有資産を縮小するQT(量的引き締め)の開始も示唆しました。これらの決定や金利見通しを受けて、米長期金利は上昇し、ドル/円も119円台に上昇しました。

 さらに、17~18日に開催された日本銀行金融政策決定会合後の記者会見で黒田総裁は、消費者物価の上昇率が4月以降2%程度になる見通しを示した上で、現在の金融政策を修正する必要はないと金融緩和を続ける考えを強調しました。

 また、マーケットが注目していた円安については、「円安は全体として日本経済にプラス」との従来の考えを繰り返し、現在の円安進行を容認しました。

 そして週明け21日では、これまで慎重姿勢だったパウエル議長が講演会で、次回以降のFOMCで0.5%の利上げを排除しない考え方を示したことがダメ打ちとなり、連休明けの東京市場でドル/円は120円を超え、121円台を付けました。

 黒田総裁の円安容認発言とパウエル議長の0.5%利上げ示唆はマーケットにとってサプライズでした。ドル/円は、3月の会合で日米金融政策の方向性の違いが一層浮き彫りになったことに加え、6年ぶりに120円に迫っている足元の円安進行を容認したことから、ドル/円は弾むように上昇し、120円を超えてしまいました。

120円は通過点か、それとも要因織り込み済みか?!

 心理的節目である120円を超えたことからプライス達成感が出るのか、あるいは120円は単なる通過点であり、次の節目である125円を目指して円安がさらに進むのか注目です。物価上昇が収まらない限り、円安は続くとの見方もありますが、短期間で進んだ円安要因は相当織り込んだのではないかとの見方もあります。

 FRBは前回12月から3カ月で予想以上にタカ派姿勢が加速しました。利上げ回数は前回12月時点の3回から今年の全ての会合で利上げを行う7回に、利上げ幅については毎回0.25%の利上げが前提の金利見通しでしたが、FOMC後に理事たちから0.5%利上げの可能性の発言が相次ぎ、極め付きは慎重姿勢だったパウエル議長が0.5%の利上げを示唆したことです。

 そしてQTについては、予想より早めの次回5月開始示唆と一気にタカ派の大ナタを振り下ろしました。

 このような前広の大判振る舞いによるショックによって、ドル/円は短期間で5円の円安になりました。金融引き締めという1年分の要因を一気に織り込んだような動きのため、FRBの今年の利上げ要因はかなり織り込まれたのではないかとの見方があります。

 もし、相場に織り込まれたとすれば、今後、毎回利上げをしても予定通りであり、0.5%の利上げをしたとしても、そのことも予定通りであれば円安にはあまり進まなくなる可能性があります。ここからさらに5円進むとなると、これまでと同じ程度のショックを与える円安要因が必要となります。

 しかし、FRBの金融引き締めで今後注目されるのは、QTの金額とペースだけとなりますが、ショック度合いは今回ほど強いものではなさそうです。それよりも、世界景気が減速していく中で、FRBの見通し通りに利上げを毎回実行していけるのかどうかの方が、注目度合いが高まりそうです。

 もし、7回の利上げではなく、年後半に利上げペースが落ちてくると、タカ派姿勢が後退したとみなされ、逆の動きとなるため注意する必要があります。

7月参院選前の政府の対応に注目!

 しばらくは、FRBのタカ派姿勢によって円安地合いが続くと思われますが、4月になって日本の物価が2%を超えてきた時に、日銀はどのようなスタンスを取るのか注目です。また、その頃には7月の参院選を控えている政府が物価上昇と円安環境に対して神経質になっているかもしれません。政府がどのような動きに出るのかにも注目です。

 日銀が金融政策で動かなくても、政府は円安を止める方法として為替介入という政策手段があります。為替介入は日銀の専管事項ではなく、財務省です。財務大臣の権限において実施され、日銀は財務大臣の代理人として、その指示に基づいて為替介入の実務を遂行します。

 3月18日、松野官房長官は午後の会見にて、為替市場で円安が進んでいることについて、「為替市場の安定は重要であり、急速な変動は望ましくない」と語り、今後も為替市場の動向や日本経済への影響を注視していく考えを示しました。

 また、日銀が17~18日の金融政策決定会合で、大規模な金融緩和政策を維持したことについては、「具体的な金融政策の手段は日銀に委ねられている」とした上で、「日銀には政府との連携のもと、必要な措置を適切に講じていくことを期待している」と述べました。

 これらの発言に対して為替市場はあまり反応しませんでしたが、足元の円安進行に対して政府は注視していることをマーケットに知らしめたけん制の第一声であることは間違いありません。また、日銀、あるいは黒田総裁に対するけん制の意味もあるかもしれません。

 今回は、政府からのけん制発言に対してあまり反応しませんでしたが、政府の言動には今後も注目していく必要があります。