FOMC、日銀金融政策決定会合で利食い売りが強まるか

 ウクライナ情勢は戦況悪化していますが、相場の方は停戦への期待からかやや反発、あるいは下落小休止となっています。先週注目したユーロ/豪ドルの通貨ペアも、原油下落とともに先週月曜日の底値からやや反発し、小休止となっていますが、ユーロ単独の動きやユーロ/ポンドなど他のユーロクロスの動きをみていると、ユーロの下落が終わったという地合いではなさそうです。

 ドル/円は、先週10日に発表された米国の2月CPI(消費者物価指数)を受けて(前年比+7.9%)、これまでの116.35円近辺のダブルトップを上抜けたことから、一気に円安に弾みがつき、118円台に上昇しました。

 この円安の動きには伏線がありました。6日、米国はロシアからの原油輸入禁止検討との報道で原油価格は、一時WTI原油先物で130ドル台まで上昇しました。

 そして8日に発表された日本の1月国際収支統計で経常収支が2カ月連続の赤字となり、しかも1兆円を超え、2014年1月以来過去2番目に大きい水準となりました。エネルギー関連の輸入が膨らんだことが背景ですが、足元でも原油が急騰したことから、赤字がさらに膨らみ、さらなる円安観測が充満していました。

 このようなドル高、円全面安の中で今週のFOMC(米連邦公開市場委員会)(15~16日)、日本銀行金融政策決定会合(17~18日)を迎えることになります。FOMCは利上げ予想、日銀は大規模金融緩和維持の予想のため、日米金融政策の方向の違いから円安が既に進行し、FOMCで0.25%の利上げとなれば、材料出尽くしから利食いの売りなどが強まることも予想され、注意が必要です。

 ただ、マーケットでは40年ぶりの米国CPIを受けて、0.50%利上げの期待も高まってきており、その場合は2016年12月に付けた118.66円をブレイクするかもしれません。

 0.50%の利上げがなくとも、FOMC後の記者会見でパウエル議長がよりタカ派的な発言をすれば、あるいは、FOMCメンバーによる金利見通しで前回よりも利上げペースが速い見通しとなれば、ドル高を後押しする可能性もあります。

 逆に、ウクライナ情勢という先行きの不透明要因が加わったことや、急騰した原油がその後下落していることから、利上げペースに慎重な姿勢を示せば、ドル売りに反応する可能性があることにも留意する必要があります。

1982年のインフレ環境

 米国2月のCPI前年比+7.9%は1982年1月CPIの前年比+8.3%以来、約40年ぶりの高水準を記録しました。現在のインフレが1982年当時のインフレ水準に近づいてきていることから、マーケットでは1982年の金融環境が話題になっています。その時の政策金利であるFF金利は15%、米10年債利回りは14.6%、ドル/円の終値は228円台でした。ドル/円は、その後レーガン政権のドル高政策によって、1982年10月には278円台まで上昇しました。

 当時の金利水準は現在とはかなりかけ離れた水準であるため、ドル/円が200円を超えるような大幅な円安になるとはさすがにマーケットはみていないようですが、インフレ加速、金融引き締め加速、金利上昇、円安進行という環境と重ねる投資家は多いようです。

 このような円安を取り巻く環境の中、17~18日の日銀金融政策決定会合後の記者会見で黒田総裁は円安についてどのような発言をするのか注目です。円安けん制についてマーケットは過敏に反応するかもしれないため注意が必要です。

 18日を前にして円安が一服するような動きとなったり、利食いで押し戻されるような動きがみられたら、それはマーケットが円安けん制発言を相当意識していることかもしれません。

 今週は他にも中央銀行の金融政策委員会があります。17日の英中銀、トルコ中銀、18日のロシア中銀の金融政策発表があります。こういう時期であるため、マーケットはこれら中銀の決定に対しても過敏に反応するかもしれないため注意が必要です。

「ロシア・ショック」への警戒

 現在の円安進行とウクライナ情勢を巡るロシアへの経済制裁は、1998年8月、円キャリートレード真っただ中、ロシアのデフォルト(債務不履行)に端を発したヘッジファンドのLTCM破綻を想起させます。この出来事によってドル/円は147円台から翌年には101円台まで円高となりました。

 現在と当時とは、円売りポジションの大きさや相場を取り巻く環境も異なるため、インパクトの違いはあるものの、ロシアのデフォルトに端を発する「ロシア・ショック」については留意しておく必要があります。ロシアに対する経済制裁の効果はこれから目立った動きとなって表れてきそうです。

 ロシアは、3月16日に支払期限を迎えるロシアのドル建て国債(1億1,700万ドル、約140億円)のデフォルトを強行するとの見方が強まっています。経済制裁によってロシア中銀の資産が凍結され、外貨準備の半分程度(約3,000億ドル)が引き出せないことに抗議し、ロシア財務相は米欧がロシア中銀の外貨準備凍結を解除するまでルーブルで支払うと主張しています。

 ロシア財務相は、14日、外貨建て債務の返済について、経済制裁の影響で返済ができない場合は、ルーブルでの返済になる一時的な措置を承認しました。しかし、発行時にドルで支払うことが条件になっているため、ルーブルによる返済は事実上のデフォルトとみなされる可能性があります。

 16日を乗り切れても31日には4億4,700万ドル(約530億円)のドル建て払い、4月4日には21億2,900万ドル(約2,500億円)のドル建て払いの期限が控えています。3月16日にいきなりデフォルトとはなりません。猶予期間が30日あり、4月15日までに支払わなければデフォルトとなります。

 デフォルトになったとしても国際金融システムへの影響は限定的だとの見方が多いようですが、こういう経済環境の中ではリスクがどこに散らばっているかわからない部分もあるため、「ミニ・ロシアショック」に対する警戒シナリオにも留意しておく必要がありそうです。