ウクライナへのロシア軍侵攻を受けて先行き不透明感、日経平均は下値模索の動きが継続

 直近1カ月(2月10日(木)~3月11日(金))の日経平均株価は9.1%の下落となりました。ウクライナ情勢の混迷を受けて下値模索の展開が続き、リバウンド場面では25日移動平均線が上値を抑える状況となっています。

 2月24日には1月27日に付けた安値2万6,044円を割り込み、3月8日には2020年11月以来となる2万5,000円割れ、9日には2万4,681円にまで下押す形となりました。年初来の株価下落率は一時14.3%の水準にまで達しています。

 2月24日には、警戒されていたロシア軍のウクライナ侵攻が開始されました。報道直後に急落となった後は、短期的なあく抜け感も強まって一時戻りを試す場面もありました。ただ、3月に入ると、西側諸国の対ロシア経済制裁強化に伴う一段のインフレ懸念が相場の重しとなってきました。

 欧米各国がロシアからの原油輸入禁止を検討などと伝わり原油相場が急騰、WTI原油先物は一時1バレル=130ドル台にまで上昇しました。また、ロシアが主要産出国となっている非鉄金属や穀物などの今後の市況先高感なども大きく台頭、世界景気の悪化や企業収益に与える影響が強く意識される状況になってきています。

 この期間のマザーズ指数の下落率は14.5%、日経平均を5pt強アンダーパフォームしており、引き続きグロース株の軟調な動きが目立ちました。

 グロース株の代表格であるレーザーテック(6920)、マザーズ時価総額最上位のメルカリ(4385)、PBR(株価純資産倍率)水準の割高感が際立っているラクス(3923)などがそれぞれ30%前後の下落となりました。

 日産(7201)スズキ(7269)を中心とする自動車関連株、UTグループ(2146)パーソルHD(2181)など人材関連の下げも目立ちました。一方、配当権利取りの動きなども交えて、商船三井(9104)などの大手海運株は一斉高になりました。

 また、原油や非鉄市況の上昇を背景に、INPEX(1605)を中心とした石油関連株、非鉄金属株、総合商社などは総じて買い優勢となっています。ロシアに代わる生産基地の確保を強める動きが思惑視されて、日揮(1963)などのプラント関連にも買いが入りました。

ウクライナ危機の最悪ケースまでは織り込まれておらず、本格反転には時間を要す見通し

 ウクライナ危機の終着点は現時点では全く見えません。仮に、ロシアがウクライナを制圧して新政権を樹立するような状況になったとしても、ウクライナにおいてはその後の紛争の火種が多く残され、世界からは完全に孤立し切った状態に置かれてしまった中、プーチンの次の一手が矢継ぎ早に打ち出される可能性もあります。

 中国との連携強化、欧米との対立激化などに警戒感が強まる恐れもあり、核の使用も含めて、現在の株式相場に最悪のケースまでは織り込まれていないと考えられます。株式市場の本格反転のタイミングは見えにくくなっている状況です。

 また、米国は利上げステージに入っています。ウクライナ情勢悪化を受け、ややタカ派姿勢は緩和されている状況ですが、逆にこれは、想定以上のインフレ高進による中期的なマイナス影響にもつながることになります。

 一段のインフレ懸念が強い現状況下、少なくても、新型コロナの感染拡大時とは違って、金融政策が株価の支援材料につながる可能性は低いといえるでしょう。

 また、ここからは特に製造業において、来年度の業績ガイダンスが警戒されることになりそうです。ウクライナ情勢の先行きに不透明感が強い中、原材料費や物流費上昇による悪影響が読み切れません。かなり慎重な業績見通しになることが市場では織り込まれていきそうです。

 物色の矛先は、引き続きインフレ進行を見据えた資源関連株が中心になりそうです。ただ、これらに関しても、金融市場が一段の波乱に見舞われるような状況となれば、一斉に資金捻出のための利益確定売りに晒される余地もあるでしょう。

 ほかでは、世界的なエネルギー危機が警戒される中で原発の安全性に対する警戒感も強まる状況下、再生エネルギー関連の成長期待などが再燃してくる可能性はあるでしょう。

 政権が経済活動の再開にかじを切り始めていることから国内リオープニング関連なども注目されます。特にGoTo政策は、即効性のある景気対策である側面に注目したいところです。3月末の配当権利取りの動きなども注目されますが、ガイダンス懸念などが残るため、銘柄によっては権利落ち後の調整長期化も意識されます。

 高利回り銘柄物色に関しても、海運を含めた資源関連株などに物色は絞られる可能性があります。なお、あくまで中期的な見方ですが、原材料費上昇や物流費の上昇は製品価格に転嫁できる企業が多いとみられ、この観点を重視するのであれば、ガイダンスが嫌気された銘柄の押し目買いなども妙味となってきます。

連続増益が続いている銘柄は相対的に権利取りに安心感

 今回は多くの銘柄が、原材料費や物流費上昇の悪影響を考慮して、慎重なガイダンスを行う可能性があります。これにより、配当権利落ち後は株価調整が長引く銘柄も多くなりそうです。

 これまで以上に配当権利取りの動きに慎重な姿勢が強まるとみられる中、今回は、比較的権利落ち分を早期に埋めることができそうな高配当利回り銘柄を探っていきたいと思います。

 今回取り上げた銘柄は、配当利回りが3%以上で、かつ、5期以上(今期予想含めて)連続経常増益を続けている銘柄になります。安定した収益成長銘柄は、外部環境の悪化に対応できる耐性が強い銘柄であり、ディフェンシブ的な側面が強いともいえます。現状の相場環境にマッチしていると考えられるでしょう。

 また、最近では配当性向を配当金の基準とする銘柄が増加してきており、収益の安定成長は安定的な増配にもつながっていきます。長期投資の対象と捉える向きも多いと考えられ、権利落ち後の売り圧力も相対的に軽微となる可能性もあります。配当権利取りに対しては安心感が持てる銘柄群であると判断します。

連続経常増益が継続する高配当利回り銘柄

コード 銘柄名 配当利回り 株価 時価総額 株価騰落率 連続経常増益
期間
9104 商船三井 9.40 11,170.0 13,474 30.8 5
8096 兼松エレクトロニクス 3.85 3,770.0 1,080 ▲5.04 12
8424 芙蓉総合リース 3.84 6,770.0 2,051 ▲15.06 8
8425 みずほリース 3.80 2,894.0 1,418 ▲9.28 6
1721 コムシスHD 3.49 2,722.0 3,838 6.3 6
9069 センコーグループHD 3.44 930.0 1,422 0.3 13
9436 沖縄セルラー電話 3.37 4,865.0 1,308 ▲4.79 10
注:配当利回り、株価騰落率の単位は%、時価総額の単位は億円。
株価は2022年3月11日終値、単位は円。
注:株価騰落率は年初来
注:連続経常増益期間は今期予想を含む

銘柄選定の要件

  1. 予想配当利回りが3%以上(3月11日終値)
  2. 3月期本決算企業
  3. 時価総額が1,000億円以上
  4. 5期以上連続での経常増益銘柄(今期予想含む)

商船三井(9104・東証1部)

▼どんな銘柄?

 海運業界大手の一角です。2021年3月末現在、グループ運航船舶規模は721隻で5,300万重量トンとなっています。ドライバルク船(ばら積み船)では世界最大規模の船隊を擁するなどの強みを持つほか、自動車船は国内で初めて就航させ、LNG船でも世界トップクラスのシェアとなっています。

 2017年7月に、日本郵船(9101)川崎汽船(9107)と定期コンテナ船事業を統合しています。また、子会社のダイビルや宇徳は完全子会社化する予定です。国内で初めて、メタノールを燃料とする内航タンカー開発に取り組むと発表しています。

▼業績見通し

 2022年3月期第3四半期累計経常利益は4,877億円で前年同期比6.7倍と急拡大しています。第3四半期決算発表と同時に、通期予想は従来の4,800億円(期初予想は1,000億円)から6,500億円、前期比4.9倍に上方修正しました。今期に入ってから4度目の上方修正となります。

 コンテナ船における想定以上の荷動きと運賃高騰などを背景にした、持分法適用会社ONE社の収益拡大が業績上振れの主因となっています。また、年間配当金計画も期初計画の150円から現在は1,050円にまで引き上げられています。

▼ここがポイント

 現在の配当利回り水準は、全上場企業の中でもトップクラスの水準となっています。コンテナ運賃は足元でも上昇基調を強める状況になっており、2023年3月期も当初想定されていたような大幅減益となる可能性は後退しています。

 2022年3月期の配当性向20%は、2023年3月期には引き上げられる公算が大きいと考えられ、仮に経常減益となるにしても、年間配当金は一段の増配が想定されます。当面は大きな配当利回りの低下は考えづらく、株価の水準訂正余地は依然として大きいと判断できます。

 なお、3月末に1:3の株式分割を実施することも、高株価であるだけに、流動性の一段の向上という意味でポジティブに作用しそうです。

兼松エレクトロニクス(8096・東証1部)

どんな銘柄?

 兼松(8020)を親会社とするITベンダー企業になります。情報システムの設計・構築・販売から、導入後の保守・運用サポートまでの各種サービスをワンストップで提供しています。特定のメーカーに偏らないマルチベンダー対応に特徴があります。

 顧客数は3,000社以上、顧客との直接取引の割合は90%以上を占めています。サービス業や製造業を中心に、流通、金融など幅広い産業分野で展開しています。配当性向は50%を掲げています。

▼業績見通し

 2022年3月期第3四半期累計経常利益は75.8億円で前年同期比19.4%増益となっています。仮想デスクトップ環境の構築やネットワークセキュリティソリューションなどが堅調推移で、システム事業が2ケタの売上成長となっています。

 また、サービス・サポート事業もシステム運用やクラウドサービス関連が伸長して順調に推移しています。通期計画は123億円で前期比11.4%増益の予想、上半期決算時に上方修正されています。年間配当金は前期比10円増配となる145円を計画しています。

▼ここがポイント

 2022年3月期は12期連続での経常増益となり、11期連続で過去最高益更新見通しとなっています。テレワークの浸透、サイバー攻撃への危機意識の高まりに伴うセキュリティニーズの強まりなど、引き続き事業環境が支援になることで、今後も業績安定成長に対する安心感は揺るがないとみられます。

 こうしたなかで配当性向は50%以上としていることで、中長期的なインカムゲインを主目的とした投資家にとっては最適な投資対象であると考えられます。

芙蓉総合リース(8424・東証1部)

どんな銘柄?

 リース業界大手の一角でみずほ系です。12月末の営業資産残高は2兆5,917億円で、うちリース資産残高は1兆7,392億円となっています。物件別リース契約実行高では、情報・事務用機器、輸送用機器、産業工作機械などのセグメントが上位となっています。

 不動産や航空機などが戦略分野で、BPOサービスなどは新領域となります。2022年1月には、小型電動航空機の開発を進める米Bye Aerospace社との資本提携を行っています。

▼業績見通し

 2022年3月期第3四半期累計経常利益は389億円で前年同期比15.1%増益となりました。戦略分野である不動産リースが伸長したほか、ファイナンス事業でもエクイティ投資による収益などが増加しています。前年同期に計上した一過性のコスト剥落なども増益に寄与しました。

 2022年3月期通期では、経常利益は500億円で前期比4.2%増益を計画しています。ここまでの順調な進捗状況から超過達成となる公算です。年間配当金は前期比20円増配となる260円を計画しています。

▼ここがポイント

 みずほFGに近いリース会社は、同社のほか、東京センチュリー(8439)みずほリース(8425)などが存在しています。2021年春には三菱UFJリースと日立キャピタルが合併(三菱HCキャピタル(8593))しており、今後もリース業界には、再編期待などが折に触れて高まる可能性はあるでしょう。

 ほか、ウクライナ情勢への懸念は残りますが、新型コロナウイルス感染者数の減少に伴い、航空機リース事業の先行き期待が回復することも支援となります。次回決算での新中期計画にも期待です。

コムシスHD(1721・東証1部)

どんな銘柄?

 通信工事の最大手企業です。2018年10月に、SYSKEN、NDS、北陸電話工事と経営統合して現体制になっています。売上高の5割強は通信キャリア向けで、うち大半がNTTグループ向けです。ノンキャリア以外においては、社会システム関連の比率が高くなっています。 

 ほかに、ITソリューション事業なども手掛けています。配当と自社株買いを合わせ、総還元性向70%を株主還元の目安としています。

▼業績見通し

 2022年3月期第3四半期累計経常利益は289億円で前年同期比21.1%増益となっています。NTTモバイル工事向けが伸び悩んでいる一方、ソフトバンクや楽天向けなど非NTT工事が好調で、全体をけん引する形になっています。グループ別セグメント利益では、8グループ全てが増益となっている状況です。

 第3四半期決算時には、通期経常利益435億円、前期比1.3%増を据え置いています。受注高は減少傾向にありますが、増益ペースから見た進捗(しんちょく)率は高く、下振れ懸念は乏しいでしょう。年間配当金計画は前期比10円増の95円としています。

▼ここがポイント

 近年では、半期ごとに前年同期比増配を行っているほか、年間80億円程度の自社株買いを継続的に実施しています。3月末期限の自社株買い終了後も、速やかに新たな自社株買い実施発表が期待でき、需給面での下支え材料となってきそうです。

 短期的にはNTTモバイル向けの受注底打ち、回復が株価の上昇要因となりそうです。中長期的には、再生エネルギー関連工事の受注拡大などが好望視できそうです。

沖縄セルラー電話(9436・JASDAQ)

どんな銘柄?

 KDDI(9433)を親会社とする通信会社です。沖縄県では5割と圧倒的なシェアを占めています。「au」「UQ」のブランドで展開するモバイル事業、「auひかりちゅら」、「ひかりゆいまーる」が中心のFTTH事業、2019年11月からサービスを開始したauでんきを中心とするライフデザイン事業を手掛けています。

 東シナ海ルートの「沖縄~九州海底ケーブル」の運用を2020年に開始しています。2021年11月には都市型データセンターを併設した賃貸オフィスビル「沖縄セルラーフォレストビル」が竣工しました。

▼業績見通し

 2022年3月期第3四半期累計経常利益は137億円で前年同期比11.9%増益となりました。つれて、通期予想は従来の143億円から152億円、前期比4.4%増益に上方修正しています。

 県下において新型コロナウイルス感染が拡大する場面もありましたが、auでんきをはじめとする各サービスの契約件数が想定以上に増加する形になるようです。年間配当金は前期比2円増配となる164円を計画しています。

▼ここがポイント

 配当性向40%を配当政策に掲げていることで、安定的な収益成長がそのまま配当水準の上昇につながっていきます。2022年3月期は21期連続での増配となりますが、今後も増配傾向は継続していくものとみられます。

 2021年3月期には上限20億円となる初の自社株買いを実施しており、今後も折に触れてこうした株主還元策が期待できるでしょう。2022年1-3月期に予定している販促強化の効果が、どのような形で新規契約獲得につながっていくかが目先の注目点となりそうです。