金融改革法(ボルカー・ルール)に従えば、「ゴールドマンは1兆円を超す自己投資額を7分の1に、モルガンスタンレーは3分の1に減らす必要がある」(7年間の猶予措置)らしい。「米金融界全体の半分を占めていた10兆ドル規模のレバレッジ金融はすでに崩壊しており、米金融界の規模は半分になる」と発言している人もいる。

JPモルガン・チェースが先月「米株価の上昇は第二四半期で終わったのではないか」という観測を7月に発表して以来、米国株式に対する弱気の見方が増えてきている。しかし、筆者は<株式>や<コモディティ>の市場は、今後、上下どちらに動くかわからないと思っている。カネ余り現象は続いているからだ。金融改革法(こんな複雑な法律はわけがわからないし、読んでいる人も少ない)は骨抜きにされたと言われており、ゴールドマンサックスとSECも和解している。また、バーゼル銀行監督委員会の「銀行の資本・流動性規制案緩和方針」で世界的に銀行株が買い戻し相場になったように、世界経済の都合でバブルが再燃する可能性は残されている。要するに<株式>や<コモディティ>市場の先行きは、「はっきり言ってよくわからない」状況にある。

一方、比較的シナリオが書きやすいのは<通貨>の市場である。「ゴールドマンは今後の円相場について、米マクロ経済情勢の厳しさを背景としたドル安を反映してさらに強含み、今後半年で83円に達すると予想した。また、米連邦準備理事会(FRB)が追加金融緩和に踏み切れば特に、その水準を超えて円高が進むリスクがあり、1990年代半ば以来の水準である過去最高値の79円もそう遠い水準ではないとの見方を示した」(ロイター)らしいが、まあ、誰でも考えるストーリーである。

米セントルイス連銀の総裁の「米経済は日本のようなデフレとゼロ金利の持続というデフレ均衡に陥る可能性がある。それを防ぐためには量的緩和が有効」という発言に代表されるように、米国では追加の金融緩和観測が出てきており、米国の低金利の帰結としての通貨安政策=ドル安路線が明確になっている。この日本型デフレ懸念に対して、バーナンキFRB議長は、“自国通貨の減価でデフレを回避”しようとするだろう。またオバマ政権のスタッフには「ドル安誘導により米国を消費から生産の国に戻す」という考えを持っている人が多い。オバマ大統領の「5年間で輸出を倍増する」という目標は、ドル安がないと達成できない。

不景気で内向きになった米欧などの先進国は、結果として通貨切り下げ競争に突入している。保護主義の象徴である通貨切り下げ競争は世界経済にとって最悪の選択であるが、中国や韓国の<通貨安を使った安上がりの経済成長>を目の当たりにすれば、その誘惑には勝てないのである。そして、不景気には円高がつきもので、日本だけが通貨切り下げ競争の蚊帳の外にいる。

さて、筆者は現在、ユーロ/ドルの買いとドル/円の売りポジションを持っているが、1σの内側に相場が入ったら利食いでも損切りでも相場から撤退する予定である。過去には26日移動平均線と標準偏差ボラティリティだけで売買していた時期もあったが、1σを手仕舞いポイントにするようになってから、損失管理が非常に楽になった。ボリンジャーバンド1σのラインによって、筆者は取り越し苦労から解放されることになったのである。したがって、本日の雇用統計も心配していない。

筆者がポジションを持っているユーロ/ドル(左)とドル/円(右)


(出所:石原順)

トレンドがないのでポジションを持っていない豪ドル/円(左)とユーロ/円(右)


(出所:石原順)