4月に改正「iDeCo受け取りを75歳まで遅らせられる」ことの意味

 iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)が2021年10月に20周年を迎え、アニバーサリーイヤーに入っていますが、これを記念して(ではありませんが)いくつかの改正が立て続けに行われます。

 目玉はやはり「65歳までiDeCo加入(積立)可能」となる5月の改正、「企業型DCとiDeCoの同時加入可能」とする10月の改正でしょう。4月改正予定の「受け取り開始年齢を75歳まで遅らせてもよい」という内容もあるのですが、これらに比べると地味に思えます。

 しかし、長い目で見ると「受け取り75歳」の改正には大きな意義があります。受け取り方法をじっくり考えるのは60歳以降になってからだと思いますが、今のうちから少し「75歳まで受け取りを遅らせる可能性」について考えてみたいと思います。

「受け取り75歳」は人生100年時代の「選択肢」を広げる

 改正前の法律では、iDeCoの資産は「60歳以上70歳に達するまで」のあいだに受け取ることとされていました。年金もしくは一時金で受け取ることができ、年金受け取りの場合は基本として5~20年の有期年金を選択します。

 つまり、もっとも遅い場合で70歳から90歳まで有期年金をもらえることになります(終身年金を希望する場合は、保険商品を購入することで実現可能)。

 2000年の法成立時の議論では、70歳より遅くもらうことは「実態としての年金給付を考えていない」、言い換えれば「税制優遇を悪用した事実上の相続財産づくり」になってしまうと考えられていたようです。

 確かに、60歳以上の雇用が実現していなかった人生80年のイメージが強かった時代においては違和感のない判断だったようですが、20年を経て人生100年時代になりました。時代の変化に対応した選択肢を今回拡充することになったわけです。

 法は「60歳から」の部分を引き上げていませんので、「60歳から70歳まで」が「60歳から75歳まで」と純粋に選択の範囲が広がったことになります。60歳以降であれば、早くもらうもよし、遅くもらうもよし、と一人一人のマネープランに応じた受け取り方法が決定できるわけです。まさに選択肢の拡大そのものです。

75歳まで運用し続けられるメリットを生かす

 75歳まで受け取りを遅らせることができる、ということは「75歳まで非課税で投資を継続できる」、というメリットも生じます。むしろ、このことが今後注目されていくかもしれません。

 DCの口座から資産を引き出せば、そのときに課税されることになり、それ以降は運用収益に課税がされることになります。NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)やつみたてNISAも同様ですが、DCでも同じわけです。

 もし、まだDCの資産を取り崩さなくてもやりくりができるなら、あえて受け取らず非課税運用を継続することができます。

 仮にiDeCoに1,000万円、手持ち資金(退職金の受け取りなど)で1,000万円をもって老後に入った場合、退職金を優先して取り崩し、銀行口座が空になって初めて、iDeCoを受け取ることができれば、非課税投資期間を延ばすことができるわけです。

 ただし注意点として、口座管理手数料の問題があります。iDeCoの口座は拠出をしない立場であっても、事務費用が徴収されます。掛金を拠出しない運用指図者の場合、月66円がかかります(運営管理機関が費用を徴収する場合はそれも加味する。楽天証券は無料)。

 しかし、定額のコスト設定になっているため、まとまった資産がある人にとっての「負担率」は下がります。

 1,000万円のiDeCo資産を積み上げた人がいたとします。これに年792円の事務手数料がかかったとしたら、負担率は年0.00792%です。

 運用益の期待リターン(もちろん非課税なので収益はまるごと自分の資産に転じる)と、この手数料が見合うと考えられれば、運用益非課税のメリットを活用し投資を継続することが考えられます。資産の半分くらいを投資信託に回し、全体で年2%くらいのリターンが確保できれば、運用益非課税のメリットが上回ります。

 これがもし100万円しかない場合は、年792円は年0.0792%の手数料コストに相当します。この場合は、現状の元本確保型商品などの預金では大きな差が出てこないため、75歳まで繰り延べするより、早期の一時金受け取りを考えるほうがいいかもしれません。

75歳まで遅らせず、あえて60歳から取り崩す選択肢はありか

 以前、WPP理論の紹介をしました。あえて手元の財産を取り崩してでも、65歳以降に公的年金を受け取らず、無年金の期間をつくることで繰り下げの年金増額を目指すというものです。

 公的年金が無年金の期間を設定し、1年遅らせるたびに8.4%増の年金を一生涯もらえます。公的年金のほうも75歳まで繰り下げが可能になるので、最大で84%アップまで増額を目指すことができます。

 さすがに84%増までになると住民税や健康保険料の負担増も招来するので無理をして10年取り崩しという必要はありません。しかし3~5年程度の「手持ち資金取り崩し期間」と「年25.2~42%の年金増額を一生涯獲得する」とをてんびんにかけてみるのは悪くない選択肢です。

 もし、こうした繰り下げ年金を検討する場合は、75歳まで遅くもらえるようになったDCの資産を「あえて早く」もらうことになります。

 仮に夫婦で月22万円の年金に月5万円の娯楽費を上乗せして老後生活を送るとすれば、年324万円、5年繰り下げを目指すなら1,620万円の予算を確保できればいいことになります。

 NISAや他の手持ち資金があればそちらを優先したほうがいいでしょうが、65歳までは働き、65歳以降はDCを取り崩すというのはありでしょう。

 国の年金は同時期に75歳まで繰り下げできる制度に変わるわけですが、こちらを優先するためにiDeCoは早くもらう、というわけです。

65歳になった時、受け取り方法に悩むことになりそうだ

 まだ若いみなさんが65歳になった頃には、雇用環境は改善されることと思われます(給料半分でこき使われる60歳というイメージは消えていく)。むしろ70歳もしくは75歳まで働ける時代に変わっていきます。公的年金は65歳を標準としつつ、遅くもらい始めれば増額が可能になり、多くの人がこれを採用するはずです。

 そのとき、「雇用」「手持ち資金の取り崩し」「公的年金受取開始年齢」を組み合わせるパズルに「iDeCoをいつもらうか」が加わることになります。

 どうすればいいか、悩むことになりそうですね。でもそれは老後を自分らしくデザインできる余地が広がるということでもあるわけです。