金価格と株価が連動しやすい個別銘柄

 ある地域で起こった戦争や、外交関係の緊張が株式市場にもたらすリスクは「地政学的リスク」と表現されます。

 緊張関係は当事国同士の話し合い(たいていは仲介国が存在する)でも折り合いがつかず、戦争が現実化した時に、株式市場は急反応を見せることが多く、その大半はリスクオフ(≒株価下落)で、戦争が起こった地域に近いマーケットがより大きく反応します。

 戦争に対する不安から消費マインドが落ち、その後企業業績が悪化することを嫌うためです。1990年の湾岸戦争や2001年の米同時多発テロ、そして今回、2022年の「ロシアによるウクライナ侵攻」などは地政学的リスクの顕著な例と言えます。

 地政学的リスクがおこると「有事の金(ゴールド)」、「有事の米ドル」という具合に、状況がどのように転じても価値が保たれると思われる資産への注目度が高まります。株式市場では「有事の金(ゴールド)」一択ということになります。

 金(ゴールド)は宝飾品や電子部品の材料としての需要があり、その価値が世界のどこでも同一とされることから有事の際に「代替通貨」として注目度が高まると説明されます。

 ただ、紛争地域から避難する人々が必ず資産を金(ゴールド)に替えて持ち出すわけではなく、「有事の金(ゴールド)」については、「究極のケース」を指していると理解することになります。

 紛争当事国の通貨が急落する場合はあるものの、その際は米ドル、ユーロなどハードカレンシー(国際通貨)に替えられるケースがほとんどです。

 地政学的リスク発生における金(ゴールド)価格の上昇は先物市場での投機的な動きの側面が強いと指摘できるでしょう。

 金価格が上昇すると反応を見せる銘柄は東京市場にも複数あります。金価格上昇が長引く場合は一層投機人気を呼ぶ可能性もあると思われます。

金価格に反応しやすい銘柄

コード 銘柄名 株価(円)
5713 住友金属鉱山 6,008
5857 アサヒホールディングス 2,347
7456 松田産業 2,303
1326 SPDRゴールド・シェア 21,515
8747 豊トラスティ証券 861
※株価データは2022年3月8日終値ベース。

住友金属鉱山(5713・東証1部)

 金、銅、ニッケルなど非鉄金属の大手企業です。国内唯一の大規模金山「菱刈鉱山」(鹿児島県)を持つことから話題にされる銘柄です。

・1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

アサヒホールディングス(5857・東証1部)

 スクラップリサイクルと製錬・加工が中心の貴金属事業を展開しています。金の再利用は「都市鉱山」とも表現されます。

・1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

松田産業(7456・東証1部)

 電子部品スクラップから貴金属を回収し、電子材料・地金として再販売しています。これも「都市鉱山」銘柄です。

・1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

SPDRゴールド・シェア(1326・東証)

 金価格に連動する運用成果を目指すETF(上場投資信託)です。金価格に強く連動する動きをします。

・1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

豊トラスティ証券(8747・JASDAQ)

 商品先物取引受託最大手企業です。商品先物取引で「金先物」を取り扱っています。

・1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

原油価格が急反落する可能性

 産油国が絡む地政学的リスク発生時には、原油価格が急騰する場合が多く見られます。

 ロシアによるウクライナ侵攻は、原油産出量第3位のロシアが絡むものであり、ロシアに対する経済制裁について3月6日、ブリンケン米国務長官がテレビで「欧州諸国とロシア産原油の輸入を禁止する方向で検討している」と明言したことで原油価格が跳ね上がりました。

 原油価格はコロナ禍からの世界経済回復過程でジリ高となっていたところに、「ロシア産原油禁輸措置」が発動される可能性が高まったことで急伸しました(その後米政府はロシア産原油禁輸を決定)。

・2年週足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

 原油価格が急伸前の水準(1バレル=80~90ドル)に戻るには以下の状況が到来する必要があると思われます。

  • ロシアとウクライナによる「停戦合意」の進展
  • 米国による「ロシア産原油禁輸」に期限が設定されること
  • 米国、サウジアラビアなど主要産油国による「大幅増産」
  • 原油産出量第9位、イラン産原油の「輸出再開」
  • 同環境での一定の「時間経過」≒原油先物市場の落ち着き

 原油価格上昇時には東京市場では以下のような銘柄が注目されます。

原油価格に反応しやすい銘柄

コード 銘柄名 株価(円)
1605 INPEX 1,341
1662 石油資源開発 2,618
8031 三井物産 2,940
1963 日揮ホールディングス 1,183
6330 東洋エンジニアリング 542
※株価データは2022年3月8日終値ベース。

INPEX(1605・東証1部)

 原油・ガス開発生産の国内最大手企業。政府が筆頭株主です。

・1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

石油資源開発(1662・東証1部)

 原油・天然ガスの開発生産会社で、政府が筆頭株主です。

・1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

三井物産(8031・東証1部)

 総合商社の中で原油生産権益量は断トツ。ロシア関連事業での減損リスクがあることには注意。

・1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

日揮ホールディングス(1963・東証1部)

 石油、天然ガス系プラントの国内最大手企業です。原油高は同社事業の追い風とされています。

・1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

東洋エンジニアリング(6330・東証1部)

 三井物産系石油・天然ガス系プラント大手企業です。

1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

 とくに「石油プラント」を手掛ける企業の株価推移は、この先の原油価格を反映するとされています(原油高継続がプラント増設期待につながるため)。

 足元の原油価格上昇が継続するか、一時的となるかを見極める際の参考になるかもしれません。加えて、原油先物市場も投機資金によって価格が高下するマーケットだということも頭に置いておきたいところです。