6月19日に中国人民銀行から「人民元の弾力性強化」が発表された。これを中国の出口戦略への一歩ととらえる向きもあるが、世界経済は出口を模索するにはやや暗雲が垂れこめてきており、人民元の上昇は穏やかなものとならざるを得ない。

人民元の上昇については年内3%~5%程度という見方が大勢だが、今後の人民元を動かす最大の要因は、中国共産党の政治的判断であろう。中国当局は人民元の相場水準や通貨バスケットの構成通貨と比率に関してはなにも言及しておらず、具体的なことは何もわからない。また、1日の変動幅も上下0.5%に維持されているので、急激な人民元高は起こらない。いずれにせよ、中国は現在の人民元過小評価による安上がりの経済発展路線を簡単に放棄するとは思えない。1980年代の円高→それを緩和するための低金利政策→バブルの発生→失われた20年という日本の大失敗を学習している中国が、大幅な人民元の切り上げに応じることはないだろう。

人民元の対ドルレート(チャートは目盛りをひっくり返してある)


(出所:石原順)

今週発表された(米国景気の重要指標である)米国の住宅販売はひどい数字だ。5月の中古住宅販売件数は前月比で-2.2%(予想:+6%)、5月の新築一戸建て住宅販売は前月比-32.7%の30万戸(予想:41万戸)と1963年以来の最低水準となっている。リーマン危機の前は100万戸を割れば不況のシグナルと言われていたので、米国の実体経済の悪化が懸念されよう。これを受けて、米国の利上げは来年半ばまではないと言われている。

米国の金利が上がらない状況では、ドルの上昇も限定的なものにならざるを得ない。金利が上がるか、ドルが下がるか、いずれかの修正が今後起きるだろう。ドル/円の日足は三角保合(もちあい)を下にブレイクし、やっとドル/円相場も動意づいてきた。相場は13日移動平均線の3%乖離に到達して小戻ししているが、ここから大きな円高トレンドが出るか(標準偏差ボラティリティとADXが上昇するか)否か、来週の相場展開が注目される。

ドル/円(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均3%乖離(青)


(出所:石原順)

ドル/円(日足)と移動平均リボン(1~3カ月の市場参加者のコスト)


(出所:石原順)

今週はNYダウも取引終了前1時間の動きがおかしくなっており、下落リスクに注意したい。標準偏差ボラティリティとADXの推移をみるとまだ調整相場(ランダム相場)の範疇であるが、調整もかなり進んできており、ここからはトレンドの発生に注意したい。NYダウの戻り相場は移動平均リボン(1~3カ月の市場参加者のコスト)の上限で抑えられており、上値の重い状況といえるだろう。企業の資金調達の急減速、銀行の貸し渋りが景気に影を落とすなか、直近のVIX恐怖指数の上昇も不気味だ。6月最終週の動きにファンド勢は注目している。

NYダウ(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:移動平均リボン(1~3カ月の市場参加者のコスト)


(出所:石原順)

VIX恐怖指数(日足)


(出所:石原順)

外為市場は相変わらずユーロ、ユーロと騒がしいが、ユーロ/ドルもユーロ/円もこの1ヶ月は典型的な調整相場で、現在は次のトレンド待ちの状況である。下のチャートはユーロ/ドルの日足であるが、MACDの売買シグナルが表示してある。これをみると、相場にトレンド(方向性)がない期間は、売買シグナルの信頼性が極端に低下するのがわかるだろう。相場には負けない努力というものがある。それは、相場にトレンドが無いときには、方向性に賭ける大きなポジションを取らないことである。

ユーロ/ドル(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:MACDの売買シグナル・13日移動平均3%乖離(青)


(出所:石原順)