ユーロ下落、原油上昇、金利低下が続く

 ウクライナ情勢は混沌(こんとん)としており、ウクライナにとって(欧州にとって)情勢改善の兆しはみられていません。相場はウクライナ情勢やその報道で振り回されていますが、はっきりしているのは、ユーロ下落、原油上昇、金利低下が続いていることです。

 ウクライナ国内での戦闘が長引けば長引くほど、欧州経済への悪影響が長引くことが嫌気され、欧州株の下落とともにユーロは続落しています。また、原油は供給不安によって上昇しており、さらに6日、米国はロシアからの原油輸入禁止検討との報道で原油価格は跳ね上がり、一時WTI原油先物で130ドル台まで上昇しました。

 また、米10年債は安全資産として買われ、2月中旬には2%を超えた利回りは一時1.7%割れまで低下しました。

 このような環境の中で際立った動きをした通貨ペアがあります。欧州景気後退と原油・資源高を受けて、ユーロ/豪ドルという通貨ペアは2月上旬以来続落しており、3月に入って急落しています(ユーロ売り・豪ドル買い)。

 にもかかわらず直近のIMMポジションをみると、ユーロはネットロング、豪ドルはネットショートのポジションが維持されており、通貨の動きと逆行しているのが気になります。これだけユーロが売られ続けているのに、ユーロロングのポジションが大きく減っていないということは、ユーロが反発した時に上値を抑える圧力となる可能性があります。

 豪ドルにも同じことが当てはまります。上昇を続けていた豪ドルが下落する時には、豪ドルの買い圧力となる可能性があります。

今週ECBの動きには注意が必要

 今週10日にはECB(欧州中央銀行)理事会が、来週15~16日にはFOMC(米連邦公開市場委員会)が開催されます。ECBもFRB(米連邦準備制度理事会)も判断に相当悩む理事会になりそうです。原油・資源高によるインフレ加速への対応策をとるか、ウクライナ情勢やインフレによる景気悪化への対応策をとるかの判断を示さなければなりません。

 早期利上げに慎重姿勢だったECBは、2月の理事会でタカ派に豹変(ひょうへん)し、今年中の利上げの可能性を否定しませんでした。しかし、ウクライナ侵攻による景気悪化懸念からECB内からはハト派の意見も出始めています。

 一方、3月2日の議会証言でパウエル議長はマーケットでくすぶっている「3月利上げ見送り」を否定し、0.25%の利上げを提案しました。もし、今週のECBが利上げに慎重になり、FRBは来週のFOMCで予定通り利上げとなると、材料出尽くしというより、欧米の金融政策の方向の違いからユーロが一層下落することも予想され、警戒する必要がありそうです。

 ただし、ECBの行動には注意したいと思います。ウクライナ情勢によって、利上げは先延ばしとみる向きが多いですが、インフレに果敢に立ち向かう伝統(?)の刃を振り下ろすシナリオも何%かあるかもしれません。

 1987年のブラックマンデー直前の利上げ(当時はドイツ連銀)や、2008年のリーマンショック直前の利上げ、2011年の欧州債務危機直前の利上げなど、インフレ抑制を重視した決定をすることがあるからです。

 もし、利上げをすれば、ユーロは一時的に反転するかもしれませんが、利上げによる景気への影響がより材料視され、利上げ見送り以上にユーロ安をもたらすかもしれません。

インフレ高水準で長期化となるか

 10日には米国の2月CPI(消費者物価指数)も発表されます。1月CPIは前年比+7.5%と約40年ぶりの上昇率となりましたが、2月はさらに上昇すると予測されています。高水準のインフレが続きそうな事態となってきました。

 今年のインフレの予想としては、新型コロナの感染拡大が収まれば経済は平常通りとなり、供給制約も解消され、インフレも年後半には鈍化していくとみられていました。しかし、ウクライナ情勢によって新たな要因が加わったため、インフレは高水準で長期化する可能性が高まってきました。

 ロシアとウクライナが停戦合意になっても、西側諸国はロシア抜きのサプライチェーンの見直しを進めることが予想されます。エネルギー調達の多様化やレアアースの調達多様化は、脱炭素と並ぶ構造的なインフレ要因となるかもしれません。

 10日の米国CPIの発表を受けた来週のFOMCでは、今後の利上げペースをどのように進めていくのかも注目です。一方で、ウクライナ情勢による欧州景気の悪化やインフレの加速によって米国景気が悪化することも予想され、FRBは利上げシナリオをどこまで維持できるのかも注目したいと思います。

 ドル/円は、利上げ期待のドル高とユーロ/円などクロス円の円高によって身動きが取れない状態となっています。このような環境では過去の動きやテクニカルポイントはあまり参考にならないかもしれません。ドル/円が動くとすれば、FRBのハト派姿勢への転換がきっかけとなることが予想されますが、まだ先の話かもしれません。