これから「バフェットの運用の本質」が浮かび上がってくるだろう

 バフェットのすごいところは、保険会社で徴収したゼロコストの長期資金を投資に回す「調達コスト・ゼロ」のビジネスモデルを展開していることだ。

 これをバフェットは「フロート」と呼んでいるが、保険によるゼロコストの長期資金調達というビジネスモデルのおかげで、バフェットの持ち株投資会社バークシャー・ハサウェイのパフォーマンスが下がっても、バフェットは破綻することがない。

 レバレッジ全盛の昨今、個人投資家は相場急落時に追い証で市場から退場命令を食らってしまう。筆者のようなファンド運用者は、運用パフォーマンスが悪化するとファンドの解約が多くなり、決して長期の運用などできない。ARKのキャシー・ウッドはETF(上場投資信託)で運用を行っているため、毎日ファンドの解約に対応しなければならない。ここがバフェットと他の運用者の違いである。だから、二人目のウォーレン・バフェットは、いそうでいないのである。

 バフェットに似た「調達コスト・ゼロ」のビジネスモデルを展開しているのは、アマゾンである。オマハの賢人と呼ばれるウォーレン・バフェットをして「アマゾン株を買わなかったのは愚かだった」と言わしめたアマゾンであるが、その強さの源泉は潤沢なキャッシュフローである。

 保険業で保険料を徴収し、払い戻しが生じるまでコストがゼロの資金を運用し利益につなげるというビジネスモデルを展開しているバークシャー・ハサウェイと同様、アマゾンの強みもこのコスト・ゼロの資金にある。

 アマゾンのキャッシュフローを考える際に重要なのがCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)という指標だ。

 CCCは商品を仕入れて販売し、代金を回収するまでの日数を表したもので、一般的な小売業界のCCCはプラス10〜20日、つまり商品を仕入れて販売し、代金が入ってくるまでに10〜20日かかるのに対し、アマゾンのCCCはマイナス18〜21日、商品が売れる約20日前から手元に現金が入っているのである。

 リーマンショック後の長いゼロ金利と量的緩和の時代は誰もが低金利で資金調達ができた。だから、バフェットの運用の本当のすごさがわからない時代だったのである。しかし、インフレで金利が上昇したり、株価が大幅に下落したりすると、バフェットの運用の本質が浮かび上がってくるだろう。

バフェットの年次書簡「株主への手紙」

 2月26日に公開された年次書簡「株主への手紙」は次のように始まる。

 バークシャー・ハサウェイの株主の皆様へ

 長年のパートナーであるチャーリー・マンガーと私は、皆さんの蓄えの一部を管理する仕事をしている。皆さんの信頼にお応えできて光栄に思う。

 私たちの立場は、あなたが経営者だったら知りたいことを、あなたに報告する責任を負っている。この年次レターや年次総会を通じて、皆様と直接コミュニケーションできることを楽しみにしている。

 当社は、すべての株主を平等に扱うことを方針としている。そのため、アナリストや大手機関投資家とのディスカッションは行わない。また、重要な情報については、可能な限り土曜日の午前中に発表し、月曜日の市場が開くまでに株主や報道関係者がニュースを吸収する時間を最大限に確保するようにしている。

 株主の皆さんの中には、このような詳細な情報を知りたいという人もいるだろうし、チャーリーと私が考えている新しいことや興味を持っていることを知りたいという人もいるだろう。

 残念ながら、2021年にはそのようなアクションはほとんどなかった。しかし、皆さんの株式の本質的な価値を高めるという点では、それなりの成果を上げることができた。この仕事は57年間、私の主要な任務だった。そして、これからもそうあり続けるだろう。

 今回の年次書簡はバフェットにとってこれまでで最も短い12ページだった。

 まずは、同時に発表された決算に触れておこう。2021年12月期決算は、純利益が前の期に比べて2倍の897億ドルになった。バフェットが重視する営業利益も同じく25%増の274億ドルに拡大した。バークシャーが保有するエネルギー事業や鉄道事業が好調だった。

 この四半期に69億ドルの自社株買いを行ったことも明らかになった。2021年は、バークシャーにとって静かな一年、つまり大きな買収はなかった年であったが、過去2年間に517億ドルの自社株を購入し、積極的な自社株買いを続けている。

高水準に膨らむバークシャーの現金(手元キャッシュ)ポジション

 上場企業株投資はバークシャーの事業の一部であり、次のような上場企業に投資を行っている。

 前述の通り、アップルはバークシャーの最大化かつ最高の投資先の一つであるが、今ではアップルだけではなく、スノーフレークや、先日はマイクロソフトが買収すると発表したアクティビジョン・ブリザードなど、ハイテクへの投資も進めている。これはバークシャーの中において順調に世代交代が行われていることの証でもあるだろう。

「投資事業」

 次に、私たちが支配していない企業についてだが、このリストには再びAppleが登場する。そのうちのいくつかは、バークシャーの2人の長年の投資マネージャー、トッド・コームズとテッド・ウェシュラーが選んだものだ。年末時点で、この2人は340億ドルの投資に関する全権限を持っていたが、その多くは私たちが表で使用している基準値を満たしていない。また、トッドとテッドが運用する資金の大部分は、バークシャー社傘下の企業の年金プランに預けられており、これらのプランの資産はこの表には含まれていない。

上場企業に対するバークシャーのエクスポージャーと評価額

出所:バークシャーの資料から石原順作成

 取得コストに対する時価評価の増減率については筆者の方で加えたものである。投資期間が異なるため一概には言えないが、BTDへの投資やムーディーズ(MCO)など30倍以上になっているものもある。全体として3倍を超えるリターンは上出来だ。

「米国財務省証券」

 バークシャーのバランスシートには、1440億ドルの現金および現金同等物が含まれている(BNSFとBHEの保有分を除く)。このうち1200億ドルは米国財務省証券で、すべて1年以内に満期を迎える。

 チャーリーと私は、バークシャー(BNSFとBHE以外の子会社を含む)が常に300億ドル以上の現金および等価物を保有することを約束してきた。私たちは、バークシャーが財務的に非の打ち所がなく、決して他人(あるいは友人)の親切に依存しないようにしたいと考えている。私たち2人はぐっすり眠りたいし、債権者、保険金請求者、そしてあなたにもそうしてほしい。

 しかし、1,440億ドルとは・・。

 この堂々たる金額は、決して愛国心の熱狂的な表現ではないことを保証する。また、チャーリーと私は、企業オーナーになることへの圧倒的な憧れを失ったわけでもない。今から80年前の1942年3月11日、私はシティーズサービスの優先株を3株購入し、初めてその熱意を示した。その時の費用は114.75ドルで、私の貯金をすべてつぎ込む必要があった。(「その日のダウ平均株価は99ドルであった。決して米国の成長には逆らってはならない」)

バークシャーの手元キャッシュも過去最高水準に膨らんでいる

出所:バークシャーの資料を元に石原順作成

 最初の暴落の後、私は常に純資産の80%以上を株式で維持していた。この間、私の好みは100%であり、現在もそうである。バークシャーの現在の80%程度の株式保有は、私が長期保有の基準を満たす企業全体あるいはその一部(つまり市場性のある株式)を見つけられなかった結果である。

 チャーリーと私は、過去に時々、同じようなキャッシュヘビーポジションに耐えたことがある。このような時期は決して楽しいものではなかったが、決して永続的なものでもない。そして幸いなことに、2020年と2021年の間に、資本を展開するための穏やかな魅力的な代替手段があった。続きを読んで欲しい。

 バークシャーの現金残高が高水準で推移している。これは、企業投資への熱意が失われたわけではないし、可能であればほぼ100%の比率で株式に投資したいと考えていると述べている。

 現在のキャッシュポジションの積み上がりは、あくまで「投資先がなかった」ことの結果だ。これはここ数年、バークシャーが常に直面している課題だ。しかし、投資先を見つけられなかった一方で積極化したのは「自社株買い」である。

自社株買いの効果

 バークシャー特有かつ、人々が見落としがちな価値として、保険事業から得られる「フロート」がある。これはバークシャーにとって重要な価値を持っている。さらにその「フロート」の価値は自社株買いによって自動的に増加する。バフェットによると、一株当たりのフロートの価値はこの2年間で25%増加したと言う。

「自己株式取得」

 顧客の投資価値を高める方法は3つある。1つ目は、常に私たちの頭の中にある最重要事項だ:内部成長または企業買収によって、バークシャーの支配下にある事業の長期的な収益力を高めることだ。現在では、買収よりも内部成長の方がはるかに良いリターンが得られる。しかし、その規模は、バークシャーの経営資源に比べれば小さいものだ。

 第2の選択肢は、上場している多くの優れた、あるいは素晴らしいビジネスの非支配的な部分持分を購入することだ。そのような可能性は数多くあり、あからさまに魅力的な時が時折ある。しかし、現在では、そのような魅力的なものはほとんど見当らない。

 それは、ある法則によるところが大きい。長期金利が低いと、株式、マンション、農場、油田など、あらゆる生産的な投資の価格が上昇する。他の要因もバリュエーションに影響を与えるが、金利は常に重要である。

 価値創造への最後の道は、バークシャー株の買い戻しだ。この単純な行為によって、バークシャーが所有する多くの支配下および非支配下ビジネスにおけるあなたのシェアは拡大する。価格と価値の方程式が適切であれば、最も簡単で確実な方法として皆さんの資産を増やすことができる。(継続的な株主への価値の付加と同時に、他のいくつかの関係者も利益を得ることができる。自社株買いは、売り手にとっても、社会にとっても、ささやかな利益となる)

 定期的に、代替案が魅力的でなくなると、バークシャーのオーナーにとって自社株買いは効果を持つ。そこで、過去2年間に、2019年末時点の発行済み株式の9%、総額517億ドルを買い戻した。この支出により、継続株主は、完全所有(BNSFやGEICOなど)、一部所有(コカ・コーラやムーディーズなど)を問わず、バークシャーの全事業の約10%を所有することとなった。

 バークシャーの自社株買いが意味を持つためには、当社の株式が適切な価値を提供しなければならないことを強調しておきたい。他社の株式を買いすぎるのは好ましくないし、バークシャーを買うときに買いすぎてしまっては、価値が損なわれてしまう。2022年2月23日現在、年末から12億ドルのコストで株式を追加取得した。我々の投資意欲は依然として大きいが、常に価格に左右されることに変わりはない。

 なお、バークシャーは高級な投資家層をベースにしているため、自社株買いの機会は限られている。もし、当社の株式が短期的な投機筋に多く保有されるようになれば、価格変動も取引量も大幅に増加するだろう。そうなれば、自社株買いによる価値創造の機会は格段に増えるだろう。とはいえ、チャーリーと私は、今の株主をはるかに気に入っている。彼らの見事な「buy and keep」の姿勢は、長期株主が好機的な自社株買いによって利益を得られる範囲を限定するものでもある。

バークシャー・ハサウェイB株(月足)

出所:石原順

 バフェットが自社株買いをしているもう一つの理由は、リーマンショック後はS&P500種指数のパフォーマンスを大きくアウトパフォームできていないからである。このため、長年にわたってバークシャーの株を保有していた一部の投資家が、バークシャーの株を売却することもあった。

バンガード500インデックスとバークシャー・ハサウェイのパフォーマンス(年代別)

(金融資本主義が崩壊したリーマンショック後は慎重な運用を続けている)
出所:MarketWatch

 多くの投資家は天井付近で株を買って、暴落時に市場から追い出されてしまう。近年の株式市場はグリーンスパン方式の人為的なバブルの発生と崩壊の繰り返しである。バフェットの運用の真骨頂は「防御」である。

 中央銀行バブルのような国家管理相場ではバフェットのすごさは見えにくい。だが、金利上昇や株価下落の局面では、相対的にバフェットの運用は輝きを取り戻すだろう。

 相場は当てたい、あるいはもうけたいという欲望のゲームとして始まるが、お金がなくなればゲームオーバーである。だから、相場で一番大切なのは資産管理(マネーマネジメント)であり、具体的にはストップロス注文を必ず置くことである。

 相場の予測が当たることと、相場でもうけることには何の関係もない。相場の短期予測など半分は外れるし、長期予測は上げでも下げでもどっちか言っておけば、いつかは当たるだろう。相場の実践では予測があたってもタイミングが当たらないと役に立たない。漠然とした予測を当てても仕方がないのである。

 相場で大きな損をするのは、予測がはずれたからではない。大損失は、「間違ったポジションをとってしまった後の対処のまずさ」に起因している。

 繰り返し言っておくと、人間の心理は相場で損をするようにできている。だから、相場は1にストップ、2にストップなのである。バフェットは「見切り千両」の投資家で、とにかく損切りが早い。ストップロス注文を入れないと、相場は「運だけの賭博行為」になってしまうのである。

3月2日のラジオNIKKEI『楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー』

 3月2日のラジオNIKKEI『楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー』は、武田則孝さん(楽天証券FXディーリング部)をゲストにお招きして、「株の下落もインフレも“すべてロシアのプーチンのせい”というプロパガンダ」・「バフェットの資産運用で学ぶべきこと」・「資産運用の究極の目的はインフレヘッジである」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。

出所:YouTube
出所:YouTube
出所:YouTube
出所:YouTube

 ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。

3月2日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

出所:YouTube