先週のNYダウは2日連続で大幅下落

 先週の為替市場はジェットコースターに乗っているような気分でした。

 NYダウ(ダウ工業株30種平均)は先週の木、金曜日の2日連続で大幅に下落し、下げ幅は1,000ドルを超えました。FRB(米連邦準備制度理事会)による金融引き締めが加速するとの観測や、ロシアによるウクライナ侵攻への警戒感が高まったことが背景です。

 ドル/円も早期利上げ観測が高まり1ドル=116円台前半まで上昇した後、その後ウクライナ侵攻が間近に迫るとの警戒感から115円割れ寸前まで下落しました。

 しばらくは先週のような地政学リスクとインフレリスクとの綱引き相場が続きそうです。今後の相場シナリオを考える参考となるため、先週の綱引き相場を振り返ってみたいと思います。

 先々週4日(金)の米雇用統計を受けてドル/円は114.80円近辺から115円台前半に上昇し、先週は115円台前半で堅調な動きで始まりました。

 先週10日(木)には米国CPI(消費者物価指数)の発表が控えていましたが、日本銀行が翌週の10年国債の買いオペを無制限で行う方針と伝わったことから、米CPI発表前からすでに上昇気運が高まっていました。日本の長期金利を抑える方針によって日米の金融政策の違いがより鮮明になり、日米金利差がさらに拡大するとの思惑が強まったからです。

 米1月CPIは前年比+7.5%と40年ぶりの高水準となり、予想も上回ったことからインフレ加速懸念が強まりました。米10年債利回りが2019年8月以来の2%超えとともにドル買いが強まり、116.34円*まで上昇しました。

 しかし、1月4日高値(116.35円*)手前では上値が重くなり、その後は材料出尽くしのポジション調整から115円台後半に下落しました。

 しかしその後、ブラード・セントルイス連銀総裁が「7月1日までの1ポイント(1%)利上げを支持」、「2000年以来の50bp(0.50%)利上げを支持」などの発言から、早期利上げ観測が強まり(臨時FOMC[米連邦公開市場委員会]開催のうわさも流れた模様)、再び116円台に乗せたものの、当日高値の116.34円*は抜けきれませんでした。

 翌11日(金)、「プーチン露大統領がウクライナ侵攻を決定」との一部報道が伝わると、一気に地政学リスクが高まり、米株安とともにドル/円は下落。さらにサリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が「ロシアのウクライナ侵攻がオリンピック期間中に起こる恐れがある」と述べたことが伝わると、115.04円*まで下落しました。

 しかし、その後、サリバン大統領補佐官が「プーチン大統領が侵攻の最終決定を下したと判断せず」と述べたことや、米露首脳が12日に会談を予定していることが伝わると、115円半ばまで戻して越週となりました。
*…筆者推計の参考値

 先週のドル/円は、高値から1円30銭の円高となりましたが、ユーロ/円(1ユーロ=約2円75銭)やポンド/円(1ポンド=約2円)の下落幅と比べると、ドル/円の下落幅は限定的でした。米インフレリスクへの警戒感による早期利上げ期待(ドル高要因)や日銀の方針(円安要因)が円高抑制となっているようです。

今週はウクライナの緊迫で不穏なスタート

 結局、12日(土)の米露首脳会談は平行線のままもの別れとなったため、地政学リスクへの警戒感は続いている状況で今週が始まりました。

 週明け14日(月)には、再びドル/円は下落し、115.02円*を付けましたが、115円は割れませんでした。

 その後、「ロシアのラブロフ外相が欧米との対話継続を提案し、プーチン露大統領からの了承を得た」との報道を受けてウクライナ侵攻の警戒感がやや後退し、ドル/円は買い戻されました。

 また、タカ派のブラード・セントルイス連銀総裁が「金融引き締めの前倒しが必要」との認識を改めて強調したことで115.75円*まで上昇しました。しかし、反発は長続きせず115円台前半に押し戻されました。
*…筆者推計の参考値

 15日(火)、「ウクライナ付近に配備する一部のロシア部隊が軍事演習を終え、基地に帰還している」との報道が伝わると、ウクライナ情勢を巡る緊張緩和への期待感から欧州株が上昇し、ドル/円も115円台半ばを超えた動きとなりました。

 また、15日のドイツ・ロシア首脳会談で、プーチン大統領が「我々は欧州で戦争を望んでいない」と述べ、米欧との協議を継続する意向を示したことからNY株は大幅高となり、ドル/円も前日の戻り高値115.75円*を抜き、115.88円*まで上昇しました。

 このままウクライナ情勢の緊迫が弱まればよいのですが、バイデン大統領は15日午後の記者会見で「ロシアがウクライナに侵攻する可能性はまだ高い」とし、「一部部隊の撤収はまだ確認していない」と述べています。

 そして16日はロシアによるウクライナ侵攻が警戒される日となっており、要警戒との空気はマーケットにまだ残っています。ドル/円も115円台半ばで様子をうかがっているような値動きとなっています。
*…筆者推計の参考値

 以上のように先週から今週にかけての動きを述べましたが、10年に一度、あるいは20年に一度の欧州地政学リスクが高まったため、やや詳細に述べました。この2月中旬に地政学リスクが高まった時のドル/円の値動きは、今後のテクニカルポイントとして参考になります。

 今週は、地政学リスクへの警戒感が強まり115円をブレイクするのか、あるいはウクライナ情勢を巡る緊張緩和とインフレへの警戒感から116円半ばをブレイクするのかどうかに注目です。しかし、地政学リスクとインフレリスクの警戒感の両方の影響を受けている株式市場が安定しない限り、ドル/円の戻りに勢いはみられないかもしれません。

 また、やっかいなのは、もし、ウクライナ侵攻が現実となった場合、あるいは侵攻がなくとも緊張状態が続く限り、原油高と穀物相場高の要因が加わることによってインフレリスクがさらに高まる可能性があるというシナリオです。産油国ロシアへの制裁による原油の供給不安、穀倉地帯ウクライナの穀物供給不安に加え、値上がり期待の投機が加わることが予想されます。

 そして、中央銀行もインフレ高を抑制するためには金融引き締めが必要となりますが、金融引き締めを早めすぎると景気に悪影響を及ぼす可能性があるため、早期の金融引き締めや過度の金融引き締めには、慎重に対応せざるを得なくなるかもしれないという、かなり難しい政策運営に直面することになりそうです。

 マーケットはかなり混乱することが予想されます。一本調子の円高、一本調子の円安が進むと思い込むよりも、半身構えで柔軟に相場に臨んだ方がよさそうです。