米国の株式市場は世界最大の時価総額を持ち、建国当初から株価は右肩上がりの成長を続けています。その理由の一つとして、常に企業の新陳代謝が起こり、時代ごとに革新的な企業を生み出しています。

 米国株式の代表的な株式指数は、鉄道・公共事業以外の工業株30銘柄で構成される「NYダウ(ダウ工業株30種平均)平均株価」、NASDAQ(ナスダック)に上場している全銘柄を対象とした「ナスダック総合指数」、NYSE(ニューヨーク証券取引所)とNASDAQに上場している大型株500銘柄を対象とした「S&P500種指数」があります。

 これらに採用されている企業は長期間にわたり利益を出し続け、株価も上昇し、配当を増配し続けている銘柄も珍しくはありません。

 そこで2022年3月権利落ちの米国株高配当5銘柄について解説します(株価、配当利回りなどのデータは2022年2月7日現在、為替は1ドル=115円で計算)。

 その前に、日本と米国の高配当銘柄への投資で、特に重要な3つの違いについて、お伝えします。

(1)米国株の配当金は、通常米国で10%、日本で20.315%の2段階、約30%の課税がされます。しかし確定申告で還付を受けることにより、日本株と同じように20.315%の税率と同じになります。ただし、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)口座で購入した場合は、日本での利益・配当金はもともと非課税のため、還付を受けることはできません。この場合は米国で10%の課税のみとなります。

※米国に上場していても米国籍企業以外の場合、配当金にかかる源泉税率は日本との租税条約によって異なり10%ではありません。

(2)米国株は日本株と異なり、権利落ち日が月末に集中していません。そのため、銘柄ごとに権利落ち日を確認する必要がありますので注意が必要です。

(3)米国株は日本円で買う円貨決済と、米ドルで買う外貨決済を選べます。日本円から外貨に替える為替手数料も積もれば大きな金額になるので、米国株を買い続けるなら売却時にも外貨決済で米ドルにしなければ無駄に手数料を支払うことになります。

米国高配当株1:クラウン・クラフト(CRWS)

 ベビー用品のトップメーカーとして50年以上にわたり事業を展開しています。

 NoJo、Neat Solutions、Sassyなどのブランドを通し、乳幼児・児童用品などを量販店、大型チェーン店、中規模小売店、EC店舗などに販売を行っています。

 時価総額は6,850万ドルで、日本円で約78億8,000万円となっています(1USD=115円計算)。

事業の注目ポイント

 事業の中心は「寝具、毛布やアクセサリーの販売事業(Bedding, Blankets and Accessories)」で、続いて「よだれかけ(スタイ)、バス用品、知育玩具、離乳食、ベイビーケアや使い捨て衛生用品の販売事業(Bibs, bath, Developmental Toy, Feeding, Baby care and Disposable products)」となります。

競合他社

 競合他社として、世界中で各種の玩具製品を製造・販売するマテル(MAT)、玩具・消費者向け製品とハロウィーン(コスチュームとアクセサリー)の事業を展開するジャックス・パシフィック(JAKK)、世界中の子供と家族向けサービスを提供するハスブロ(HAS)などが見受けられます。

株式の注目ポイント

 株価は昨年の高値を下回って推移していますが、配当は昨年増配しています。

 一昨年、コロナの影響で一時的に株価は下落しましたが、その後早い段階で株価は回復し、コロナ発生前の水準を2割程度上回る水準まで上昇しました。

 直近、クラウン・クラフトの株価もマーケット全体の調整の影響を受け、株価が下落しています。

 一方で、コスト管理を徹底していく方針を会社側も発表しており、合理化のためのシステム投資を行うなどの計画がすでにあり、それらの投資が今後の株価上昇につながるかに注目です。

業績動向

 2021年11月10日開示の四半期決算では1株利益は市場予想通りでしたが、売上は市場予想を下回りました。人手不足、コストの上昇、ハリケーン「アイダ」による本社の閉鎖などの影響で、業績が市場予想に届きませんでした。

 決算発表を受けて株価は上昇しましたが、その後の長期金利の上昇や上場市場のナスダックの下落に伴いクラウン・クラフトの株価も下落しました。

 次回は2022年2月10日に四半期決算の開示予定ですが、市場予想を上回る数字を出せるかどうかに注目です。

注意点

 ウォルト・ディズニー・カンパニーなどのライセンス契約に基づく製品の売上高が、総売り上げの41%を占めており、このライセンス契約が打ち切られるなどの事態が発生すると、業績に大きな影響を及ぼす可能性がある点には注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:0.32ドル
配当利回り:4.70%
株価:6.80ドル(約782円)

 この銘柄、権利落ち日は3月中旬予定(権利実施は4月上旬予定)です。

 配当利回りは2月7日時点で4.70%、株価は6.80ドルでおよそ782円から購入できます(1USD=115円計算)。2019年からの最高値は8.40ドル、最安値は4.20ドルとなっています(終値ベース)。

米国高配当株2:オールド・リパブリック・インターナショナル(ORI)

 米国の大手保険会社で、傘下の保険会社を通じて、さまざまな保険サービスを提供しています。米国の大企業で構成されるフォーチュン500の1社で、25年以上連続で年間配当金の増加を記録している111社のうちの1社に数えられています。

 時価総額は78億ドルで、日本円で約9,000億円となっています(1USD=115円計算)。

事業の注目ポイント

 事業の中心は「タイトル保険事業(Title insurance、物件の所有権に対する保険)」で、続いて「一般保険事業(General Insurance、財産責任保険)」、「共和国財務賠償グループランオフ事業(RFIG run-off business、保険者に対して保険金支払いを完了させる事業、モーゲージ担保保証と消費者信用賠償など)」となります。

「タイトル保険事業」では、不動産購入者や不動産業者、金融機関などにタイトル保険を提供し、「一般保険事業」では個人、中小企業を中心に損害保険を提供しています。

競合他社

 競合他社として、企業向けの損害保険商品に焦点を当てるアメリカン・ファイナンシャル・グループ(AFG)、権原保険、決済サービス、その他の金融サービス、リスクソリューションを提供する会社であるファースト・アメリカン・ファイナンシャル(FAF)、損害保険商品およびサービスの提供を行うハノバー・インシュアランス・グループ(THG)などがあります。

株式の注目ポイント

 株価はコロナ発生前の水準を超えて推移しており、配当は40年連続で増配しています。

 コロナ発生により株価は下落したものの、その後米国の良好な不動産市場を背景に株価は回復し、現在はコロナ発生前の水準を超えて推移しています。直近の決算でも好調な業績が発表されており、今後も堅調な株価が期待されます。

業績動向

 2022年1月27日開示の四半期決算では、1株利益・売上高ともに市場予想を上回りました。

 タイトル保険において、堅調な不動産市場に起因する保険料および手数料が大きく伸び、損害保険では自動車保険、労災保険などが拡大したことで利益が拡大し、保険料収入としては過去最高となりました。

 次回は2022年4月28日に四半期決算の開示予定ですが、市場予想を上回る数字を出せるかどうかに注目です。

注意点

 近年、アメリカの不動産市場を支えてきた要因の一つが低金利でした。

 金利がこれから上昇していくとしたときに、不動産市場が大きく影響を受ける可能性があり、オールド・リパブリック・インターナショナルの業績にも影響が出る可能性がある点には注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介 (配当:0.88ドル→0.22×4)

配当:0.88ドル
配当利回り:3.37%
株価:26.10ドル(約3,000円)

 この銘柄、権利落ち日は3月上旬予定(権利実施は3月中旬予定)です。

 配当利回りは2月7日時点で3.37%、株価は26.10ドルでおよそ3,000円から購入できます(1USD=115円計算)。2019年からの最高値は26.56ドル、最安値は11.70ドルとなっています(終値ベース)。

米国高配当株3:スパルタンナッシュ(SPTN)

 食品卸売業を中心に流通事業を展開している他に、食品小売業では米国のスーパーマーケットチェーンであるファミリーフェア(Family Fare)や、マーティンズ・スーパーマーケット(Martin's Supermarket)などのブランドで、米国内で155以上の店舗を展開しています。

 時価総額は9億3,500万ドルで、日本円で約1,075億円となっています(1USD=115円計算)。

事業の注目ポイント

 事業の中心は「食品卸売事業(Food Distribution)」で、続いて「食品小売事業(Retail)」、「米国基地内売店事業(Military)」となります。

「食品卸売事業」では、全米で2,100以上の食料品小売店に商品提供を行っており、2016年からアマゾンに食品を供給しています。「食品小売事業」では、プライベートブランドやナショナルブランドの商品を幅広く取りそろえた店舗を展開しています。

 また「米国基地内売店事業」では、米軍向けの福利厚生の一つであるコミッサリーなどの軍向け流通事業を展開しています。

競合他社

 競合他社として、健康とウェルネスに焦点を当てた、自然と有機食品の専門小売業者であるスプラウト・ファーマーズ・マーケット(SFM)、食品の小売販売に従事する会社であるウエイス・マーケッツ(WMK)、天然・有機・特殊・農産物および従来の食料品および非食品製品の販売業者かつ小売業者サービスのプロバイダーであるユナイテッド・ナチュラル・フーズ(UNFI)などがあります。

株式の注目ポイント

 株価はコロナ発生以降の高値近辺で推移しており、配当は2011年から毎年連続で増配しています。

 一昨年、コロナ発生により自宅での食事の機会が増えたことでスパルタンナッシュの業績は拡大しました。その後も、インフレによる物価高騰を商品価格に転嫁することで利益率が改善したことや、広告宣伝費の減少によるコスト低下などによって業績は堅調に推移し、それに伴って株価も少しずつ上昇しています。

業績動向

 2021年11月10日開示の四半期決算では、1株利益・売上高ともに市場予想を上回りました。

「米国基地内売店事業」において、海運のサプライチェーンの混乱により売上が減少したものの、「食品卸売事業」・「食品小売事業」それぞれの事業で業績が拡大しており、特に「食品卸売事業」ではインフレが業績拡大の後押しをしています。

 次回2022年2月23日に開示予定の四半期決算において、市場予想を上回ることができるかどうかに注目です。

注意点

 人件費および輸送費の増加、ならびに企業管理費の増加が一部業績に悪影響を及ぼしており、今後もコロナの影響でこれらが拡大する懸念があることには注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:0.8ドル
配当利回り:3.07%
株価:26.01ドル(約3,000円)

 この銘柄、権利落ち日は3月中旬予定(権利実施は3月下旬予定)です。

 配当利回りは2月7日時点で3.07%、株価は26.01ドルでおよそ3,000円から購入できます(1USD=115円計算)。2019年からの最高値は26.27ドル、最安値は8.94ドルとなっています(終値ベース)。

米国高配当株4:メルク・アンド・カンパニー(MRK)

 1668年創業の、世界で最も歴史の長い製薬会社です。世界有数の製薬会社でもあり、NYダウ30銘柄の一社でもあります。時価総額は1,960億ドルで、日本円で約22兆5,400億円となっています(1USD=115円計算)。

事業の注目ポイント

 事業の中心は、「医薬品事業(Pharmaceutical)」で、続いて「アニマルヘルス事業(Animal Health)」、「その他収益事業(Other Revenues)」と続きます。

「医薬品事業」では「KEYTRUDA(キイトルーダ)」、「JANUVIA(ジャヌビア) / JANUMET」、「GARDASIL(ガーダシル) / GARDASIL 9」などの医薬品を取り扱っており、その中でも免疫チェックポイント阻害薬「KEYTRUDA」が「医薬品事業」の売上高の約38%をあげています。

競合他社

 競合他社として、研究ベースのグローバルなバイオ医薬品企業であるファイザー(PFE)、ヘルスケア分野でさまざまな製品の研究開発・製造・販売を行う持株会社であるジョンソン・アンド・ジョンソン(JNJ)、医薬品を製造・販売するヘルスケア企業であるバイアトリス(VTRS)などがあります。

株式の注目ポイント

 株価は昨年の高値まで戻っていませんが、配当は2021年12月に増配しています。

 コロナ発生後も他の業種と比べて株価の変動は少なく、堅調な業績から株価も一定のレンジで推移しています。今後、コロナ飲み薬モルヌピラビルが業績に好影響をもたらすことで、さらなる株価の上昇が期待されます。

業績動向

 2022年2月3日開示の四半期決算では売上高・1株利益共に市場予想を上回りました。

「KEYTRUDA」の売上高が20%増え、「GARDASIL / GARDASIL 9」の売上高が44%増となるなど、主力製品の売上拡大が好調な業績に寄与しました。2022年度も売上は拡大する見通しであり、今後も堅調な業績が期待されます。

 次回2022年4月28日に開示予定の四半期決算において、市場予想を上回ることができるかどうかに注目です。

注意点

 コロナ内服薬モルヌピラビルが、米国での需要において、ファイザーやグラクソスミスクラインのコロナ内服薬ほど人気がなく、業績に大きく寄与しない可能性がある点には注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:2.76ドル
配当利回り:3.55%
株価:77.58ドル(約8,900円)

 この銘柄、権利落ち日は3月14日(権利実施は4月7日)です。

 配当利回りは2月7日時点で3.55%、株価は77.58ドルでおよそ8,900円から購入できます(1USD=115円計算)。2019年からの最高値は90.54ドル、最安値は63.31ドルとなっています(終値ベース)。

米国高配当株5:マーカンタイルバンク(MBWM)

 マーカンタイルバンク(Mercantile Bank)をミシガン州で事業展開しています。ミシガン州第3位の規模の銀行で、預金商品・融資商品を中心に提供しています。

 時価総額は6億ドルで、日本円で約690億円となっています(1USD=115円計算)。

事業の注目ポイント

 事業は「銀行事業(banking)」の単一事業となります。

 直近では個人向け住宅ローンの貸出や、法人向け事業用ローンが業績を押し上げており、それ以外にも、カードや預金など、一般的な銀行で取り扱っている複数のサービスを、ミシガン州の顧客に提供しています。

競合他社

 競合他社として、個人・法人顧客に金融サービスを提供するバンク・ファースト(BFC)、市場地域の中小企業、個人に、商業および消費者金融サービスを提供するサウス・プレインズ・ファイナンシャル(SPFI)などがあります。

株式の注目ポイント

 株価は昨年の高値近辺を超えて推移しており、配当は2022年3月より増配を予定しています。

 好調な業績と、米国で金利が上昇していることで、今後のマーカンタイルバンクコーポレーションの金利収入の増加が期待されることなどから株価が上昇しています。

 現在、2018年の金利上昇局面の水準まで株価は回復しており、今後の業績次第でさらに株価が上昇するかどうかに注目です。

業績動向

 2022年1月18日開示の四半期決算では、1株利益・収益ともに市場予想を下回りました。しかし、決算発表後の株価の変動はほとんどありませんでした。

 昨年までの低金利環境の影響による利回りの低下などによって業績が市場予想には届かなかったものの、直近の金利上昇による業績改善期待もあり、株価への影響は少なかったようです。

 次回2022年4月19日に開示予定の四半期決算で、市場予想を上回る決算を発表できるかどうかに注目です。

注意点

 今まで、住宅ローンの拡大などが業績をけん引してきましたが、金利上昇により不動産マーケットが冷え込んだ際に、業績へ少なからず影響を与える可能性がある点には注意が必要です。

株価動向、配当利回り紹介

配当:1.24ドル
配当利回り:3.22%
株価:38.40ドル(約4,400円)

 この銘柄、権利落ち日は3月3日(権利実施は3月16日)です。

 配当利回りは2月7日時点で3.22%、株価は38.40ドルでおよそ4,400円から購入できます(1USD=115円計算)。2019年からの最高値は39.23ドル、最安値は17.12ドルとなっています(終値ベース)。

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