中国では春節休暇(1月31日~2月6日)が終わり、人々は徐々に新年の仕事モードに入っています。2月4日に開幕した北京冬季五輪は、新型コロナウイルスの感染を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」を掲げ、選手や大会関係者と外部の接触を遮断する「バブル方式」を採用して開催されています。

 そんな中、3月5日に開幕する全国人民代表大会(全人代、国会に相当)を前に、地方版の全人代が続々と開かれています。今回は、春節期間中の景気、および地方版全人代からうかがえる2022年の中国経済をみていきたいと思います。

今年の春節も小旅行の傾向。国内映画興行収入は歴代2位

 コロナ禍前は、多くの中国国民が春節期間中に海外旅行へ赴き(年間では延べ1億人以上)、帰国後そのまま地元に帰省、海外でのお土産(話)を披露しながら、海外にまで行けるようになった財力を見せびらかす光景が日常茶飯事でした。

 数年前の春節、チェコのプラハに赴いた際、市内に架かる有名なカレル橋上を歩いていると、そこにいた人間のほとんどが中国人だったことに驚いたのを覚えています。

 現在、中国の水際対策は依然厳しく、この期間の旅行はほとんど国内だったでしょうが、2022年の春節期間(7日間)における観光収入はあまり思わしくなかったようです。

 国務院(政府)傘下の文化観光部が発表した統計によれば、全国で国内旅行に出かけた人数は前年同期比2.0%減の延べ2億5,100万人、国内観光収入は同3.9%減の2,892億元だったとのこと。

 同部市場管理局の余昌国(ユー・チャングオ)副局長によれば、コロナ前の2019年と比べると旅行者数は26.1%減、観光収入は43.7%減に相当するということです。

 中国国民の観光が海外ではなく国内に集中しているにもかかわらず、コロナ前の状態にはまだまだ戻っていない。しかもコロナ禍にあった昨年に比べても悪化しているという現状が見て取れます。

 同部の統計によると、この7日間、国内の省(日本の「県」に相当)内における観光が78.3%、省をまたいだ観光が21.7%ということで、多くが遠出するのではなく、今滞在する地域で「小旅行」を楽しんだという状況だったようです。例として、全国映画館の興行収入は60億3,500万元と、春節期間歴代2番目の額を記録。観光業の低迷=景気の悪化、とは必ずしもなっていない模様です。

 中国は広大で、国民の好奇心や消費動向も多様ですから、(不動産業界を含め)一つの地域や一つの分野のデータを見て、景気が悪化している、あるいは改善している、と断定するのは危険だと考えています。

 春節期間、特に富裕層が訪れる温暖なリゾート地・海南島は、7日間で延べ541万人の観光客を受け入れ、総収入は75億元でした。同島では近年、離島の免税店が人気スポットになっていますが、離島内にある10店舗の免税店の売上高は前年同期比2.5倍の21億元に上ったとのこと。

 私が見る限り、中国国民は免税店が大好きで(数年前の、中国人観光客による“爆買い”が思い起こされます)、北京国際空港などでは、海外から帰国した国民の多くが、出口から市内へと向かう前に、免税店で酒やたばこ、化粧品などを爆買いする光景が常態化していました。昨今、コロナ禍で海外旅行は厳しく制限されていますから、多くの中国国民は海南島の免税店で消費することで、「海外」を満喫しようとしたのかもしれません。

各地方の2022年経済成長率目標は「かなり強気」

 中国では毎年、春節明けに各地方で人民代表大会が行われ、その後全人代という1年に1度の政治イベントが首都・北京で開催される流れになっています。言うまでもなく、中国の地におけるほとんどは「地方」なわけで、地方経済の良しあしは「中国経済」に大きく影響します。

 従って、現在各地で開催されている全人代の前哨戦を包括的にみる作業は、全人代でどのような経済目標が公表されるか、李克強(リー・カーチャン)首相が、2022年の経済情勢・政策をどう語るかを先取りすることにつながるわけです。

 ここで、全国各地が掲げた2022年のGDP(国内総生産)成長率目標をみてみましょう。2021年度は中国全体で8.1%増。最も成長率が高かったのは武漢市がある湖北省で12.9%増、二桁成長は他に海南省の11.2%増があり、最も低かったのが青海省の5.7%増でした。6%を下回ったのは他に遼寧省の5.8%増がありました。

 V字回復による高成長率を織り込み済みだった2021年に比べて、2022年の成長率が鈍化するのは既定路線。実際に、2022年の成長率目標が2021年の成長率を上回ったのは二つだけです。チベット自治区が2021年7%前後だったのに対し2022年8%前後、河南省が2021年6.3%増だったのに対し2022年7%に目標を設定しています。河南省は昨年大規模な洪水に見舞われ、経済も打撃を受けましたから、その点も影響し、経済の回復を狙っているのでしょう。

 大きな直轄市や省の目標を見てみると、北京市が5%以上、上海市が5.5%前後、広東省5.5%前後、浙江省6%前後、江蘇省5.5%前後となっています。未発表の天津市(昨年は6.6%増)以外、30の省・直轄市・自治区が掲げた目標を足し、30で割ると、出てきた平均値は6.35%です。

 私の印象は、「かなり高め」というもの。仮に、3月5日に開幕する全人代の「政府活動報告」で、李首相が2022年度の中国経済成長目標を「6.0%以上」あるいは「6.0%前後」あたりに設定するとしたら、それも「かなり強気」だと私は捉えるでしょう。

 年明け、IMF(国際通貨基金)が2022年の中国経済成長率を0.8ポイント下方修正し、4.8%増としました。私は、「5.0%以上」あたりに設定するのが現実的だと考えています。

経済成長目標達成へ、カギを握るのは投資?

 各地方、それぞれの事情や思惑で数字をはじき出したのでしょうが、問題は数字そのものよりも、その目標をどう達成するかにほかなりません。『経済参考報』(2月8日)の報道によれば、例として、以下のような特徴が見られるようです。

・湖南省:一定規模以上の工業企業を1,000社以上、ハイテク企業を1,000社以上増やす

・安徽省:1億元以上の重点投資プロジェクトを2,600以上、竣工(しゅんこう)1,200以上に到達させる

・河南省:固定資産投資2兆8,000億元、うち1億元以上プロジェクトへの投資1兆8,000億元を目指す

 成長重視の2022年、私は投資が一つのカギを握ると見ています。多くの地方が固定資産投資の成長目標を上方修正していますが、インフラや不動産、都市開発などへの投資を官民が一体となって促していくのでしょう。

 消費も重要です。中国政府の統計によれば、2021年、内需の経済成長への貢献率は79.1%となり、前年よりも4.4ポイント増加したとのこと。上記の春節期間中の観光業に見られるように、「ゼロコロナ」は国民の消費活動にも目に見える影響を与えています。また、資源高や電力不足を含めた供給の制約に成長圧力を見いだす当局は、国民に対して、消費分野を含めた「節約」を促しています。

 節約と消費、節制と成長が必ずしも矛盾するわけではないのでしょうが、当局が国民に節約や節制を促し過ぎれば、当然、供給、需要両方に制約をもたらすわけで、難しいかじ取りとなるでしょう。2021年10-12月期は、皮肉にも外需が成長をけん引しています。

 2021年末の時点で、1人当たりのGDPが1万2,000ドルを突破し、世界平均を超えた可能性が高いというのが当局の公式見解です。また、常住人口の都市化率は64.7%に達し、2020年末よりも0.8ポイント伸びたとのこと。国民の所得や都市化率の向上が、いかに内需型の成長を促していくか。

 しかも、習近平(シー・ジンピン)政権が2060年に温暖化ガス排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルの実現を掲げるように、これからますます環境に配慮した産業政策、企業活動が前提になっていくでしょう。それらは経済成長そのものと矛盾しないのか。国民の経済活動は「グリーン」という新常態にうまくアジャスト(適応)できるのか。

 2022年度の経済成長も重要ですが、もう少し長く、広い目で、中国という強大経済がどう進行していくのかを眺め、忍耐強く付き合っていきたいものです。