先週は3つのサプライズがありました。2月3日(木)のECB(欧州中央銀行)のラガルド総裁のタカ派への豹変、同じく3日のイングランド銀行の政策委員9人の内4人の0.50%利上げ主張です。

サプライズ1:ラガルド総裁のタカ派への豹変

 3日のECB理事会では金融緩和策を維持し、政策金利は据え置かれましたが、1月のユーロ圏CPI(消費者物価指数)が前年比5.1%と歴史的な水準となったためか、ラガルド総裁は理事会後の会見で、これまで「一時的」としていた物価上昇を「想定していたよりも長く高止まりする」と指摘し、「インフレ見通しのリスクは上方向に傾いている」「全ての委員がインフレデータを懸念」と述べ、インフレへの警戒感を示しました。

 また、2022年中の利上げについて質問されると、「可能性は非常に低い」としてきたこれまでの発言を一転、「データ次第」と表現を変え、否定的な見解を示しませんでした。

 これら一連の発言は、ECBが早期利上げへの慎重姿勢から豹変した、とマーケットを驚かせました。ドイツ長期金利の上昇とともにユーロは一気に買われました。ユーロは1.12台後半から1.14台半ばまで上昇し、ユーロ/円は1ユーロ=129円台前半から131円台半ばへと2円超の急上昇となりました。

サプライズ2:イングランド銀行の4/9が0.50%利上げ主張

 同じく3日に開催されたBOE(英国イングランド銀行)の金融政策委員会(MPC)は政策金利を0.25%引き上げ、0.50%にすることを決定しました。

 この決定はマーケットの予想通りだったのですが、政策委員9人のうち4人が0.50%引き上げ、0.75%への利上げを主張したことが判明すると、マーケットは驚き、ポンド買いが優勢となりました。

 また、BOEは買い入れた債券の再投資をやめて保有資産を縮小する「量的引き締め(QT)」を始めることを決定したことも、金融引き締めに積極的と受け止められました。ポンドは1.35台半ばから1.36台前半に上昇し、ポンド/円は155円台半ばから156円台半ばへ、約1円上昇しました。

 このようにこれら2つのサプライズを受けて、ユーロやポンドは大きく反応しました。対円通貨の動きでみてみますと、ユーロ/円は2円超の上昇、ポンド/円は約1円の上昇となりました。

 しかし、ドル/円はユーロ/円、ポンド/円が上昇したにもかかわらず、対ユーロ(買い)、対ポンド(買い)のドル売りが影響し、114円台半ばから114円台後半へと、30銭ほど上昇しただけでした。

サプライズ3:米国雇用統計の大幅上方修正

 そして3つ目のサプライズは2月4日(金)の米国雇用統計です。NFP(米雇用統計の非農業部門雇用者数)が予想(12.5万人)を大きく上回る46.7万人と発表されたのです。さらにNFPの過去2カ月分も70.9万人と大幅に上方修正されました。

 11月分39.8万人の上方修正、12月分31.1万人の上方修正は、驚きの数字です。1月の雇用統計では例年通り新しい人口推計が用いられるため、昨年12月の数値とは連続性がありません。しかし、オミクロン株の感染拡大にもかかわらず、堅調な結果となりました。

 米雇用統計サプライズ後の反応はどうだったでしょうか。ドル/円が最も大きく反応しました。ドル/円は114円80銭台から115円半ばへと上昇したものの、ユーロ/円、ポンド/円はサプライズによって上昇した前日3日の高値を上抜けることができませんでした。

 米雇用統計のNFPは季節調整のモデル変更が影響していたとしても、賃金上昇も合わせ、FRB(米連邦準備制度理事会)の3月の0.50%利上げの見方を高めたようです。

 しかし、1月のタカ派寄りのFOMC(米連邦公開市場委員会)の後、一部のFOMCメンバーからタカ派姿勢がやや緩和された発言がみられたことから、雇用統計後にドル高・円安が一段と進んだ動きとはなっていません。

 今週10日(木)には米国CPIが発表されます。12月CPIは前年比+7.0%と39年ぶりの大幅な上昇率となりました。

 1月の予想はこれを超える予想となっていますが、織り込まれていることから相場はあまり反応しないのか、あるいは3月の0.50%利上げをさらに一歩近づけたとマーケットが反応するのかどうか注目です。

3サプライズに最も反応したのはユーロ/円

 このように3つのサプライズによって為替はそれぞれ反応したのですが、ユーロ/円が最も大きく反応したことからも、ラガルドECB総裁の豹変ぶりに対するマーケットのサプライズ度が分かります。

 しかし、1月のFOMC後に一部で迷走がみられたように、ECBもBOEも、今後の物価情勢や景気動向によっては、タカ派姿勢が修正されることも十分考えられます。

 特にECBは、ラガルド総裁がタカ派に豹変したというよりも、タカ派の圧力に屈したとの見方もあり、まだ早期の利上げについて1枚岩ではないかもしれません。ECB内のハト派が今後発言するかもしれないため注意が必要です。

 ECB、BOEの理事会後、ユーロ/円やポンド/円が上昇しましたが、FOMC後のドル/円が直後の上値をなかなか抜け切れないように、先週のユーロ/円、ポンド/円の高値水準が当面の高値圏となるかもしれません。

 今週のユーロ/円やポンド/円は上昇しても上値は限定的であり、下方への調整がどの程度あるのかを探る週になるかもしれません。ユーロ/円やポンド/円の円安の動きが限定的であれば、ドル/円の円安も伸びきらない可能性があります。

 ただ、米欧英の中央銀行は年が変わったとたん、一気にタカ派寄りにかじを切ったことには留意しておく必要があります。

 日銀の黒田総裁は1月の金融政策決定会合後の記者会見で「現在の緩和政策を変更することはまったく考えていない」と明言していることから、日銀だけが取り残されたかっこうとなっているため、じわじわと円安に効いてくるかもしれません。

 ECBの豹変でユーロが急騰したように、日銀の豹変で円急騰(円高)になるのはまだ先の話かもしれません。