ゴールドが三角もちあいを上方にブレイクし、1,000ドルを付けた。同時にドル安トレンドに拍車がかかっている。8月、9月と株の動きがやや鈍くなってきたので、投機筋がコモディティで仕掛けに出たと言われている。この動きと歩調を合わせるようにユーロ/ドルも三角保合をブレイクしており、秋相場が久々の大相場になるのではないかとファンド勢の期待が高まっている。

ドルインデックス(左)とゴールド先物(右)の日足


(出所:石原順、ブルームバーグ)

原油先物(左)とユーロ/ドル(右)の日足


(出所:石原順、ブルームバーグ)

これまでも述べてきたように、通貨をプリンティングしすぎているドルやポンドは需給的に売られやすくなっている。中央銀行のバランスシートが急激な資産増となっている通貨が買われることは常識的におかしいからだ。

リーマンショック後の昨年9月に、FRBは前人未踏の資金供給を行った。

米国(FRBのバランスシート)
 8,690億ドル=約81兆円(2008年8月8日)
  ↓
 2兆2,000億ドル=約204兆円(2009年8月26日)

日本(日本銀行のバランスシート)
 109兆円 (2008年8月10日)
  ↓
 118兆円 (2009年8月24日)

大増刷されているドルにくらべて、日本の資金供給はわずかなものである。この数字を単純に比較すれば、ファンダメンタルズからみた相場の大局は円高・ドル安であろう。

FRBによって供給されたジャブジャブの流動性が、現在資産バブルをもたらしているが、経済対策を何のためにやっているのかと言えば、究極は雇用(失業対策)のためである。しかし、バーナンキFRB議長も認めている通り、現在は「雇用なき景気回復」となっている。市場には「米国の高失業率が5年は続く」との観測もあり、出口政策をやるにしても、<過去の水準>と比べれば高水準の財政出動と超低金利の時代が長期化するだろう。表面的にはインフレ期待値の上昇を懸念している“ヘリコプター・ベン”バーナンキFRB議長がインフレ軽視であることを市場は見抜いている。一方、ECBのトリシェ総裁は、英FT紙で「通貨政策と財政政策は分離すべきだ。欧州中銀は原則を守り、国債買い取りをやっていない」と述べており、暗に米英を批判している。中央銀行に対する信任という意味ではECBのほうが上である。これがユーロ高の背景である。

このようなインフレ期待による相場が長続きするかどうかは疑問もある。現在、米国の銀行は本業である貸し出しが伸びず(不動産をはじめとする貸し渋り状況)、銀行の機能は決済機能と相場参戦だけである。時価会計棚上げの状況下で貸し出しが抑制されているため、行き場のない余剰資金が国債市場にむかっている。米国の長期金利を見る限り、現在はデフレと呼ぶにふさわしい。しかし、現在の経済状況は<2重構造>(インフレとデフレの共存)となっており、世界経済がインフレになるのかデフレになるのかについての明確な回答は誰も持っていない。

米国10年国債利回り(日足) 
2007~2009年とギャン・アングル


(出所:石原順、ブルームバーグ)

デフレの象徴である日本10年国債利回り (日足)
1988~2009年

 長期にわたる低金利 日本に出口政策はあるのか?


(出所:石原順、ブルームバーグ)

FRBによる<人為的なバブル政策>はこれまでは副作用もなくうまくワークしてきた。しかし、オバマ大統領の支持率が低下する中で、米議会が今後のバブル相場の命運を握ると言われており、先行きは不透明だ。

いつもそうだが、株が上昇(バブル)傾向にあるうちは負の問題は隠蔽されている。著名投資家ウォーレン・バフェット氏は「大量の金融特効薬が引き続き投与されており、遠からず副作用が出てくるだろう。今のところ副作用の大半は顕在化していないし、実際、潜伏期間は長いかもしれない。しかしながら、その脅威は金融危機自体と同じくらい不気味だ」(NYタイムズ)と述べている。

NYダウ(日足)と移動平均リボン


(出所:石原順、ブルームバーグ)

いずれにせよ、我々はこのような不確かなファンダメンタルズの下で、相場に参戦しなければならない。中・長期の見通しが不確かなうちは、<短期取引>と<相場技術>で乗り切るしかないだろう。

外為市場では日足ベースでみると、ユーロ/ドルに久々の買いトレンドが発生している。豪ドル/円などのクロス円はトレンドがない状況である。

ユーロ/ドル(日足)21日ボリンジャーバンドと14日ADX


(出所:石原順、楽天証券)

豪ドル/円(日足)21日ボリンジャーバンドと14日ADX


(出所:石原順、楽天証券)

時間足ベースでは、筆者の主力商品である豪ドル/円やユーロ/円にドレンドは出ていないが、ドル/円相場に下げトレンドが発生している。ADXの値も54まで上昇しており大きな相場に発展する可能性もある。

ドル/円(1時間)21時間ボリンジャーバンドと14時間ADX


(出所:石原順、楽天証券)

投資家は「現在、マーケットが何を相場のテーマとしているのか?」を知っておく必要がある。投資対象と分散投資に関わる重要な要素だからである。しかし、相場の実践(売買)では難しいことを考えても不安やストレスが増大するだけだ。

筆者は、
(1) 移動平均の傾きを確認する。(移動平均に傾きがないときはトレードしない)
(2) 相場が終値で21時間ボリンジャーバンドの1σをブレイクしたら、相場に参入する。
(3) 相場が終値で21時間ボリンジャーバンドの1σの内側に入ってしまったら手仕舞う。
  (利食いポイントは人それぞれ)
(4) (1)と(2)の条件を満たし、かつ14時間ADXが上昇している局面(緑の枠の部分)
のみ相場に参入する。

という売買手法を淡々と実行していくだけである。

豪ドル/円(1時間)21時間ボリンジャーバンドと14時間ADX

(1)と(2)の条件を満たしている局面(白い枠)
(4)の条件を満たしている局面(緑の枠)


(出所:石原順、楽天証券)

ユーロ/円(1時間)21時間ボリンジャーバンドと14時間ADX

(2)と(2)の条件を満たしている局面(白い枠)
(4)の条件を満たしている局面(緑の枠)


(出所:石原順、楽天証券)

「21時間ボリンジャーバンドの1σと14時間ADXを併用した順張りトレード手法」については、ネット勉強会「儲かる!?順張りトレード手法&当面の為替見通し」(2009年9月10日)をご覧ください。

円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2009年9月10日まで)

ドル/円およびクロス円市場は「円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する」という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間は円の売り放置やキャリー取引はリスクが高くなる。

豪ドル/円(左)とユーロ/円(右)の20日ATR


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ポンド/円(左)とドル/円(右)の20日ATR


(出所:石原順、ブルームバーグ)