NY原油先物が7年4カ月ぶりの水準まで上昇

 2月2日のニューヨーク原油市場で、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の先物価格が1バレル=89ドル台と7年4カ月ぶりの水準まで上昇した。

 WTIの先物価格は12月のオミクロン株騒動で62ドル台まで下落していたが、環境問題という全体主義(グリーンフレーション)が高まるなかで、世界的に供給が回復していない背景を受けてじわじわと上昇を続けている。

 ここ数年の原油相場は最もトレンドフォロー(順張り取引)に向いている商品と言えるだろう。楽天証券ではNY原油のCFD(USOIL)の取引が少額から可能である。ゴールドや暗号資産がインフレヘッジの役割をはたしていない現状の中で、原油をポートフォリオに組み入れているファンドは多い。

NY原油CFD(日足)

(赤↑:買いシグナル・黄↓:売りシグナル)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 昨年、JPモルガンNYは、コモディティにおける長期のダウンサイクルは終わり、新たなコモディティの上昇、特に原油の上昇サイクルが始まったと指摘している。世界は次のコモディティの「スーパーサイクル」に突入したという大胆な予測だ。

 ゼロヘッジの記事「Kolanovic: A New Commodity Supercycle Has Begun(コラノヴィッチ:新しいコモディティスーパーサイクルが始まった)」によると、過去100年間で、一般的に4回のコモディティスーパーサイクルがあったと言われている。

 前回の1つは1996年に始まった。そのスーパーサイクルは2008年(拡大の12年後)にピークを迎え、2020年(12年の収縮後)に底を打ち、おそらく新しいスーパーサイクルの上昇局面に入ったとする見方である。

原油のスーパーサイクル

出所:ゼロヘッジ

 S&P500と原油価格を比較すると、原油価格は依然として割安な水準にあると言える。以下のS&P500/原油指数がパンデミック前の2018年の水準まで戻るとなると、今後、S&P500種指数が調整するか、あるいは原油価格がさらに上昇するかのどちらかとなる。

S&P500/原油指数

出所:DataTreck

米国株は十分に下げてはいない!?

 投資家が疑問に思っているのは、年明けの下落が一服したかどうかだ。現在のウォール街の雄と呼ばれるブラックロックのストラテジスト、ウェイ・リ、アレックス・ブレイジャー、ベアタ・ハラシム、ナタリー・ギルは、顧客向けリポートで「金利上昇を考慮すれば、バリュエーションを理由に投資判断を引き上げるほど、十分に下げてはいないと考える」と説明した。

 2月2日のCNNマネーの恐怖と欲望指数は「35」と、さほど上りも下がりもしないという「中途半端な恐怖」の相場が続いている。

恐怖と欲望指数 2022年2月2日

出所:CNNマネー

恐怖と欲望指数の推移(2019~2022年)

出所:CNNマネー

 逆張り派もCNNマネーの恐怖と欲望指数が「20」あたりまで低下するまでは、押し目買いをためらっているという。

 より大きな下落が始まるのか、それともここで踏みとどまるのか…。企業業績が悪くなくてもネットフリックス、ペイパル、メタのように急落するパターンが増えている。投資家は佳境を迎えつつある企業の決算発表を祈る思いで確認しているだろう。

 利上げや金融引き締めに対する懸念が株価を押し下げ、さらに下落した株価が懸念を高めるループに入っている。

 好調な決算を受けても売られる背景として、投資家が「将来の業績に対するサプライズ要因が以前より小さくなっている」ことを懸念しているとの報道もあるが、先行きの不透明感が高まる中、利益の出ている投資家は今のうちにと売りを先行させているのだろう。

FRBはタカ派どころか、相当緩い政策を放置する方針のようだ

 FOMC(米連邦公開市場委員会)でインフレ懸念が増大し株価が急落したことに焦ったのか、1月31日に米金融当局者の火消し発言が出てきた。

「景気支援策は「慎重に」解除すべきだ」(カンザスシティー連銀総裁)、(漸進的に行う必要があり混乱を招いてはならない)(SF連銀総裁)など、利上げに慎重な発言が飛び出した。

 2月1日には、米国債券市場に影響力を持つ米セントルイス連銀のブラード総裁が、「3月の0.5%の利上げはわれわれの助けにならないと思う。少なくとも現時点で考える限り助けにはならない」と発言している。

 今年のFOMCで投票権を持つカンザスシティー連銀のジョージ総裁は、「比較的急勾配の利上げの道筋と比較的緩やかなバランスシート圧縮を組み合わせた場合、イールドカーブ(利回り曲線)はフラット化し、特にコミュニティーバンクなどの民間部門の金融仲介のインセンティブをゆがめる恐れがある」と語った。

米国のイールドカーブ(3カ月~30年の利回り曲線)2022年1月31日現在

出所:ストックチャーツ

 米金融当局者の消極的な利上げ姿勢を聞いて株式市場は安堵(あんど)したようだ。一方で、利上げ観測に前のめりになっていたFXの市場ではドルが売られる動きになっている。

ナスダック100CFD(日足)

(赤↑:買いシグナル・黄↓:売りシグナル)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

ドル/円(日足)

(赤↑:買いシグナル・黄↓:売りシグナル)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

ユーロ/ドル(日足)

(赤↑:買いシグナル・黄↓:売りシグナル)
出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 FRB(米連邦準備制度理事会)はタカ派どころか、相当緩い政策を放置する方針のようだ。FRBが話しているのは、やや緩やかな金融政策である。緩いというのは引き締めではない。「物価の番人」ではなく「株価の番人」として政策を推進してきたグリーンスパン以降のFRBの方針を継続している。

インフレは「隠れた税金」!市場の大騒ぎが始まる?

 FRBは何年も前からインフレについてうそをついていた。1980年代にFRBがCPI(消費者物価指数)インフレ率の測定に使用していた加重方法を現在も使用していたとしたら、米国のCPIインフレ率は報道されている7%ではなく、15%に近い値になる。

米国のCPI(消費者物価指数)2022年1月12日現在

出所:ShadowStats

 物価が上がっている要因は、中銀による資金量の増加、政府介入の増加(これが供給網の問題やさまざまな行き詰まりの一因となっている)、ESG(環境・社会・企業統治)の狂気、人々が働かないようにするための給付金の支給、その結果としての労働力の不足、巨額の財政赤字、貿易の禁止などだ。

 米国が7%のインフレになっているにもかかわらず、物価の番人であるFRBはマイナス6%という大幅な実質マイナス金利を続けながらのんきなことを言っている。それに対して、ケンタッキー州の共和党上院議員ランド・ポールは先週、インフレの進行とそれが中低所得家庭や中小企業に及ぼす厄介な影響に関する厳しい報告書を発表した。

 上院の中小企業・起業家委員会の委員を務めるポールは、「隠れた税金」と題した18ページの報告書の中で、消費者物価の7%上昇(40年ぶりの高値)を「議会による過剰なコロナウイルス救済支出」のせいだと非難している。ポールはまた物価の上昇は 「さらにひどくなる一方だ 」と警告している。

 ジョー・バイデンは、食料を含むアメリカ人が生きていくために必要なあらゆるものの価格が上昇し、急速に「インフレ大統領」として知られるようになった。

米国のインフレーション

出所:ヴィジュアルキャピタリスト

 先日、GMOのジェレミー・グランサムは、『市場の大騒ぎが始まる(終了間近の)第一次米国バブルの祭典:住宅、株式、債券、コモディティ』というレポートでFRBの金融政策を批判した。以下はその抜粋である。

「FRBは何を学んできたのだろうか。全く何もない、あるいはそのように見えるだろう。無能を許し、忘れ、明白な不正行為さえも罰することができないのだ。(人口30万人のアイスランドは26人の銀行家を刑務所に送ったが、人口3億人の米国はゼロだ。ゼロ!)」

「バブル後期の最も重要かつ最も定義しにくい性質は、狂気の投資家行動という触発的な特徴にある。しかし、この2年半の間に、特にミーム株、EV関連株、暗号通貨、NFTなどで2000年をも上回るほどのクレイジーな投資家行動が見られたことは間違いないだろう」

「これまで米国では25年間に3つの大きな資産バブルが発生しており、これは通常よりはるかに多い。これは決して不運な出来事ではなく、むしろボルカー政権以降のハト派的なFRBのボスがもたらした直接的な結果であると考えている」

「一体なぜFRBはこうした出来事を許しただけでなく、実際に奨励し、促進する必要があったのかを問うには良い機会である。事実、彼らは資産バブルを「理解」していなかったし、今日もそうであるように見える」

「当時も今も私が危険なほど無能だと考えているアラン・グリーンスパンは、1990年代後半に当時、米国史上最大の株式バブルの形成にチアリーダーとして参加し、その代償を支払ったことは有名である」

「日本の事例では、一つのことが明確になった:株式バブルは危険だが、価値の喪失は、富の効果によってショックを引き起こし、コントロールできなくなる可能性があるからだ、そしてそれは1929年以降の低迷の理由の一部であった、住宅バブルはもっと危険であり、その両方が同時に発生するのはもっと危険である。日本における二重のバブルの経済的帰結は、間違いなく今も続いている。図表1は、株式市場も土地も1989年のピークをまだ回復していないことを示している!」

図表1 日経平均株価と日本の都市部の商業用不動産、1980年から今日まで

出所:ゼロヘッジ

(出所:『市場の大騒ぎが始まる (終了間近の)第一次米国バブルの祭典:住宅、株式、債券、コモディティ』(ジェレミー・グランサム))

 バイデン大統領が指名した新しいFRBの副議長・理事候補3氏は、「バイデン氏が最近理事に指名した人々は、本来FRBの仕事ではない進歩派の政策推進を優先し、物価のことはそれほど気にかけていないように思われる」(ウォールストリートジャーナル)と報道されているように、環境問題や社会問題の専門家である。

 グリーンフレーションは続くだろう。いずれにせよ、この政権は単に能力がないだけなので、物価はすぐには下がらないと思われる。

2月2日のラジオNIKKEI『楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー』

 2月2日のラジオNIKKEI『楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー』は、武田則孝さん(楽天証券FXディーリング部)をゲストにお招きして、「FRBは小幅な利上げでマイナス実質金利を維持。タカ派どころか相当緩い?」・「こんな小刻みな利上げでグリーンフレーションは止まるのか?」・「火炎に注ぐ油の量を減らすだけの金融政策、後手に回った先にあるのは…」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。

出所:YouTube
出所:YouTube
出所:YouTube
出所:YouTube

 ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。

2月2日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

出所:YouTube