政策総動員の効果で景気指標や企業業績は多少改善しているが、株価はそれ以上に買われてしまっている。それが現在の相場の足踏みの理由であろう。現在の相場は「業績相場」ではなく「金融相場」(不景気の株高)である。したがって、各国の中央銀行、とりわけ世界の中央銀行とも言えるFRBの政策が相場の将来を決めていくのである。現在、FRBがジャブジャブの「需給相場」をいつまで続けるのか、この先の金融引き締めがどのような時間軸で行われるか(金融緩和サイクルはいつ終わるのか)という問題がファンドマネジャーの間で議論の的となっている。

金融緩和を背景にした過剰流動性相場の胴元であるFRBの総資産は、リーマンショック後の不良債権の買い取りによって昨年の9月に急拡大し、80兆円から220兆円と2倍以上になった。それ以外にFRBは簿外で500兆円規模の保証勘定を持っており、現在700兆円規模の流動性を供給している。この歴史上類をみない過剰流動性が世界的なバブル相場を演出しているわけであるが、8月のFOMCでFRBが3000億ドル規模の長期米国債購入プログラムを10月で終了すると発表したころから株価の上値は重くなってきている。量的緩和を徐々に後退させていくと、反動の「逆金融相場」が到来する(おそらく簡単には業績相場に移行しない)可能性が大きいので、出口政策は相当難しい舵取りとなるだろう。

FRBの流動性供給プログラムは、日本が得意とする「資産」と「負債」の両方を膨らまして景気を押し上げる手法であるが、言い換えれば借金バブルであり負債の先送りである。FRBのかかえる負債をいつまでロールオーバーできるかを不安視する声もある。しかし、時価会計が棚上げとなっている現在、巨額の含み損の先送りは可能である。ただし、時価評価をしない(損切りをしない)金融機関の利益の計上などなんの意味もない。いずれツケが廻ってくるだろう。

現在の金融相場は「資産」と「負債」の両建てである。現在、ありあまるマネーに焦点を当てるか、その裏にある負債に焦点を当てるかによって、この先の相場観がはっきり分かれてきている。

著名投資家であるポール・チューダー・ジョーンズ氏のチューダーファンドは、8月3日付の顧客向け書簡で「米国株高を弱気相場の中での上昇だと指摘。家計所得の弱い伸びなどを理由に、株高が継続する可能性は疑問だとした」(ブルームバーグ)と報道されている。一方、ゴールドマンのシニア投資ストラテジスト、アビー・ジョセフ・コーエン氏は8月17日、ブルームバーグラジオのインタビューで、「米リセッションは“今、終息しつつある”との見解を示したほか、2010年の米成長率を2%と予想。モルガン・スタンレーのエコノミストらは過去1カ月で09年7-9月期の成長率見通しを引き上げて年率4.8%としている」(ブルームバーグ)といった報道にあるように、金融機関は軒並み強気の見通しである。一体、どちらが正しいのであろうか?

市場の一部で噂されているようにFRBの量的緩和からの脱却=金融正常化(金利の引き上げではない)が2010年初頭に行われるなら、チューダー氏のシナリオが実現する可能性の方が高いだろう。米国の2010年の米国のGDPの伸び率は強気なストラテジストは2%、弱気なストラテジスト1%と予測している。日本やユーロ圏は1%以下がコンセンサスとなっている。このような低成長下で株が大幅に上昇するには、FRBの資産をさらに拡大させなければならないが、出口戦略うんぬんが議論されている現状ではそのようなシナリオは描けない。リーマンショック後の政策総動員の効果は10-12月期には薄れてくるだろう。おそらく10-12月期がバブル相場持続の正念場となるのではないだろうか?

筆者の観測では、FRBはそう簡単には出口戦略などとれないとみている。中央銀行に失敗は許されないからだ。FRBの総資産が220兆円となり腰を抜かしている筆者であるが、ゴールドマンサックスの米国担当主任エコノミストであるジャン・ハッチウス氏は「FRBのバランスシートが4兆ドル(約380兆円)規模まで膨張することは可能性としてある」(ブルームバーグ)と発言している。このようなことが実現するには、株が急落し米銀が1000行くらい破綻するなどの大義名分が必要だが、いずれにせよ、実体経済の不況は長いトンネルとなりそうだ。

バブル相場の最もおいしい半年間は8月で終わった。これからの相場は不確実性が増していくだろう。思惑がはずれると大きな損失を被る時間帯に入っている。したがって、過剰な思い込みを排除して、相場についていくというスタンスをとりたい。

筆者が相場についていく具体的な方法は、9月10日のネット勉強会「「儲かる!?順張りトレード手法&当面の為替見通し」で、より詳細に説明する予定だが、「21時間ボリンジャーバンドの1σ+14時間ADXを併用した順張りトレード」手法である。この手法は筆者が考案し、筆者の周辺の20人以上の職業トレーダーが実践しているが、最も手堅くケガの少ない売買手法だ。なにより、相場から受けるストレスが小さい。

豪ドル/円(1時間足)

21時間ボリンジャーバンドの1σと14時間ADXを併用した順張りトレード


(出所:石原順、楽天証券)

これまで何度か紹介している通り、売買手法は簡単である。

  • (1)移動平均の傾きを確認する(移動平均に傾きがないときはトレードしない)
  • (2)相場が終値で21時間ボリンジャーバンドの1σをブレイクしたら、相場に参入する。
  • (3)相場が終値で21時間ボリンジャーバンドの1σの内側に入ってしまったら手仕舞う。
    (利食いポイントは人それぞれ)

さらに収益の確率を上げる(石橋を叩いて渡る)には、

(1)と(2)の条件を満たし、かつ14時間ADXが上昇している局面(黄色の枠の部分)のみ相場に参入する。

1時間足は売り・買いとも収益機会が多く、筆者は少なくともこの手法でひたすら機械的に売買することでこれまでは収益を上げてきた。(決して将来の収益を保証するものではありません)1σの中に相場が入ってしまえば、必ず手仕舞うので損失も限定的である。上記の手法は、(バブル相場の最もおいしい半年間のあとの)今後の不確実性相場で生き残って行くには最も手堅い売買手法であると筆者は信じている。

ドル/円相場は現在、トレンド形成期に入っている。久々に14日ADXと26日標準偏差ボラティリティが上昇しており、円高トレンドが発生している。2月から3月に大相場をやってから、ドル/円相場は久しく大きなトレンドが出ていない。この9月相場が大円高相場になるのか注目されるこころだ。市場では7月安値の91円70銭を下回ると円高が加速するとの見方が多く、ストップ注文が集中しているので注意したい。

ドル/円(日足) 14日ADXと26日標準偏差ボラティリティの推移

3月以来の大きなトレンドは発生するのか?


(出所:石原順、ブルームバーグ)

また、歴史的に9月は米国株のパフォーマンスがさえない月であること、ファンドの解約が9月は大きいといわれていることも考慮する必要がある。これらはいずれも円高要因だ。そして、本日は「相場のノイズ」と呼ばれ“ダマシ”相場の続いている米雇用統計の発表がある。数字によって相場が短期的に大きく振れるのでリスク管理に気を配りたい。

NYダウの9月(↑)の月足 1999年~2009年


(出所:石原順、ブルームバーグ)

円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2009年9月3日まで)

ドル/円およびクロス円市場は「円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する」という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間は円の売り放置やキャリー取引はリスクが高くなる。

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)