1月のドル/円は、月の始値と終値がほぼ同じ水準の同時線になりました。しかも上ひげも下ひげも長い十字線の同時線です。同時線の動きとは、月中に円安にも円高にも動いたが、月が終わると、ほぼ月初と同じ水準でその月を終えた動きのことです。

 具体的にいうと、筆者自身の参考値ですが、1月は1ドル=115.14円で始まり、年末からのFRB(米連邦準備制度理事会)の金融引き締め期待によって116.35円まで円安に動いたが、株は引き締めを嫌気し調整が進み、株安を背景に年末年始に積み上げた円売りポジションが調整され113.47円まで下落(円高)。

 その後1月25~26日のFOMC(米連邦公開市場委員会)を控え、再び円安となり、FOMCの結果を受けて115円台に上昇し、115.16円で1月を終えたということになります。

同時線は相場の「仕切り直し」

 1月が同時線で終えたということは、「仕切り直し」ということになります。同時線は円安の力と円高の力が拮抗(きっこう)しているということを意味しますので、今後、円安あるいは円高のどちらの方向にも動く可能性があるということを暗示しています。

 つまり、FRBの金融緩和正常化の期待が高まり、今年1月に入って116円台まで上昇したドル/円は、FOMC前にポジション調整が起こって113円台に下落した後、予想以上のタカ派色の強い発表後も116円台を上抜くことができず、次の方向を探るためにスタンバイしているという状況になっているということになります。

インフレ退治の強いメッセージ

 1月25~26日のFOMCでは、かなりタカ派色の強い決定や発言がありました。政策金利は据え置かれましたが、声明文で政策金利を、「まもなく引き上げるのが適切だ」と表明し、3月前半のテーパリング終了と3月中の利上げについて明確なシグナルを出しました。

 また、利上げ開始後にバランスシート縮小を始めると明示することで、今後の金融政策の不透明感を払拭(ふっしょく)しました。

 声明文は想定通りとマーケットは受け止めました。また、次回の会合で0.50%の利上げの可能性や、事前に予想されたテーパリングをさらに早めることや、QT(量的引き締め)に関する言及はなかったことから、株式市場はこれを好感しましたが、しかし、その後のパウエルFRB議長の記者会見中に、株はマイナスに転じました。

 その理由は、パウエル議長が記者から全会合での利上げの可能性を問われたが否定しなかったことや、また、保有資産の縮小ペースが前回より速くなるとの見通しを語るなど、想定以上にタカ派的だったことなどです。

 しかし、パウエル議長の発言は、FRBがインフレに対して後手に回ることへの警戒感を和らげるためと思われ、インフレを全力で抑えるとのメッセージを一気にマーケットに刷り込んだ感があります。

 発言直後のショックは大きく、株は下落となりましたが、1月の決定や発言はインフレ懸念後退という形で徐々にマーケットに前向きに捉えられ、効いてくることも想定されます。

 実際、NYダウ(ダウ工業株30種平均)とS&P500はFOMCのあった週間では上昇しました。今後、賃金などインフレ指標が出るたびに(4日の米雇用統計に注目)、株がマイナスにぶれることがあっても、徐々にこれまでの下落を取り返す動きがみられるかもしれません。金利は上昇しても株が上昇するなら、ドル/円やクロス円も再び円安方向に動くかもしれません。

 しかし、米国のインフレ減退の指標や景気減速の指標が出た時には注意する必要があります。

 1月のFOMCでは目一杯のタカ派色を出したため、指標によってはこのタカ派色が弱まるのではないかとの疑念が出てくるかもしれません。実際に、FOMC後に一部のFRBメンバーから少し態度を軟化させた発言もみられています。

 1月14日に発表された12月米小売売上高は予想以上の悪化となりました(▲1.9%)。この数字は景気の風向きが変わってきていることを示しているのかもしれません。

 3月に0.5%の利上げとの見方も浮上していますが、FOMCまでの経済指標が強くなければ金融正常化の風の強さが弱まることも想定されます。そうなれば、円安の力も弱まる可能性があります。

弱い米国1-3月期GDP予想

 ゴールドマン・サックスは、1月31日、2022年のGDP(国内総生産)見通しを3.8%から3.2%に引き下げました。財政支援策が削減され、新型コロナウイルスのオミクロン変異株による感染拡大が重しとなる中、米経済成長は年初に急減速する可能性が高いとの見通しです。

 1-3月期GDP予想も、年率で+0.5%と従来の+2.0%から下方修正しました。

 感染拡大の影響を受けやすいサービスへの支出が12月上旬から急激に減少しているためとの説明ですが、かなり大きい下方修正となっています。ただ、オミクロン株の感染拡大からの回復は早いだろうとの予想もしています。

 同じように速報性でマーケットが注目しているアトランタ連銀のGDPナウは、1月28日時点で、1-3月期は+0.1%を予測しており、ゴールドマンより弱気でみています。

 FOMC後のドル/円の動きが116円台に上昇せず、115円割れとなっているのは、FRBのインフレを全力で抑えるとのメッセージをマーケットがいまだ消化しきれていないのか、あるいは、金融引き締めが景気を下押しさせるのではないかとの警戒感、あるいは景気減速の兆(きざ)しによってFRBがタカ派色を弱めるのではないかとの気迷いがマーケットに漂っているのかもしれません。

 2月のドル/円は一本調子のドル高・円安が続くのではなく、ウクライナ情勢への警戒感が続く中、3月のFOMC(15~16日)への期待と思惑が交錯する展開となりそうです(2月は、FOMCは開催されません)。